モチベーションをアップしたいとき

成果主義、失敗しない秘訣-社長経験からの教訓-

仕事に従事していて成果が出たときにしっかり認められ、その後の報酬が報わられ、能力が評価されることで、サラリーマンのモチベーションは一段と上がります。

だいぶ前から、この点を意識し、年功型の人事制度を改め、成果に基づいた評価をしようという動きがありましたが、なかなかに、その制度を採り入れる企業は増えなかったようです。

しかし、コロナ感染により、在宅勤務を多くの会社で余儀なくされる中、必然的に仕事の成果をみえる形で評価しなければならない状況になってきました。

このため、大手の企業を中心に「ジョブ型人事制度」を取り入れることが多くなってきました。

ジョブ型は仕事の内容をあらかじめ決めて会社と社員が合意し、達成度合いをみる人事制度で、正しく運用されれば、社員のモチベーションアップに効果があります。しかし、成果の評価に疑問を社員が持つようになると、せっかくの制度も逆効果をもたらすことになります。

この「ジョブ型人事制度」で問題となる点について、3月15日付日経新聞電子版に「ビジネスパーソンを対象とした独自調査で、—管理職の評価能力については、ビジネスパーソンの6割が不安視している」との記事が掲載されていました。

まさに、自分が上司に公正にしかも透明性をもって評価されているかは、評価される人にとっては大いに関心があることだと思います。

林 佳世子氏は、その著作「オスマン帝国500年の平和」では、既に600年前に、職場(ここでは戦場)での働きに応じた「俸給管理制度」が整っていたことを紹介しています。

私も、10年ほど前に、社長に就任したときに、社員、特に中堅管理職のモチベーションの向上を目的とした「業績評価制度」を採用した経験があります。

その時も、いかに公正にしかも透明性をもって評価するかということに尽力しました。

今回は、林氏の著作と私の経験から「成果主義に失敗しないための秘訣として、公正かつ透明性の必要性」について紹介します。

オスマン帝国のジョブ型評価制度「ティマール」

林氏の著作「オスマン帝国500年の平和」は、14世紀初めから20世紀初めまでの600年続いた、ドナウ川からユーフラテス川に至る地域を領域としたオスマン帝国の興亡を取り上げています。

14世紀初頭に既にアナトリア地方で頭角を現していたオスマン侯国は、バルカン地方からアストリア地方にかけて存在していた帝国および侯国を支配下に置きながらその領域を広げていきました。

その領域の拡張を進めた制度として「ティマール制」があります。

「ティマール制度」は、征服した領土を兵士(騎士)に分与し、そこから得られる租税を給与のかわりに徴収させる制度でした。

ティマール制のもとの騎士は、軍役の際には、そのティマールの額に応じて軍備を整え、戦いに参戦することが義務付けられており、その戦場での成果の度合いによって、ティマールが増減する仕組みでした。

このため、戦場での成果を正しく評価する制度が必要でした。

ティマール制は、騎士に村などからの徴税権を付与し、その代償として軍事義務を課す制度であったから、農村支配のための制度としての面と軍事制度としての面をあわせもった。———-

“ティマールは、戦場での働きによって増減した。脱走したり、あるいはそもそも集合場所に現れなければ、当然、ティマールの没収などの措置を受ける。逆に、軍功をあげればティマールの加増が行われた。

これを正確に行う「俸給管理」は、騎士たちを統制していく上で非常に重要な政府の任務だった。このため、オスマン軍の戦場には書記たちが同行し、それぞれの軍功を記録した証明書を発給して回っていたという。軍功に応じた正しいティマール授与が騎士たちのやる気を保証したといえるだろう。

(林 佳世子著 オスマン帝国500年の平和)

600年前に、既に成果主義が取り入れられ、所属する者たちのやる気を保証するため、正しい制度が設けられていたことは、現在のジョブ型制度においても、当然採り入れられなければならない視点であると思います。

社員のモチベーションアップには成果主義が得策

私が、土木建築関係のコンサルティング会社の社長を務めていたときの経験です。

会社の業績が停滞し、社員も将来に不安を抱いている時期に社長に就任しました。

社員が何を不安に、また、不満足に感じているか就任早々に社員との懇談会を部門をまたいで実施しました。

多くの意見が出されましたが、その中で、すぐにでも対策を講じなければならないと考えたことのひとつが、社員の処遇制度でした。

会社創設以来これまで、年功序列型で報酬はほぼ決められていました。報酬がそれなりに提供されている段階では問題ならなかったことかもしれませんが、報酬が停滞するもしくは、下がるかもしれないといった状況で、これまでの処遇制度が問題となりました。

ある中堅管理職から出た意見が、その状況をあらわしていました。「管理職として同じ業務を与えられ、私のほうが実績をあげているのに、なぜ私のほうが、給与が低いのか」といった意見でした。

このような意見が中堅社員に多く見られたことから、優秀な若手、中堅社員が離職する懸念があり、実際に何人かの社員が退職していきました。

成果主義を失敗させないための制度の構築

社員のモチベーションが低下し、優秀な社員の離職リスクを低減するため、社員の報酬制度とその基本となる人事評価制度を見直すことを決め、制度を抜本的に見直し、実施に移すことにしました。

報酬制度については、これまでの年功序列型を廃止し、成果主義を取り入れることにしました。

この成果主義の採用にあたり、最も留意して点は、公正性と透明性の確保でした。

ある人が評価されたことに対して、その基準が明確であり、だれからも納得が得られる制度の構築を目指しました。

制度の主な流れは以下の4段階で実施しました。

  1. 年度初めの目標設定
  2. 上半期末における目標の進捗度のチェック
  3. 年度末の目標の達成度評価
  4. 翌年度報酬の決定と人事への反映

それぞれ解説します。

(1) 目標設定

社員一人ひとりの目標を年度初めに設定しました。目標設定については、会社の目標に基づいた各部門の目標を各人に割り当てることで設定しました。

目標項目には、実施に難易度の差があり、この点についても難易度に応じた重みをつけることにしました。

(2) 進捗度のチェック

目標設定が終わり半年を過ぎた段階で各自の目標に向けての進捗度をチェックし、その後の対応策を各自の上司と話し合う場を設けました。

目標の達成が難しい項目に関して、上司との間でその後の対策について意見交換する機会を設けました。また、周りの環境変化で、目標自体を変える必要があることもあり、この点についての対応策も検討するようにしました。

(3) 目標の達成度評価

年度当初に定めた目標項目ごとに、その達成度を5段階で評価しました。各項目の難易度に応じた評価も加味し、各自のその年度の実績を評価しました。

(4) 人事への反映

年度の終わりには、翌年度にその人の役職を上げるべきか、また、業績の低迷が続く場合は、役職を下げるべきか評価する必要があり、各年度の成果については、その評価指標としました。

成果主義を失敗させないための秘訣、公正性と透明性

1年間を通しての4段階を踏む成果主義の制度を構築し、実施に踏み切りました。しかし、その過程で、問題として挙げられたのが、社員の中に評価結果に納得感をもっていない人がいたことです。

このため、成果主義を取り入れながら、制度の見直しを進めていきました。最終的に

社員の納得感を得るうえで大切なことは、各自の評価が公正であり、かつ透明性を持っているかどうかということでした。

公正かつ透明性を確保するために、各自の目標設定に関しては、その部門だけで設定するのではなく、他部門および経営者も入って、その目標と難易度が他の人と比べて同レベルであるかをチェックすることにしました。

また、年度末の成果の評価においても、各部門代表と経営者が入って評価することで公正、透明性を確保しました。

また、その結果については、上司から、各人が納得のいくまで説明することにし、翌年度の目標設定にその意見交換を反映していきました。

また、年度内に3回の上司との面談する機会があり、そこでの意見交換が、社員に納得感を持ってもらえるかどうかで重要な点となりました。

上司の説明不足、社員の力量の理解不足など上司が部下の性格、能力を把握していないことによる納得不足が生じることが認められました。

このため、評価する上司の力量が大切であるということから、評価者のトレーニングも重要な成果主義定着に向けた取り組みでした。

このような取り組みを3年間ほど繰り返すことで、評価する者、される者も制度に慣れてきたこともあり、会社としての成果主義を定着することができました。

まとめ

働く人が納得して働くことは、その人にとってやりがいをもって仕事に従事するための糧となるとともに、会社にとっても業績が向上するために必須なことであると思います。

このために、目標を明確にし、それを根拠に成果を評価する制度は有効なものと考えています。

しかし、制度が上手くできたとしても、それに心が張らなければ成功への道は遠くなります。

600年前にオスマン帝国で実施していた「俸給管理」でもそうですが、成果主義を失敗させないための留意すべきことは、働く人の成果をしっかり認めること、そしてそこに、公正性と透明性が確保されていることが大切なことと思います。