モチベーションをアップしたいとき

高い目標の達成は小さな改善の積み重ねから

社会人として仕事を始めたならば、何か大きな目標を目指したなんとかそれを達成したいものです。

そして、その目標の達成に向けた日々の行動が、自分に充実感をもたらすことも確かだと思います。

以前のブログでは、一流アスリートが高い目標に向け、どのように取り組んだかを、柔道家山下泰裕氏、ゴルフプレーヤーの青木功氏の講演から紹介しました。

では、具体的に、高い目標をセットしたうえで、どのように取り組むことで、大きな目標を達しすることが可能となるのでしょうか。

マシュー・サイド氏は、その著書「失敗の科学」で、高い目標の達成には「小さな改善の積み重ね」が重要であると書いています。

私も、ある会社の社長に就任した時に、経営改革に取り組みましたが、その中で、10年先の会社のあるべき姿を達成するうえでは、毎年の目標設定とその達成の積み重ねが大切であることを学びました。

今回は、マシュー・サンド氏の著作と私の社長としての経験から「大きな目標達成するためには小さな改善の積み重ねが大切」について紹介します。

小さな改善、大きな飛躍-ツールドフランスでの優勝を導いた行動

マシュー氏は、その著作「失敗の科学」の中で、世界の自転車のロードレースで最高峰といわれる「ツールドフランス」に挑んだイギリスのチーム「チームスカイ」を事例に挙げて、大きな目標達成の秘訣について書いています。

チームスカイは、ゼネラルマネージャーのデイブ・ブレイルスフォードにひきいられていました。

そして、彼の指導を得て数年後、チームは2012年のロードレースで、大会開始以来一度も優勝者を出したことのないイギリスに初めて優勝者をもたらしました。

ここでは、マシュー氏が、チームに随行し、ブレイルスフォード氏から聞いた話をもとに、大きな目標達成には小さな改善の積み重ねが大切であることを示している一節を紹介します。

 どうしてこんなことが起こったのか? ブレイルスフォードはいったいどうやって、トラックレースのみならずロードレースまでも制したのか?

私はチームバスを見学したあと、チームが滞在していた小さなホテルで夕食をともにした際、ブレイルスフォードに直接その質問をぶつけてみた。

「小さな改善(マージナルゲイン)の積み重ねですよ」彼の答えは明快だった。「大きなゴールを小さく分解して、一つひとつ改善して積み重ねていけば、大きく前進できるんです」

 実にシンプルな答えだが、この「マージナルゲイン」というアプローチは、今やスポーツ界に限らずさまざまな分野で注目を浴びている

(マシュー・サイド著、有枝 春訳 失敗の科学)

マシュー氏はさらに、ブレイルスフォードの言葉を引用しています。

 自転車競技と国際開発はまったく別の分野だ。しかしブレイルスフォードは先駆者として、同じアプローチで成功を収めた。

彼は言う。「壮大な戦略を立てても、それだけでは何の意味もないと早いうちに気づきました。もっと小さなレベルで、何が有効で何がそうでないかを見極めることが必要です。たとえそれぞれのステップは小さくても積み重なれば驚くほど大きくなります」

(マシュー・サイド著、有枝 春訳 失敗の科学)

高い目標の達成は、毎年の業績チェックから

私が土木建築関係のコンサルティング会社の社長に就任し、業績の回復と持続的な成長を目指し、経営改革を進めていたときの経験です。

社長就任時、会社の業績は停滞し、今後は売り上げの減少が見込まれる状況でした。

このため、まずは会社の業績を回復し、さらに成長軌道に乗せるため、方策を立て、実行することが喫緊の課題でした。

社員にそのことを理解してもらうために、まず実施したのが、10年後に会社がどうあるべきかその姿を明確にすることでした。そのあるべき姿を実現するために、10年後に達成すべき高い目標を定めました。

その目標に向かい、いろいろ方策を高じたことで、2年後に会社の収支は改善傾向が見えるようになりました。

しかし、その後の展開を考えると、これまでの2年間の改善傾向が続くか、懸念されました。このため、10年後の目標を達成に向けては、さらなる取り組みを行う必要がありました。

そこで、採用した手立てが、マシュー氏の「失敗の科学」から引用した一節“高い目標を達成するためには、小さな改善の積み重ね”と同じ考え方でした。

会社の10年先の目標を見据え、各事業本部が毎年度その年に達成すべき目標を定め、その目標が達成状況を年度末に評価し、毎年度の実績を積み上げて、高い目標を目指すことにしました。

そのときに、取った手立ての手順は、以下の通りです。参考にブレイルスフォード氏の言葉(太字)との関係を書き加えました。

(1)10年後に達成すべき会社としての理想の姿を明らかにし、その姿が見える形として、 具体的な目標を設定→これだけでは壮大な戦略を立てただけ

(2)10年後の理想の姿と現状の姿の乖離具合を明らかにし、達成するための課題を明確化

(3)課題ごとに解決すべき項目を立て、10年後の目標達成のため、いつまでに解決するかを明確にする

(4)課題の項目ごとに、10年間の年度ごとに目標を設定する。→小さなレベルに分解

(5)各年度末に年度当初に設定した目標に対する達成状況を評価→何が有効かを見極める

(6)未達の項目については、次年度以降にどのように対処すればよいか検討し、次年度以降の目標に再設定

(7)各年度の活動を繰り返していくことで、10年後の目標を達成→小さなステップでも積み重ねることが必要

このように、年度ごとの実績を積み上げていく方策を社員に理解させ、実行していく中で、いくつかのメリットが明確になりました。

① 高い目標を立てるだけでは、目の前にある課題に力がそそがれ、長期的な視点での取り組みができません。しかし、年度ごとに目標を設定してあることで、着実に高い目標に向けた行動を取ることが可能になりました。

② 年度ごとに目標の達成状況を把握しうることで、高い目標までの道筋の、どこに社員が今立っているか、社員一人ひとりの立ち位置が明確になりました。

③ 立ち位置が明確になることで、社員の仕事への取り組み姿勢が前向きとなり、且つ充実感を得ることが可能

実績を積み上げていくことで、5年経過した時点で、10年後の目標に向かいつつあることが確認できました。

一方で、社員の目標に向けた仕事に立ち向かう姿勢の中に、やりがいと達成感が芽生え始めたことが、この経営改革を持続するうえでの何よりの収穫でした。

まとめ

 会社ばかりでなく、個人的にも、持続的な成長を目指すうえでは、高い目標を立て、その目標に向かって邁進していくことが重要かと思います。

しかし、ただ漠然と努力しているだけでは、なかなかに高い目標を達成することは難しく、また、やる気も続かないのではと思います。

マシュー・サイド氏の著作「失敗の科学」で紹介した。イギリスのロードレースチームのゼネラルマネージャーの言葉がその解決策となると思います。

また、高い目標に向かい、一歩、一歩、確実に実績を積み上げていく過程では、仕事への充実感が増していきます。そして、高い目標を達成したときには、大きな達成感を得ることができると思います。