モチベーションをアップしたいとき

後で後悔するなら実行すべき

今回の俳句は、この秋に神奈川県、葉山に出かけてときの夕日が沈んでいく時の光景を 題材にしました。

朧(おぼろげ)げな 富士を抱きて 秋茜

さて、本題です。

何か責任をもって大事なプロジェクトを進めているときなど、難題に出会い、リスクを背負ってまずはやってみるか、もしくは、リスクを冒さず撤退してしまうか、迷ってしまうことを経験した人は多いことと思います。

では、どちらの道を選ぶことが、将来的に自分にとって良い結果をもたらすのでしょうか。

作家、堂場瞬一氏は警察小説の作品の中で、主人公が殺人犯人の捜査に行き詰っているときの心理状態を描いています。

組織として認められない可能性のある解決方策を考え出し、それを実行するか悩んだときに、後で後悔するくらいならやってしまった方が良いと判断し、果敢に挑戦する姿を描いています。

私も、長い会社生活の中で、リスクのある方策を取るか取らないか悩むことがいろいろな場面でありました。そのようなときは、前に進むことを選択することで、問題が解決し、達成感を強く感じたことが多くありました。

今回は、堂場瞬一氏の作品と私の経験から「後で後悔するならやってしまったほうが良い」について紹介します。 

後悔するならやった方がまし

小説「闇夜」は堂場瞬一氏の警視庁失踪課高城賢吾シリーズの一冊です。

このシリーズは、娘が8歳のときに失踪し、犯人が見つからないまま10数年を、失意のうちに過ごしながら、娘と同じように失踪した人を探し出す任務を負う失踪課で、複雑な失踪事件を追いかける刑事、高城賢吾の物語です。

今回の一冊は、少女が強姦される事件が連続して発生する事件が、東京の世田谷で発生することで始まります。

最初の少女の捜査願いが出されたことから、高城が所属する失踪課が担当することになりました。結局、その少女は殺害され、その事件の捜査が遅々として進まない中、同様な少女の失踪事件が発生しました。

2件目の少女は、何とか自分で近傍の交番に助けを求めましたが、精神的なストレスが強く、両親は警察の事情徴収を強硬に拒み続けました。

そのような中、何とか解決の糸口を見つけようとする高城は、その少女からの供述が必須と考え、民間団体である犯罪者被害者の会の責任者、伊藤の支援を受けることにしました。

その方針を、捜査の責任者である警視庁の捜査一課の中澤係長に話しますが、民間を捜査に使うことに抵抗を示します。

ここで紹介する一節は、何とか現状を打破したいと考える高城と、一歩引き気味の中澤がその方針を巡って意見を戦わす場面です。

 午後遅く、私たちは世田谷南署に集合した。中澤の姿もある。彼は、私が勝手に民間人の協力を得ようとしていることに、初めは激怒した。しかし「警察は何も結果を出していないではないか」と指摘すると、黙り込んでしまった。

———-

(高城)「何だったら、お前はまったく知らなかったことにしておいてもいい。ばれたら俺の責任にすればいいんだよ」

(中澤)「そこまで無責任じゃないですよ。私は」噛みつきそうな勢いで中澤が言った。

(伊藤)「ええと、ちょっとよろしいかな」またヒートアップしそうな私たちの言い合いに、伊藤が割って入った。「今回の件は、私が強引に頼み込んで、ご両親に面会したことにしておいていただけるかな。—–我々が自主的に動いても、あんたたちの上司は怒らないはずだよ」

中澤は黙り込んだが、しばらくして、結局うなずいた。伊藤が全責任を負う、と言っているようなものであり、ようやくそれに賭ける気になったようだ。

中澤が立ち上がり、廊下に向けて顎をしゃくった。私は黙って彼の後につき従い、廊下に出た。殴りかかってくるのではないかと一瞬身構えたが、彼は振り返ると溜息をついて、 短い忠告を投げてきただけだった。

「頼むから無茶をしないで下さい」

「何かしないと、この局面は打破できないだろう」

「それは分かりますけど、限界がありますよ」

「後で考えてみれば、それが限界じゃなかったことが分かるんだ」

「往々にして、やり過ぎだと分かる場合もありますけどね」

私は肩をすくめた。こいつは引き過ぎている。どうせ後悔するなら、やらないよりはやった方がいいではないか。何かあった時には、責任を取るために管理職がいるのだし―――私も管理職の一人ではあるが。

(堂場瞬一 闇夜 警視庁失踪課 高城賢吾)

 

リスクを評価し前に進むことを選択

 これまでも何回か紹介した、私が土木建築関係のコンサルティング会社で社長を務めていたときの経験です。

その当時、海外事業は会社にとって、今後の会社経営の柱となるように事業拡大を目指していた分野でした。

中東地域のある国で、発電所の設計コンサルティングを受注し、本格的な仕事に入ろうとした矢先に、その国でテロ事件が発生してしまいました。全国規模で治安が不安定化する中、

そのプロジェクトを推進すべきか撤退すべきかの議論が東京の方で始まりました。

会社は、ある大手会社の子会社であり、親会社からの意見に従うことがこれまでの慣例となっていました。

そのときも、親会社からは、危険が迫っている中、そのプロジェクトを中断し、撤退すべきという意見が強くありました。

しかし、撤退した場合には、その国の関係者からの信頼は失せ、また、国内の国際協力事業団などからの信頼もなくなり、その後の会社の海外事業の推進が危ぶまれる事態も想定されました。

このため、親会社からの意見については、すぐに対応することはせず、その国の事態の推移をみること、また、安全確保として取り得る手立てを短時間のうちに構築しました。

その結果、リスクを100%なくすことは不可能であるものの、対応をしっかりすれば、事業の継続は可能と判断しました。

親会社に対しては、その点を強調して説明し、さらに、プロジェクト方の撤退条件を再度確認したうえで事業を推進する了解を得ました。

その後、プロジェクトから離れた地域でテロは発生していましたが、プロジェクトに影響することはなく、プロジェクトを推進することができました。

撤退することなくプロジェクトを進めたことに対し、その国の関係者から危機時における対応を評価されるとともに、日本の国際関係機関からの信頼も増し、その後の会社の事業拡大に良い影響を与えてくれました。

もし、あの時に、親会社の意見を聞き、即座に撤退していた場合には、その国でのプロジェクトの獲得はもちろんのこと、国際協力事業団に関わるプロジェクトの受注にも悪影響を及ぼしたものと思われます。

やはり、難局に直面したときには、後に後悔することのないように、前に進むことで道が開かれることを実感した経験でした。

また、堂場氏が、その作品の中で言っている通り、最後に何かあった時は、管理職、とくにトップがその責を負う覚悟で事を進める必要があることも学んだ経験でした。 

まとめ

難局に直面したときに、どうするか。やはり前に進んで行くことで、問題の解決の道は開かれ、そのあと後悔することもなくなるのではと思っています。

ただし、やみくもに、リスクを背負って突っ込んでいく姿勢は、避けるべきと思います。

判断すべき時に考えることとして、重要な点が2点あると思っています。

一点目:そのリスクを100%ではないにしろ回避する手立てがあるかを検討し、もし想定と異なった事態が生じた場合には、次の手立てが取れるようにしておくこと。

二点目:そのプロジェクトのトップが、責任を取る覚悟を持って判断すること。

悩んだときに、撤退ではなく前進することを選択し、行動することにより、その難局を乗り切ったあとでは、プロジェクトに関係したすべてのメンバーが充実感を得ることができると思います。