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大企業病の原因と対策-10年間の会社経営からの教訓-

最近でも時々、大企業病という言葉を聞きます。

組織が大きくなると、一つのことを決めるのに時間がかかったり、経営層と従業員との間のコミュニケーションがとられなかったりします。また、縦割りが強くなり、これらを原因として、非効率的な業務運営が組織に蔓延してしまいます。

一方、小規模な組織では、経営層から従業員までの距離が短く、お互いの意見が通りやすくなります。また、働いている人にとっても、自分の従事している業務が、会社の中でどういう位置づけであるかはっきりすることもあり、社員一人一人のやりがいが強まることもあるようです。

このように、規模が大きい組織ではなぜ、業務が非効率的になるのでしょうか。

今野敏氏は、その警察小説の中で、組織が大きくなると、それだけ捜査にかける手が大げさになり、捜査が非効率になってしまう事例を紹介しています。

私も、大企業から社員100名程度の会社に転職したときに、経営者と社員の距離が短く、

コミュニケーションが取りやすい状況であることを強く感じました。また、その後、別の

会社の社長になったときにその経験を生かすことができました。

今回は、今野敏氏の作品と私の会社経営の経験から「大企業病の原因と対策」について紹介します。

大組織の慣例的な仕事のやり方で非効率が発生

今野敏氏の「潮流」の舞台は、東京湾臨海署です。主人公は、臨海署の強行犯第一係長の安積刑事です。

これまでも安積係長の班は、湾岸地域で起こる殺人事件を、そのチームワークの良さで解決してきました。

今回の事件は、ゆりかもめ沿線で発生した毒殺事件で、3名が犠牲になりました。

使われた毒物がリシンという毒物で、高い殺傷能力があります。東京湾臨海署の安積係長の班が、その事件を担当することになりました。

安積係長は、その部下の発言から、1978年にイギリスで起きた事件を模倣している可能性があるのでは、という疑問をもちました。

その事件では、リシンが内蔵された金属球を、長傘に見立てた空気銃で被害者に打込んで殺害したものでした。

3名が殺害され、テロの疑いもあるということから警視庁からこの事件を担当するため、池谷管理官と佐治係長が臨海署に送り込まれてきました。

犯人の割り出しについて、安積係長は、捜査の効率化を目指し、長傘をもった人物の特定を主張しました。一方、警視庁から来た佐治係長は、もっと幅広く捜査を進めるべきと主張します。

ここで紹介する一節は、その発言を聞いた安積係長が、大きな組織にいることで、非効率となってしまっている警視庁の捜査の在り方に疑問を持つ場面です。

 (安積係長)「——犯人は、ゲオルギー・マルコフ事件のことを知っていたに違いありません。そして、そのときに使われた武器を再現したのではないでしょうか」

———-

池谷管理官が言った。

「なるほどーーーーー。なかなか説得力があるように思うが、佐治係長は、どうだ?」

「根拠がありませんね。そういう未確認情報に振り回されたくはありません。コウモリ傘にこだわらずに、不審な行動を取った者を洗い出すべきと思いますね」

それでは、時間と人手がいくつあっても足りない。

安積は思った。

一刻も早く、しかも、警視庁1個班と安積班だけという限られた人員で犯人を特定し、検挙しなければならないのだ。

佐治は、大掛かりな捜査本部や捜査に慣れてしまっているのだろう。だから、所轄の発想に馴染まないのだ。

人数の限られた所轄では、自然と筋読みが大切になってくる。それが、刑事の見せどころでもある。

警視庁捜査一課の連中は、確かに優秀だ。選ばれた捜査員だという誇りも持っている。だが、大集団で捜査することがすっかり習慣化してしまっているのは否定できないだろう。

小人数で難しい捜査をしなければならない場合は、当然、捜査本部などとは違った方法を取らねばならないと思った。

(今野 敏著 潮流)

ある問題を解決するときに、どのように効率的に進めていくかが問われますが、その点について安積係長は、明確に大規模組織による慣例的なやり方を否定しています。

このことは、警視庁ばかりでなく、会社組織においてもいえることと思います。

大企業が抱える問題

大企業といわれる会社に勤めていたときの経験です。

仕事で、社外の会社と契約を結んだり、了解を取ったりしようとすると、まずは、所属の部長に、また、案件の内容によると副社長まで了解を取らなければならないことがよくありました。

また、仕事を円滑に進めるためには、他部門の話を聞いたほうが手早く済むような場合でも、自部門のプライドからか、どうしても出向いていくことが億劫になることもありました。  

日頃からその部門とのコミュニケーションがなく、だれのところに行って話をすればよいかわからないといったことも背景にありました。

このようなことがあり、他部門が絡むととたんに仕事の処理に手間取ることがありました。しかし、仕事を進めているそのときは、それが普通の状況と思いこんでいました。

そのような体験をしたのち、千葉県にある会社の役員を務めることになり、そこで、小さい組織の利点を学ぶことになりました。

組織内のコミュニケーションを活発化することで大企業病を克服

50代後半のときに、社員が100名程度の会社の工場長に転職しました。今までいた会社と大きく異なり、社員との距離が近いことにまず驚きました。

工場のトップとして、今後の会社の方針を話しても、社員一人一人に直接話をしていることを感じることが出来ました。

また、1年もすれば、社員の顔と名前がほぼ一致するようになり、その分話しかけやすくもなりました。

ある年のことです。

分散するプラントへ出かけるときに使う社有車での交通事故が連続しておきました。

事故は人を巻き込むようなものではありませんでしたが、このまま放置すれば、いずれ大きな事故につながる可能性があるということで、何らかの対応策を講じることが必要でした。

直後の安全会議で、社員一人一人に危機意識を持たせられるキャンペーンを考えてほしい旨、その場で指示を出しました。

1週間もしないうちに、担当者が私のところへ来て「連続100日間無事故キャンペーン」を来週から始めるとのこと。

私が、「関係する部門の了解を取ったか、また、調整したか」と問うと、「すでに皆の了解を取ってあり、このような内容でとスケジュールで進めます」とのこと、そのスピード感に私も驚きました。

このキャンペーンにより、車を運転する社員の意識も高まり、100日を超えて無事故が続いたことを覚えています。

このときのことから、大企業病の対策として考えられる方策は、経営者と社員、社員艦など関係者間の距離を短くする、コミュニケーションを活発化することだと思っています。

コミュニケーションが取れれば、経営者から伝えたい方策や社員の声を聞くことも円滑になされるようになります。また、部門間の壁も取り払われ、協力体制の構築も円滑に進み、業務の効率が向上することは間違いありません。

まとめ

大きな組織にいると、セクショナリズムが働いたり、他部門とのコミュニケーションが途絶えたりし、業務が非効率になることを経験しました。

しかし、その中にずっといると、そのことにほとんど気が付きませんでした。

そのような状況に陥っているということに気づかず、そのことが大きな問題を引き起こす可能性のあることを、別の会社に移ったことで気づきました。

企業では一段のスピード感をもって仕事を進めることが、今まで以上に求められることと思います。

そのようなときに、小さな組織が持つ効率性を重視した優位性を、大企業に勤める社員の人たちも学んでいく必要があると思っています。