モチベーションをアップしたいとき

出会いが転職のきっかけに-43年間の会社生活からの知恵-

今の職場に満足できなかったりコロナ感染が広がり、働きが大きく変わってしまったりして、転職を考える人も多いかと思います。

しかし、転職ほど難しい問題になると、なかなかに一歩を踏み出せないのではないでしょうか。

転職を決めるときを含め、何か大事なことを決断するとき、人に出会うということが活路を開くことがあります。

池井戸潤氏はその作品の中で、ちょっとした思いから知り合いのお店を訪ね、そこで出会った人との縁で、商売の解決策を見出すことが出来た主人公の姿を描いています。

私も、ある会社の社長をしているときに、転職して入社した人の話を聞き、思わぬ縁がその人と会社を結ぶことになった経験しました。

今回は、池井戸潤氏の作品と私の経験から「転職には人との出会いがきっかけになる」について紹介します。

思い付きで出かけた先で出会った人が、難題解決のカギに

小説「陸王」の舞台は、老舗足袋メーカーの「こはぜ屋」です。こはぜ屋では、新たな事業として、ランニングシューズの販売に乗り出すことになりました。

いろいろな苦労の末に、シューズの開発に必要な軽く、耐久性のある素材の確保に道筋が見えてきました。

しかし、いざ販売となると、ランニングシューズの業界に縁故の無い主人公、宮沢には、販路切り開きのための解決策が見つからず、悩み続けました。

なすすべのない宮沢は最後の手段として、ランニングシューズ業界で、唯一面識のある、シューズショップを経営する有村を頼って、業界にどう切り込むかを相談に出かけました。

その場で、宮沢は、アスリートがシューズを選択するときの相談役として長く務め、多くのアスリートに信頼のある、カリスマシューフィッターと呼ばれている村野に出会いました。

村野は、大手ランニングシューメーカーであるアトランティスに勤めていましたが、上司である営業部長との方針の違いから、アトランティスを退職した直後でした。

ここで紹介する一節は、宮沢が村野と出会い、彼のシューズにかける思いなどの話を聞き、陸王開発への協力を、宮沢が強く依頼する場面です。

 村野の話を一通り聞いた後、宮沢もこはぜ屋の成り立ちから話し始め、ジリジリと縮小してきた業績、それから脱却するためシューズ開発に踏み切った経緯、「陸王」の開発コンセプトまで、何一つ隠すことなく村野に語りつくしたのであった。

この打ち合わせで、村野の、職人気質で実直な人柄を知ることができたのは、宮沢にとって何よりの収穫といってよかった。

村野が宮沢にどんな印象を持ったかはわからないが、シューズ業界に打って出ようというこはぜ屋にとって、村野の協力が得られるのなら、百人力の加勢を得たに等しい。

この日有村を訪ねたのは苦し紛れの思い付きでしかなったが、こうした出会いを得たことに、宮沢は心から感謝しないではいられなかった。

「私には夢があるんです」

つい調子に乗って、宮沢はいってしまった。「このソールでシューズを完成させ、トップアスリートに履いてもらいたいんです」

「そういう人たちなら、村野さん、大勢知っているからね」

有村がいうと、村野もつい笑って、「例えば誰がいいかな」、と半ば冗談まじりにいう。

「ダイワ食品の茂木選手がいいと思っています」

宮沢がいうと、村野の顔から笑みが抜け落ち、ふいに厳しいほどの眼差しがこちらに向けられる。

何か、気に障ることを言ってしまったか、内心、慌てた宮沢に、村野がいった。

「いいじゃないですか。その夢。私もそれに乗りますよ」

(池井戸 潤著 陸王)

ふとした思いで出かけた場所で将来の道を開いてくれる人と偶然出会うことは、小説ばかりの話でしょうか。

同じようなことを、私が会社の社長をしていたときに、ある社員が入社するきっかけとなった経験をしました。

ちょっとした飲み会での会話から転職してきた社員

会社の経営幹部Aさんが、大学の仲間たちと飲んでいたときのことです。

Aさんの友人の一人が、若い人を連れてきており、話が弾む中で、その若者Bさんと席が隣になり、いろいろ話が弾んだようです。

そのうちに、Bさんが現在の職場に満足できず、自分の技術を使える職場に移りたいと希望しており、転職の可能性についての話になりました。

Aさんは、自分の会社で何をやっているか、Bさんの持っている技術がどのように生かされるかを話したようです。

私がいた会社は、規模的にはBさんが勤めていた会社より小さい会社でした。しかし、自分の技術が使えること、新たな目標に向け活況のある姿を見、転職を希望してくれました。

私の会社でも、若く、やる気のある社員を望んでいたこともあり、その後、正式な手続きを経て入社してもらいました。

その後、Bさんは所属してもらったグループで力を発揮し、3年目でグループマネージャーを務めてもらえるようになりました。

偶然の飲み会での出会いから発した転職でしたが、会社にとっても、本人にとっても良い結果を生み出すことが出来ました。

転職などで悩んだら一歩前に出ることが大切

ここで紹介する事例は転職とは直接関係ありませんが、転職のように、前に進むべきか否か悩んでいるときに、一歩を踏み出すことの重要さを学んだ経験です。

私が40代半ばの頃のことです。会社のある部門の事業拡大ということで、東南アジアなど発展途上国で電力開発のコンサルタント案件に進出しようと、いろいろ画策していた時でした。

それまで会社では、海外でのコンサルタントには手を付けておらず、自分自身もどのように拡大策を取っていくか悩んでいた時期でもありました。

ある人から、「どうせ社内に籠っていても何も進まないから関係機関に出かけた方が良いい」とアドバイスをもらいました。

知り合いがいるわけではなく、ともかく何かヒント得たいという一心で、あてもなく日本国際協力機関(JICA)や経済産業省の国際部門を訪れて話をしてみることにしました。

海外コンサルティングを経験したことがない人間が、そのような専門機関へ行っても、取り合ってもらえないだろうなとは思いつつ、これしか方策はないということで出かけて行きました。

担当の方にお会いし、自分の部門が持っている技術を海外、特に東南アジアの発展途上国で生かせないかという話を担当の方に話しました。

すると、先方からは「今まさに、発展途上国ではお宅の持っているような技術が必要なんだ」という返事がありました。

渡りに船ということで、これをきっかけに、まず、どのように発展途上国に進出するかといったことまで相談に乗ってもらいました。そして、第一段階として、ある国にJICA の専門家として部門の人材を派遣することになりました。

これを契機に、JICA,JBICとも話が進み、現在では、東南アジアを初め、多くの国で、コンサルティング案件に参加できるようになりました。

ある部門を任され、どのように進むべきか悩んでいたときに、「思い立ったが吉日」ということで、関係者の方のところに出かけたことが、その後の活路を開くことになりました。

転職の場合でも、前に進むか否かと悩んでいるときには、まず動いてみる、そして何らかのきっかけをつかむことが大切なのでと思います。

まとめ

今の職場では、わくわくして働く気が起こらないとか、自分の居場所が見つからないといった理由で、転職を考えている人がいると思います。

転職しようと思っていても、なかなかに一歩が踏み出せない場合があると思います。

そのようなときに、待っていても悩みは解決することはない、「思い立ったが吉日」というのがこれまでの私の経験から学んだことです。

そして、そこでつかんだきっかけを大事にすることで、活路が開かれることを経験した人は多くいると思います。