モチベーションをアップしたいとき

「心技体」の鍛え方のヒントー青木功氏の講演から-

何か一つの技術を磨くために努力しているとき、「心技体」の充実が大切であるということをよく聞きます。

「心技体」というと、一流アスリートの人たちに関わるものと、と考えている人が多いかと思います。

しかし、サラリーマンにとっても、充実した会社生活を送るうえで、また、高い目標を成し遂げるためには、この「心技体」が充実することが大切なことであると思います。

では、「心技体」を充実させるためには、どのようなことを心掛ける必要があるのでしょうか。

今野敏氏はその警察小説中で、普段は目立たない刑事が、犯人逮捕となると目覚ましい活躍をする刑事に、「心技体」をいかに磨いたかについて語らせています。

また、ゴルフの一流プレーヤーである青木功氏も、講演の中で「心技体」をいかに磨くかについて、ミスからの経験を語っています。

今回は、今野敏氏の作品と青木功氏の講演から「心技体を磨くにはどのようにしたらよいか、そのヒント」について紹介します。

「心技体」のひとつを磨くことで他の二つのレベルも上がる

小説「大義」の舞台は、横浜みなとみらい署の暴対係です。小説では、主人公の諸橋係長、相棒の城島を始め係のメンバーの7つの場面での活躍を描いています。

係のメンバーの一人、倉持は、見かけは気弱な姿をしていますが、大東流という合気柔術を習い、犯人逮捕にかけては一流の腕を持っています。

そんな、倉持に、警察官専門の雑誌に自分の座右の銘に関する記事を載せる話が飛び込んできました。

刑事として自信のない倉持は、当初、投稿を辞退しようとします。しかし、上司の諸橋係長から、倉持の座右の銘である「心技体」についてのエピソードを編集者に話すよう勧められます。

ここで紹介する一節は、倉持がなぜ、中学のときに、大東流合気柔術を習うようになったか、その思いが書かれています。

 

 (諸橋係長)「雑誌の取材の件だ。座右の銘は、心技体でいいんだな?」

(倉持)「あの——-。本当に自分でいいんですか?」

「俺が決めたことだ」

「あ、すいません。わかりました」

「その座右の銘について、コメントすることになっているのは言ったよな。よかったら、どうして心技体なのか、俺にも聞かせてくれ」

倉持は、困ったような表情になって、城島(係長補佐)を見た。もしかしたら、助けを求めたのかもしれない。

城島が言った。

「俺も聞きたいね。心技体ってのは、相撲や武道でよく使われる言葉だよね。つまり、精神、技術、身体。この三つがすべて充実していることが大切だという——」

「はい——」

倉持は、ようやく話しはじめた。

「自分は、子供の頃から弱虫でした。運動が苦手で、身体も丈夫じゃありませんでした。よく友達にいじめられて泣いていたんです」

—————

(諸橋)「だが、おまえはそのままでは終わらなかった」

「自分とは縁のない言葉だと思いながら、どこかずっと気になっていたんです。そして、あるとき気づいたんです。どれか一つを伸ばせば、あとの二つを補えるんじゃないかってーーーーー」

「なるほど」

「そして、自分は技を選びました。中学校のときに、大東流を習いはじめたんです。自分は徹底的に技を習得することにこだわりました。気が弱いままでもいい、他の門弟より体力がなくてもいい。とにかく、自分のために技を身につけよう——。

そして、年月が過ぎ、ある時、体力に自信がついていることに気づいたのです。技を学ぼうとして夢中で稽古しているうちに、いつの間にか体が丈夫になっていたんです。相変わらず、気が弱いままですが、技でそれを補えると思っています」

城島が言った。

「十分に補っているよ」

倉持の言葉が続いた。

心技体は、すべてを充実させる必要などない。どれか一つを選んで伸ばせば、他の二つのレベルも上がる。自分は勝手にそう解釈しているんです

諸橋はうなずいた。

「いい話だ。それを雑誌の編集者にそのまま話せばいい」

(今野敏著 大義)

倉持は、「心技体のうち、一つを選んで伸ばせば、他の二つのレベルも上がる」と勝手に思っていると話していますが、ゴルフプレーヤーの青木功氏も、同じことを講演で述べています。

青木功氏が語る「心技体」の鍛え方

茂原のある会社の工場長を務めていたときのことです。

1980 年の全米オープンでニクラウスとの死闘を演じ、また、1983 年のハワイアンオープンでは逆転イーグルで優勝するなど、数々の戦績を上げた青木 功氏の講演を聞く機会がありました。

講演の中で、氏は「心技体」をどのように磨くかに関し、まずは体力を鍛えることが大切と語っていました。

青木氏の言葉です。

ゴルフばかりでなく、スポーツ一般を対象として、目標を達成していく上では、体力がもっとも大切で、一般にいわれている「心・技・体」をひっくり返して「体・技・心」であるべき。

まず、自分の弱いところを強化する上では体力が必要であり、このトレーニングにより技術がつき、技術が伴えば(優勝するなどし)心が豊かになる。

青木プロならではの解釈と思います。 

一流アスリートはいかに技術を鍛えたか

 「心技体」からの話題から離れますが、同じ講演で青木氏が、一流アスリートはいかに、技術を磨いたかについても話をしていましたので、ここで紹介します。

青木氏の講演が終わってからの質問の時間に「青木プロが認める、ゴルフ以外のスポーツのプロは誰ですか」という質問をさせてもらいました。

答えは「イチロー選手」とのことで、「日本を離れ、米国であれだけの成績(今年 200 本安 打を記録すると 10 年連続となるなど)を残せる人はすばらしい人。記録を残すだけの努力を続けている証」と話してくれました。

質問の意図は、ワシントン DC にいた時に、1984 年のロスアンゼルスオリンピック で金メダルを獲得するなど、柔道家として大記録を打ち立てた山下 泰裕氏の話した言葉があります。

その中で、山下氏も、自分以外の一流プレーヤーとして、やはり「イチロー選手」の名を挙げていたことから、青木プロはどのように答えてくれるのかなと言う興味があったためです。

答えを聞き、山下氏が、イチロー選手の名を挙げて「我々が行き着きたいところは自分が描いた遙かに高い理想の姿。その理想に向けて自分を鍛錬している」と話していたのを思い出しました。

やはり、一流プレーヤーが認める人、また、その認める根拠は結局同じような点に帰するものなのだなと改めて感じた次第です。

青木氏は、「自分が生きている間に(技術が)“完成”したと思うことはない」と話していました。一つの目標をクリアーしたら、その次にはさらに高い目標を立て努力していくことを繰り返していくのみである。

そしてこれが終わったときは自分が死ぬときとも話していました。

先に山下氏の話を出しましたが、山下氏も講演の中で、「その理想に向けて自分を鍛錬していく過程において、途中の実績は関係ない

。後ろを振り向かず、前だけを見て生 きてきた。途中で休んで、良くやった。“よっこいしょ”と言った瞬間に、引退の時が来ている気がする」と話していました。

先のイチロー選手の話と合わせ、この点でも、一流プレーヤーの考え方、行動は同じところに帰するのだなと思っています。 氏はまた、人との出会いが大切で“人からの厳しい言葉が次の行動につながる”と話 していました。

その人との接触で得られたヒントをうまく自分のものに取り込み、そのときの目標とすることで、さらに努力を積み重ねてきたのだと思います。 

まとめ

サラリーマンにとっても、「心技体」が充実して仕事に従事することできれば、生き生きと仕事ができるばかりでなく、その達成感もすばらしいものになります。

ここで紹介したように、自分が取り組んでいこうとするもの、サラリーマンであればやはり、技術、能力かと思いますが、その一つを鍛えることで、他の二つもついてくるのではないかと、私も長い会社生活で感じています。