モチベーションをアップしたいとき

仕事にプライドをもつことも大切-会社生活43年からの教訓-

外観を繕ったり、うわべを飾ったりしたときなどに、あいつは見栄を張っているな、と言われることがあります。

このように、見栄を張るというと、何かしら人からそしりを受けるようで遠慮されがちです。

確かに、自分自身も、謙虚、真摯に行動することが大切などと、周りの人たちに言ってきたこともあり、自己主張的な、見栄張行動はとりづらいことが多いのが実態です。

しかし、見栄を張ることも、プライドという視点でとらえれば、自分の意志を示そうとするとき、また、相手を思う気持ちの表れとして、大事な場面では必要なことがあります。

作家、坂上氏の著書「へぼ侍」の中で、見栄を張ることも肝心なときには大切であると書いています。

私も若く、たいしてお金を持っていなかった時に、上司としてのプライドから、見栄で行動したことが、上司や部下とのその後の良好な関係作りのきっかけとなったことがありました。

今回は、坂上泉氏の作品と私の経験から「仕事の中では、プライドを持って行動することも必要」について、紹介します。

プライドで示す娘に対する心意気

小説「へぼ侍」は、大坂の与力の息子として生まれたものの、明治維新で家が没落し、丁稚奉公に出され、その後、西南戦争に参加した錬一郎が主人公です。

錬一郎は士族の誇りを忘れず、西南戦争の勃発にあたって、徴募に応じ、士官兵になることを目指します。

配属された部隊には、異色の経歴を持つ者が集まり、落ちこぼれ部隊とよばれていましたが、その仲間、上司との西南戦争下での日常に生活を通じて、錬一郎は多様な経験をするのでした。

ここで紹介する一節は、志願して官軍の兵隊となった主人公が、兵営を抜け出し夜の世界へ出かけ、夜鷹を買ったときの場面です。

錬一郎の相手をしたのは、若い女性でした。

その女性と話をする中、錬一郎は女性をあわれみ、別れ際、自分が持つ全財産をその娘の将来を思い、「これも男の見栄や」といって、数十枚もの一円札を握らせるのでした。

主人公が見栄を張る中に、娘への温かい気づかいが感じられます。

「わしのなけなしの財産や。これで夜鷹をやめるなり、どこぞ安全なところへ行くなり、してくれんか。—」
後々のことなど考えてはいなかった。

その場の自己満足でしかない。だが、考えるべき後々などこの戦場にはなかった。ただ、この刹那しかない。それを精一杯生き残ることしか、考えられなかった。

娘は先ほどまで目を赤くしていたが、今度は頬を赤らめていた。慌てて手に取った大金を返そうとするが、
「ええ。男の見栄や。ここで返されたら、わしの面目が立てへんさかい、堪忍や」

江戸っ子は宵越しの金は持たぬとよく言われるが、浪速っ子も決してケチではなく、むしろ腰の低さを装った気前の良さがる。—大阪船場の商人を幾人も見てきたが、大店の旦那衆で能ある人ほど、気を使った。丁稚に駄賃をくれる時も、「駄賃もやれんようでは、名が廃るよって」などと、腰の低い人が大勢いた。

あれは、武士ではなかったが、見習うべき美徳だと思っていた。それを短く果てるかもしれないこの人生で、実践するなら今しかない—-」

引用:坂上泉著 へぼ侍

錬一郎のように、見栄張も一つの美徳として意識し、出すべき時に出す、これが人間関係を構築するうえで重要な点ではないかと思っています。

上司としてのプライドが部下との良好な関係作りに

作家、坂上氏が描く主人公の話とは桁が違いますが、少しの気づかいと見栄がその後の部下との良好な関係に役立った経験があります。

私が管理職になりたてのことであったと思います。年下の人と出張に行くことがありました。

出張の帰り、新幹線の中で一杯飲みながらの食事をし、支払いとなりました。 ここは、若干でも年が上ということで、気づかいと管理職のプライドからの見栄から、私が支払いを済ませました。

そのようなことがあったことをすっかり忘れて、10年くらいたった時に、その人が、私が課長を務める部署に転勤になってきました。

最初の挨拶でいわく「あの時は本当にごちそうになりました。僕にとって良い思い出です。今度、一緒に働けること楽しみにしています」とのこと。

その後、何年間か一緒に仕事をしましたが、いろいろな業務を気軽に頼める部下であったことを覚えています。

あの出張のときに、ちょっとした見栄から驕るという行動を取ったことが、今の彼との関係が始まったということを思い出し、人との関係作りもいろいろ気を使う必要があるな、と改めて思った経験でした。

プライドを持った行動が上司との良好な関係づくりに

もう一つの小さなプライドからとった行動とその結末です。

上司と八丈島に発電所の視察に出かけたときの話です。

八丈島にはめったに来るところではないということもあり、八丈島の名産品を買って帰ろうということで黄八丈の織物の作業所に出かけました。黄八丈の織物の作業所を見て、さて何かお土産でも、ということになりました。

ネクタイを見つけ、ま、ここいらへんの値段なら買えるかなと思っていると、「こういうところへ来たら、お金を落とすのも必要なことだな」という上司の言葉が。

そこで、上司が買うネクタイを見届け、懐具合は十分ではなかったものの、ああいうことを言われたらと思いなおし、上司の上をいくネクタイを買い求めました。すると、「なかなかいい買い物をしたな」と、上司の一言が。

その後、そのネクタイを締め会社に出勤し、上司が議長の会議に参加すると、「あいつのネクタイ、いいだろう。あいつは結構いい趣味があるんだ」とのこと。

それ以来、その上司の下で仕事をする機会が何回となくありましたが、仕事を任せてもらうことが多くなり、長い付き合いになるとともに、よい理解者となってくれました。

まとめ

なかなかにプライドを持って仕事をする、ましてや、見栄を張るということは、今の時代、機会がないことかもしれません。

しかし、自分の立ち位置を明確にし、やる意思を明確に相手にタイミングよく示す消え張は、相手に対し好感を与えるという意味で、人との良好な関係作りに寄与することもあると思います。

但し、場をわきまえず、押しつけるような見栄張では、逆効果になることも承知していく必要があると思います。