上司、リーダーの役割

悩みの解決法―目先を変える―

風にそよぐ若葉 冨士や垣間見え

 若葉が映える季節になりました。家から出て西の方を見ると、さわやかな風に揺れる若葉の隙間から富士山の姿を垣間見ることができました。

さて、本題です。

職場で仕事が思うようにはかどらなかったり、同僚や上司との関係がこじれたりして思い悩むことがあると思います。

そのような状況になると、つい、自分一人でその問題を抱え込んでしまい、一段と悩みが深くなってしまい、その思いからなかなか抜け出すことができなくなってしまうことがよく起こります。

そのようなとき、どのようにすれば自分が抱える悩みを和らげることができるのでしょうか。

作家、西條奈加氏は、江戸時代の町人世界を舞台にした作品の中で、夫の仕打ちに堪えられず離縁することを決心したものの、なかなかにその懊悩から抜け出すことができずにいる主人公を取り上げ、彼女がいかに悩みを解決したかを描いています。

私も、あるグループの長となったときに、仕事のことで悩む部下に出会いました。

どのように、その部下の悩みを解消するかいろいろ対策を考えましたが、結局、専門家の意見を聞き、その意見をもとにした対策で、その人の悩みを和らげることができました。

今回は西條氏の作品と私の経験から、「どのようにすれば悩みを和らげることができるか」について、事例を紹介します。

ちょっとした工夫で視界を広げる

 作家、西條奈加の作品「わかれ縁」は、江戸後期の下町が舞台です。

十九歳で結婚し、その後亭主の浮気と借金に苦しみ、自殺までも考えるようになってしまった二十歳過ぎのお絵乃が主人公です。

今後のことで散々に苦しみ、気持ちが落ち込んでしまい、自殺までも考えるような状況で江戸の町を歩いているときに、公事宿(狸穴屋)で手代を務める、椋郎にひょんなことで出会います。

見ず知らずの椋郎でしたが、お絵乃は椋郎の誠実さに惹かれ、椋郎の問いかけるままに、これまでのいきさつを話します。

お絵乃の話を聞いた椋郎は、家に帰ることもできないお絵乃の状況を察し、自ら働く公事宿に連れて行きました。

椋郎が働く公事宿に出向いたお絵乃は、狸穴屋の女主人にこれまでの亭主との生活を素直に洗いざらい語りました。

そんなお絵乃の様子を見た女主人は、お絵乃の気働きを認め、その公事宿で、離縁の調停の手伝いを進めました。家に帰ることもできないお絵乃は、勧められるままに手伝いをはじめました。そのような生活の中で、いつしかお絵のは自分の悩みに打ち勝つ心を持つようになりました。

ここで紹介する一節は、数か月を公事宿ですごし、離縁の調停にもいくつか関係する中で、苦悶していたときの自分を見つめ直し始めることができたときの、お絵乃の気持ちです。

 決して人の苦難を嘲笑うわけではない。どんな不幸にも、たとえどん底の人生であったとしても、ほんのぽっちりの明るさの種が潜んでいる。

離縁はいわば、家族の諍いだ。自ずと家の中ばかりにかかずらい、視界は狭くなる。公事宿を訪ねてくる頃には、誰しもが下を向き足許ばかりを見ている。

その顎を、一寸だけ上げてやる。公事宿にできるのは、それだけだった。

たったそれだけで、思いのほか視界が広がる。見える景色ががらりと変わる。どんなに狭い場所に立っていたのかわかったとき、安堵とともに笑いがこみ上げる。

笑う余裕を取り戻せば先々に希望も生まれ、自分の小ささと、そして尊さも感じられる。ちっぽけな己を受け入れ、日常に引き戻してくれる者たちがいることに気づくのだ。

空を飛ぶ鷹のように、狸穴屋でぐんと広がった景色の中では、富次郎(お絵乃の亭主)の存在はあまりに小さく、同時に絵乃の悩みも嵩を失う。

(西條 奈加著 わかれ縁)

 

職場での悩み解消には目先を変えることが効果的

私が課長職を勤めていたときの経験です。

仕事ができると評判の若手社員が、本社の私の課へ転勤してきました。

転勤早々は、周りの社員とも溶け込み、仕事も同僚と一緒になりテキパキ進めている様子でした。

しかし、しばらくすると、職場の上司の会話に使用をきたすようなことが見え始めました。

なぜ、そこまで気分が落ち込んでいるのか、直接当人に話を聞いたり、周りに様子を尋ねたりしてみましたが、これといった原因が見つからず、時が経つにつれ、自分の世界に入り込んでしまう状況でした。

3か月ほど過ぎると、会社に出てくることも難しき状況となりました。

いろいろ、話を聞こうとしたり、休暇を与えるなど対策を講じましたが、我々の対応では、解決できないと判断し、精神科の専門家の意見を聞くこととしました。

専門家の話を聞くと、なかなかに原因を見出すことは短期間には難しいこと、今の職場に関して悩みを抱えているようなので、目先を変えてみる必要がある、とのことでした。

このため、以前の職場の上司のいるところに転勤することで、目先の世界が変り、気が休まるのではということになり、その職場の元上司に相談し、転勤してもらうことにしました。

その職場でも当初は、沈んだ様子だったようですが、しばらくすると、上司、同僚との会話が弾むようになり、以前と同様に仕事に励むことができるようになったとのことでした。

その話を聞き、思い悩んでいる人は、自分の世界に入り込み、なかなかに外の世界を見つめることができないでいることを知りました。

そして、そのようなときに、少しでも環境の違った世界に出会うことで、将来にむけたわずかな光が見えてくることがあるということも知りました。

悩みを抱えたときは、自分一人に抱え込まず、少し目先を変えることで、気分が和らぎ、将来のことにも目が行くようになるのではと思っています。

まとめ

悩み事を抱えると、どうしても自分一人の世界に入り込んで、悪いことばかりに思いが生き、一段と悩みが深くなるようです。

そのようなとき、なかなかに自分からその世界を飛び出すことは難しく、周りにいる人たちが、少しでもその人の目先を変える手立てを講じてあげることが大切なことと思います。