顧客ニーズが多様化され、またコロナ禍の影響の中で、事業環境の変化が一段と著しくなっている現在、会社の一つの部門だけで仕事を完結させることが難しい時代になったと感じています。
技術商品を開発してお客様に売り込むような場合、多様なお客様のニーズに応えようとすると、どうしても一部門だけで対応していたのではお客様に満足してもらえないことが多くあります。
このように、他部門との緊密な連携を築いていくうえでは、他の部署が何をやっているか関心を持つことが重要と思っています。
作家、今野敏氏はその作品の中で、若手刑事が他部署の動向に関心を持たないことに捜査能力の低下を心配する、ベテラン刑事の言葉を書き記しています。
私も会社の社長として経営改革を進める中で、隣の部が何をやっているか知らず、また知ろうともしない会社風土に驚き、何とか他部門の動きに関心を持つよう努力した経験があります。
今回は、今野敏氏の作品と私の経験から「事業環境の変化にいかに対応するか」について紹介します。
変化への対応 –担当以外の事案にも関心を持つ-
小説「同期」は、「同期」シリーズの第一作です。
主人公である、警視庁捜査一課の若手刑事宇田川が、同期に刑事となった仲間が関連する事件の解決に向け、苦闘しながら成長していく様子を描いています。
シリーズ第一作の「同期」では、宇田川が、ベテラン刑事である植松と組んで担当した、暴力団が絡んだ殺人事件が題材です。
事件をめぐって特捜本部が設置され、宇田川も植松とともに、特捜本部に召集されました。
捜査自体は、やくざ関連の犯罪を扱う組織犯罪対策部が主導権を握っての捜査となり、応援で招集された宇田川は、いまいち、その捜査に乗り気になれませんでした。
ある暴力団事務所の家宅捜査に駆り出された宇田川は、逃走を図った組員を追いかける途中で発砲を受けましたが、たまたまその付近に居合わせたと思われる公安部に所属する警察同期の蘇我に助けられました。
宇田川はそのようなことがあってもまだ、その捜査が他人事のように思われるのでした。
ここで紹介する一節は、捜査に気乗りを示さない、そんな宇田川見て、上司である植松刑事が語りかける場面です。
「そこに公安だ——」
植松が言った。「たまたま居合わせたなんて、どう考えたって納得できない。そう思わんか?」
「言われてみればそうですが——。でも、もう自分たちの事案じゃないんでしょう?」
「最近の若いやつらは、すぐにそういうことを言う。だから、警察の捜査能力が落ちるんだ。何かといえば、自分の担当じゃない、自分の管轄じゃない——。いいか、犯罪ってのはお役所仕事の役割分担どおりに起きるわけじゃない」
そんなことはわかっているつもりだった。知能犯には、暴力団が関わっていることも多い。オウム真理教のような公安事案では、誘拐、殺人など強行犯がらみの事件が起きた。
だが、植松から見れば、宇田川などまだまだ青二才で、お役所仕事の範疇を越えられないように見えるのだろう
出典:今野 敏著 同期
事件の捜査当初は、引用した一節のように、上司である植松刑事からいろいろ小言を言われる宇田川でした。
しかし、自分を助けてくれた公安部の蘇我が大きな事案を抱え、それが、自分の捜査に関係していることを知りました。
そして、複雑な事件に立ち向かおうという強い意思が働くようになり、自ら他部署をはじめ関係個所を訪れ、事件解決に力を注ぐのでした。
他部門の動きに関心を持たない社員
私がある、土木建築関係の設計コンサルティング会社の社長を担っていたときの経験です。
その会社は創業以来、お客様が限られていたこと、また、そのお客様との付き合いも長いことから、お客様のニーズを把握しやすく、依頼事項に対しても単独の部門で対応が可能な状況でした。
そのため、多くの仕事は、他の部門と連携する必要がなく、部門間のコミュニケーションもほとんどないような状態でした。いわゆる縦割りの壁が存在しても、不都合がない世界でした。
このような状態であったため、大きく会社が成長することもなく年数が過ぎていきました。
しかし、社長になりすぐに縦割りの存在を知った私は、その程度を調べるため、社員の、他部門に関する意識調査を行いました。
その結果、考えている以上に心配な状況が見えてきました。
一つの部の中で、隣のグループが何をしているか見えないということも分かりました。
他にも、他の部ではどのような技術があり、どのような商材を売っているのか分からないといった話もありました。
このように、多くの人が、他部門に関心を持っておらず、何をやっているか全く分かっていないという状況がはっきりしました。
また、この時期、頼りにしていたお客様からの受注が減り始めていました。
これまでの売り上げを維持し、さらに成長していくためには、今までお付き合いしてきたお客様以外も対象に事業を進める必要が生じました。
他部門に関心を持たない会社の風土の悪さが、新たなお客様への対応の中で顕著に問題になりました。
単独の部門での対応の限界
私が社長に就任するまで、数少ないお客様とのおつきあいしか知らなかったため、どのように、新たなお客様に営業をすればよいか手探りの状況でした。
あるお客様のところへある部の社員が営業に行きました。
お客様からは「ちょっと前に、お宅の—部の人がきましたけど」と言われ、その社員は、何もお客様に訴えることなく、帰ってくるようなこともありました。
また、お客様のニーズは多様化しており、そのニーズに応えるためには、とうてい一つの部門で解決することには無理があることが分かってきました。
経営改革の中で執った事業環境変化への対応
新たな市場へ出るうえで問題となった、部門間の連携ができていないことの大きな原因の一つが、他部門に関心を持たず、他の部門の人とのコミュニケーションもおろそかにしてきたことでした。このため、これらの問題を解決すべく手を打ち始めました。
まず、縦割りの壁を取り払うべく、それまで各部が各階にいて、他部門との往来に難があったことから、事務所の移転を契機に、全員が同じフロアーで働けるよう広いスペースを持つビルに移りました。
また、他部門がどのような技術を持っているか、どのような技術を開発しているか見えるようにするため定期的な部門発表会を開催しました。
また、営業面では、一つのお客様対応に必ず営業部門の人が張り付くようにし、その人を中心にどのように営業を進めるかをはっきりさせるようにしました。
お客様のニーズに対応するために連携を組むべき他部門のメンバーが効率よく見つかるようになり、結果、スピード感をもってお客様に対応することができるようになりました。
また、しばらくすると、複数部門から人が出てプロジェクト単位でお客様に対応するようになりました。
このような取り組みを経て、その後の会社を取り巻く事業環境の変化への対応が社員の行動に根付くようになりました。
まとめ
事業環境が変化する中で、社員が対応すべきことは多岐にわたることと思います。
今回紹介した事例では、他の動きをまず知ることが、環境の変化をとらえることで大切であることを紹介しました。
今野敏氏が書くように、他部署に関心を持たないことで、広い視野での対応が難しくなったりしてしまうことは、多くの会社でもあることともいます。
お客様のニーズが多様化し、環境変化が速くなっている現在、ますます、ひとつの部門で、そのニーズに対応することは難しくなっています。その意味でも、部門間の連携は重要なことであると思っています。
また、お客様のニーズに応えたり、環境変化に対応したりするうえでは、スピードが大切な要因となっています。
スピード感をもってそのニーズや変化に応えるためにも、部門間の連携が必要になっていると思います。






