初めて仕事に就くと、どうもこの仕事は自分に合っていないのではと思うことがあります。特に、先輩、上司がテキパキと、やる気十分で仕事をしている姿を見ていると、自分はあんなふうにはなれないのではと、つい弱気になってしまいがちです。
特に、この4月に入社した人たちには、会社生活の中で見るものが珍しく、また、今までの生活から離れた世界でもあり、このような思いを強くするのではないでしょうか。
しかし、今、実力を発揮している先輩たちも、最初はきっと同じ思いをしていたはずです。
ではどうやって、その弱気を打破し、先輩社員たちと伍して仕事ができるようになったのでしょうか。
今野敏氏は、その作品の中で一つの答えを出しています。
ある若手の刑事が、自分には今の職場があっていないのではと弱気になっていました。その姿を見た先輩社員が、どのように弱気を捨て、やる気を持つようになるか、自分の経験を話して聞かせています。
また、司馬遼太郎氏は、その作品「燃えよ剣」の中で、設立当初の新選組を事例に取り、これまでの小集団から大きな飛躍を遂げ、最強の集団となるためには、まず「かたちから入る」ことも大切であることを、主人公の土方に語らせています。
私も、建設現場で先輩たちが現場の工事を取り仕切っている姿を見、自分にできるだろうかと思うことがありました。しかし、先輩の姿を何とかまねようとしているうちに、現場の動きを追えるようになり、一つの現場を任せてもらえるようになり、仕事への取り組みに充実感を感じるようになりました。
今回は、今野敏氏と司馬遼太郎氏の作品と私の建設現場での経験から「仕事のスタイルを作り上げることで“やる気”が向上」について紹介します。
やせ我慢を続けることで自分の仕事のスタイルを作る
小説「大義」の舞台は、横浜みなとみらい署の暴対係です。小説では、7つの暴力団が絡む事件現場を舞台にして、主人公の諸橋係長と相棒の城島をはじめ係のメンバーの活躍を描いています。
ここで取り上げた1編のタイトルは「やせ我慢」です。
暴対係の若手刑事、日下部は、自分の弱気な性格から、自分がこの暴力団相手の仕事が向いていないのではと疑問を持っています。
そんな後輩の姿を見、今では、係のナンバースリーとして押しも押されもせぬ暴対係の刑事となった先輩社員、浜崎が日下部を勇気づけます。
浜崎は、自らが若いころに暴対係の仕事が合わず辞めようと思ったときに、上司である城島係長補佐の同じような体験を聞き、あの城島さんがという思いから、刑事を続けることになったことを話し、後輩を勇気づけるのでした。
ここで紹介する一節は、浜崎が日下部に、城島係長から浜崎が聞いた話を引き合いに出し、若手を勇気づけている場面です。
(浜崎)「怖いんです—-」
(城島)「怖い? 何が?」
「チンピラや暴力団員が、です」
「たまげたな。そんな立派な体格をしているのに? しかも、学生のときは柔道部だったんだろう?」
「見かけ倒しなんです。ヤクザにびびっているんですから、マル暴はつとまりません」
「そんなことはないと思うよ」
「自分は。城島さんとは違います」
———-
浜崎は言った。「自分には城島さんのような度胸はありません」
「あのね——」
城島が真顔になった。「俺だって、そんなに度胸があるわけじゃないんだ。おまえさんと、そんなに変わらないと思うよ」
「まさか——。城島さんと自分とは全然違いますよ」
「どうしてそう思うんだ」
「どうしてって——。城島さんを見ていればわかりますよ」
「そう見えるように努力しているんだよ」
「努力? 何をどう努力しているというんですか?」
「やせ我慢だよ」
「やせ我慢—–?」
「そう、俺も若い頃は、ヤクザが怖かったさ。いや、誰だってそうだと思う。だから、そのこと自体は気にすることはない。問題は、どうやってその気持ちに対処するか、なんだ」
「ヤクザが怖かった、ですって? 城島さんが? 嘘でしょう?」
「いや、本当の話だ。だから、やせ我慢をした。何があっても余裕の笑いを浮かべていよう。そう決めたんだ。そういうスタイルを作ろうと思った」
「スタイルを作ろうと——」
「そう。最初は付け焼き刃というか、張りぼてというか——。つまり、本当じゃなかったわけだ。それでも俺は演じ続けた。すると、徐々に周囲の反応が変わってきた。やくざの世界でいう貫目がついてきたんだね」
「はあ——」
「いいかい。やせ我慢も続けていりゃ、いつかは本当の我慢になるんだ。おまえさんも、せっかくそんな体格しているんだから、要は演出次第だと思うよ」
「演出ですか——」
(今野敏著 大義)
城島刑事は、就いた仕事に適したスタイルを我慢して続けることで、それが自分の仕事のスタイルになることを強調しています。
そして、その仕事のスタイルが自分のものになったときに、仕事へのやりがいがわいてくることも話しています。
組織、人を大きく変革するためには「かたちから入る」ことも大切
小説、「燃えよ剣」は、新選組副長の土方歳三が主役です。
武州多摩出身の土方は、近藤勇とともに、武州多摩での剣術指南と、当地の剣客との喧嘩騒ぎに明け暮れていました。しかし、江戸での道場経営も破綻したのをきっかけに、幕府の要請を受ける形で、土方は、近藤勇を上に置き、数人の剣客とともに、攘夷活動が活発化しだした京に上りました。
新選組副長として、また、近藤勇の参謀として、また、剣豪として、幕末の動乱期に、新浪人や百姓上がりの寄せ集めを組織し、京都守護職松平容保の手配下に入り、当時最強の人間集団として、一世を風靡した姿を描いています。
ここで紹介する一節は、江戸から京に上がり、壬生郷の宿営に入り、いよいよ今日での活動を展開しはじめようとしたときの場面です。
京では、京都守護職を守る武士として、その使命を果たそうとする土方は、これまでの、武州での田舎侍的な姿、生活を一掃する必要を感じていました。
そんなときに、近藤から声をかけられた土方が、頭取の近藤に対し、今までのやり方を変えていこうと説得する場面です。
(近藤)「なあ、歳」
と、近藤はふりむいた。歳三は、立って庭をながめながら、
「その歳、てのは、もうよそうじゃないか」
といった。京にきてみると、どうも、近藤は土くさい。土臭いうえに、意外に人間が小さくみえる。
「では、どう呼ぶ」
「土方君、とよんでいただこう。そのかわり,私はあんたのことを、近藤さんとか、近藤先生、とかよぶ。はじめはすこし照れくさいが、ものはかたちがかんじんだ。われわれはもはや武州の芋の子ではない。私はわれわれの八人の仲間も、年齢と器量を尺度にして、整然とした秩序をつくってゆきたい、と考えている」
「いいことだ」
「むろんあなたが首領です」
「そうか」
(司馬遼太郎 燃えよ剣)
仕事のスタイルを作るために先輩のスタイルを真似る
20代後半にダムの建設現場で働いていたときの経験です。
その建設現場には、すでにいくつかのダム建設に従事したベテラン技術者がいました。
その人は40歳代で、工事の工程管理を任されており、ダム建設が工程通りに進むよう、現場内の動きを把握するとともに、安全対策などにも目を光らせていました。
朝一番に現場に出て、請負会社とのその日の工事の確認をスタートに、トラブルの発生が起きないよう、現場を一回り歩いてくるのが日課となっていました。
現場のことなら、請負よりも熟知していることもあり、我々建設所の職員はもとより、請負の職員、作業員にも信頼の厚い人でした。
その仕事ぶりも、まさに自分がこの現場を取り仕切っているといった様子が見え、やる気が体中から醸し出していました。
私も、ダム建設の一部を担当するようになりましたが、工事をどのように進めていくか、また、請負会社の職員とのやり取りもどのようにすべきか、不安を持つことがあり、なかなかに現場に馴染むことができないことが続きました。
このままでは、自分の担当箇所で問題が起こるのではという懸念もあり、何とか、目の前にいるベテラン技術者の能力に追いつこうと考えました。
それからは、極力のその上司について現場を歩くようにし、また、疑問な点は率直に聞いて回りました。工程管理の会議でも、上司に負けず遠慮なく疑問点を問いただすことを繰り返すようにしました。
当初は、自分でもその姿が様になっていないことからそのまま続けることに躊躇する気持ちがありましたが、半年もすると、現場の見え方が変わってくるのを実感しました。
また、請負の職員との会話も、的を得るようになりました。
そうなると、現場に出ていくことが面白くなり、工事を自分が担っているという意識も強くなり、やる気が増してきました。
振り返ってみると、現場管理に熟達した上司が何を見、どのように判断しことを進めているか、じっくり真似ることで、自分なりの仕事のスタイルを作ることができたのだと思います。
自分の仕事のスタイルができたことで、それが自信となり、周りの人から見る目も変わってきました。また、そのような変化の下で、ダム建設に従事していることにやりがいを持ったことも確かでした。
まとめ
初めての仕事に就いたとき、周りの人たちの仕事ぶりを見て、自分にあんなことができるのかと、つい弱気になってしまうことがあることともいます。
そのようなときどうすればよいのでしょうか。今回は、自分の仕事のスタイルを作り上げることで、この弱気の思いを打破することができる事例を紹介しました。
自分の仕事のスタイルを作り上げる方法として、今野敏氏は、“やせ我慢を続けること”を進めています。
また、司馬遼太郎氏も、大きく人や組織が変わっていく上では、「かたちから入る」ことが大切と述べています。
私の経験からは、“仕事の出来る人の働き方を真似ること”を紹介しました。
ほかにもあるかもしれませんが、自分の仕事のスタイルを作り上げることで、自信がわき、それが、仕事へのやる気につながることは退化なことであると思います。






