上司、リーダーの役割

組織変革におけるリーダーの役割-経営改革を通しての教訓-

組織が何か目標をもって動こうとするとき、もしくは、組織が大きな課題に直面したとき、その組織のリーダーが、まずやるべきことは何でしょうか。

いろいろリーダーがやるべきことはあるかと思いますが、まずやるべきこととして、方針を組織に明言し、時間を置くことなくその方針を実行に移すことだと思います。

作家、今野氏は、その著書「任侠書房」で、リーダーのあるべき姿として、この目標を明確にし、最後までやり通すといった気概を持って動き出すことの大切さについて明確に書いています。

私も、社長に就任し経営改革を進める中で、まず明確な方針を出すこと、そして、その方針のもと、改革をやり抜くという気概を持つことが大切であることを実感しました。

また、実行する中で、小さな成功体験を社員に経験してもらうことも、一緒に行動してもらう上で有効でした。

今回は、今野敏氏の作品と私の経験から「組織変革におけるリーダーの役割」として、以下の2点について紹介します。

(1) 改革に向けた明確な方針を組織メンバーに提示すること

(2)改革の実行にあたっては、やり抜くという気概を持ち、メンバーに小さな成功を体験    してもらうこと

組織改革におけるリーダーの役割(1)-明確なビジョンの提示-

(1)小説「任侠書房」から

小説「任侠書房」は、今野敏氏の任侠シリーズの第一弾です。

この任侠シリーズでは、主人公の日村誠司が代貸しを務める阿岐本組が、阿岐本組長のもと、その任侠道を発揮し、潰れかかった企業や学校を、再建する話です。

「任侠書房」では、安岐本組の組長が、倒産しそうになった書房の再建に向け、代貸しの日村とともに、社長、役員としてその書房に繰り出しました。

阿岐本組長は、ベストセラーの一つも出したことのない編集部の改革に乗り出し、日村とともに、通常のサラリーマン感覚では思いもよらぬ手立てを駆使し始めました。

組長は、編集部長との面談で、その部長がいっこうに戦う意思を見せないことに気づき、売れる本が出せない原因がそこにあるのではと考えました。

そこで、早速、編集部長を交代させることを決断し、代わりになる人の選考を日村に指示するのでした。

指示を受けた日村は、編集部内の社員に人材を求めました。その中で、書籍づくりに強い思いを持つ編集部員が目につきました。

日村は、その編集部員、島原を呼び出して部長になるよう話をしましたが、部長になることにためらいを見せました。

ここで紹介する一節は、日村が、何とか島原を部長職につけようと、リーダーの役割を説く場面です。

日村は、(島原に)辛抱強く言った。
「あなた、好きな作家に好きな小説を書かせるのが楽しみだとおっしゃった」
「そう、気楽に仕事をするのが好きなんですよ」
「じゃあ、それを部内で徹底させたらどうです? すべての編集者たちにその方針を徹底させる。それでいいじゃないですか」
「みんな私のことなんて聞きませんよ。特に、殿村さん(現編集部長)は反発するでしょうね」
「言うことを聞くか聞かないかは、後の問題です。とにかく方針を出す。これが先決でしょう」
島原はぼんやりとした目で日村を見ていた。パニック状態なのだ。
「もっと楽に考えてください」
日村は言った。「やる仕事は今までと変わらない。肩書が増えただけ。そう思えば、気が楽でしょう。そして好きな作家に好きな小説を書かせる。それを部の方針にする。あなたが率先してその方針を守る。それだけでいい

島原の目にもようやく落ち着きが見えてきた。

出典:今野 敏著 任侠書房

日村が、部長候補の島原に対し、改革を目指すリーダーとしてやるべき、明確な方針を出すことを語り、諭すのでした。

(2) 経営改革を推進したときの経験から

ある土木建築設計コンサルティング会社の社長になったときの経験です。

当時、会社の業績は停滞気味であったため、短期間に業績を回復し、さらなる成長を目指すことを自分の仕事と位置付けました。

社員に対し、“成長を目指す”と宣言し、10年後に達成すべき高い目標を掲げ、その目標を達成するための方策を取りまとめ、今後の方針として打ち出しました。

目標は明確でしたが、達成までの期間が10年と長かったこと、また、目標達成までの方策が細かいこともあり、社員の経営改革に対する納得感を得ることが難しい状況でした。

そこで、社員の理解を進めるため、目標については10年後の目標は変えずに、そこにいたるまでの成長を実感できるよう、段階的な目標を設定しました。

また、方策についても、社員が戸惑うことなく理解できるよう、簡単明瞭に示すこととしました。

また、これらの目標の意味するところを理解してもらうため、全社員を対象に説明会などを開催しました。

組織改革におけるリーダーの役割(2)-小さな成功を体験しながらやり抜く-

(1)小説「任侠書房」から

小説「任侠書房」からの引用の続きです。

編集部長となった島原は、“好きな作家に好きな小説を書かせる”という方針を部内に浸透しました。

一方、部長を下ろされた殿村は、当初、降格されたことに不満顔でしたが、島原が出した方針を聞き、前から気に入っていた小説家に本を書かせることにしました。

その小説が徐々に話題となり、ベストセラーの仲間入りを果たすことになりました。

このことを知り、日村は、島原に伝えた話が実を結んだことを実感するのでした。

このところ『あの橋を渡って』というタイトルの純愛小説が話題になっていた。長いこと鳴かず飛ばずだった作家の作品だが、じわじわと売り上げを伸ばし、ついにベストセラーの仲間入りをしたそうだ。

それが梅之木書房から出ていると知ったのは、つい先日のことだ。

きっとあの小説だ。

日村はそのとき思った。

殿村が抱えていた原稿だ。彼は見事にヒットメーカーになったのだ

(今野 敏著 任侠書房)

新任部長が出した方針に、部下となった前部長が呼応し、ヒット作品を出すことで、改革の成果が出始めました。

(2) 経営改革を推進したときの経験から

経営改革を始めるにあたり、簡単明瞭な方針にしましたが、社員が動き出すまでには、ま

だまだ紆余曲折がありました。社員に示した内容が、それまでにない高い目標と、今まで経

験したことのない方策であったことから、変わることに慣れていない社員の中から意見が

いくつか出てきました。

「どうせあのような目標は達成できるわけがない」とか「あんな方策はやれるわけがない」

と改革に背を向ける人も結構いました。

このように、理解できず、改革という、同じ船に乗って事業を進めていくことをためらう人がかなりの割合でいましたが、方針を変えることはせず、その方針に基づき経営を進めていきました。

そして、抵抗する人がある程度いることは致し方ないこととし、改革の船に乗ってくれる人を増やすことに力をそそぎました。掲げた目標の意味合いを理解してもらうことが重要と考え、対話を中心とした活動を今までより頻度を上げて展開しました。

そのような活動を続けているうちに1年が経ち、成果も見え始め、最初の段階の目標の達成が見えてきました。

この、1年目の成功体験が、社員にはよい刺激となりました。目標を達成したという成功感が、社員のやる気を増加させ、その後は、最終目標に向け、各部門が自ら方策を立て、実行していくようになっていきました。

まとめ

ことを始めるとき、もしくは大きな課題を解決するとき、その組織のリーダーがまずやることは、その組織が目指す方向、もしくはビジョンをメンバーに示すことと思います。

行くべき方向を決めたならば、後は迷うことなく、メンバーの理解を得ることを迅速に進め、前進していく必要があります。

そして、動き出してから大切なことは、早い段階で、方策に沿った成功体験を社員と共有することだと思います。