今の仕事に疑問がある時

仕事で失敗する2つの要因-「坂の上の雲」から学ぶ-

仕事で失敗してしまうにはいろいろ原因があると思います。

挑戦的な課題に積極的な行動に出て、その結果失敗してしまうことは、次の成長につながることであり、前向きな行動として評価されるべきことと思います。

しかし、注意する意識を持っていれば避けることができた失敗については、反省するところが多いように思います。

司馬遼太郎は、小説「坂の上の雲」の中で、本海海戦のロシア側の敗戦の事例から、意識していれば避けられた失敗の原因としていくつか挙げていますが、ここでは、以下の2点を紹介します。

① 二兎を追うもの一兎を得ず

② 見えない敵におびえる

私も、会社生活の中で、これらの失敗要因でその後の対応に苦労した経験があります。

今回は、「坂の上の雲」と私の経験から、「失敗を避けるためにはどのようなことを意識しているべきか」について紹介します。 

失敗事例1 -二兎を追うもの一兎を得ず-

小説「坂の上の雲」では、日・ロ海軍による日本海海戦の際の両軍の司令長官の意識、行動が詳細に書かれています。

ロシア艦隊は、日本海で迎え撃つ日本海軍の徹底的な攻撃を受け壊滅しますが、ロシアバルティック艦隊司令長官、ロジェストウェンスキーが日本海海戦で採用した戦術に対しては、いくつかの批判があります。

その中で、戦いに際し、ロシア司令長官が戦いに勝つことのみに集中すべきところ、それ以外にも目的を持ったことにより、海戦に集中できなかったことを敗戦のひとつの原因に挙げています。

ここで紹介する一節は、このロジェストウェンスキーが取った戦術に対し、米国海軍の大佐で、この当時の世界的な海軍戦術の研究家であった、A.T.マハンが、語った話です。

 A.T.マハンは、ロジェストウェンスキーの大航海については称賛を惜しまなかったが、しかし戦闘指導者としてのこの提督についてはひややかな分析をおこない、とくにかれが決戦前四日間においておかした誤りを執拗に指摘している。

「かれは目的の単一性を欠いていた」

と、マハンはいう。敵に勝つというこの目的に対してあらゆる集中を行うべきこの知的作業において、ロジェストウェンスキーは二兎を追ったというのである。

二兎とは「ウラジオストックへ遁走し、それによってたとえ残存兵力が二十隻になったとしても極東の戦局にたいして重大な影響をあたえうる」という目的が一兎である。

 他の一兎は、「東郷と対馬付近で遭遇するであろう。これと当然ながら戦闘を交える」という目的であった。一行動が二目的をもっていた。一行動が一目的のみをもたねば戦いに勝てないというのがマハンの戦略理論であった。

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マハンは東郷がこの「目的の単一性」という原則に忠実であったのに対し、ロジェストウェンスキーが二兎を追うためにその行動原理がきわめてあいまいになっていることを指摘している。”

(司馬遼太郎著 坂の上の雲 第七巻)

工期と品質の二兎を追ったために問題が再発

私が、ダムの建設事務所に勤務し、ダムの付帯設備の設計、施工に従事していたときの経験です。

工事は順調に進み、完成間近になっていました。しかし、最後の段階で、その構造物にトラブルが生じ、その対応に追われることになりました。

トラブルが発生するまでは、工期にも余裕があり、構造物の品質、安全性確保に十分な時間をとることができました。

しかし、工期間近に起こったトラブルのため、その原因究明、その原因に基づく処理に時間がかかることから、工期の確保が難しい状況になりました。

このため、工期確保の中で品質と安全性を確保する必要が生じ、その両方を短期間の中で追及することとなりました。

原因追及にあたっては、トラブルの原因と思われる箇所を重点的に調査し、直接の原因と思しき箇所をつきとめ、処理を施し工事を完了させました。

しかし、構造物が完成し、実際の荷重がかかり始めると、トラブルが発生した箇所で再度問題が生じてしまいました。

改めて、その個所の調査を行い、処理工事を行うことになってしまいました。

このため、工期を守ることができず、プロジェクトそのものに大きな影響を与えてしましました。

結局、時間がない中で、品質と時間の2兎を追い求めたために、生じたトラブルでした。

時間がない中でも。構造物の品質と安全をしっかり確保する行動を取るべきであったと、強く反省した経験でした。

失敗事例2 -見えない敵におびえる-

 日本、ロシアの艦隊が、日本海での戦いを始めました。

東郷司令長官は、敵前でT字戦法をとり、敵の進路に直行する位置に艦隊をもっていきました。この進路変更に伴い、司令長官がいる旗艦三笠は、敵の砲撃を一時いっさい引き寄せることとなりました。

その砲撃により、艦上では至る所で被害が発生しましたが、乗組員たちはおびえることなく、戦う姿勢をとり続けました。

そこには、東郷司令長官が以前から全乗組員に対し指導していた「見えない敵におびえるな」という教えが、乗組員全員に染みついていたからでした。

ここで紹介する一節では、東郷司令長官が日頃から船員に語っていた言葉を紹介しています。

 一方、先頭艦の三笠の被弾状況は刻々惨烈さを加えた。

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東郷はちらりとふりかえっただけでふたたび敵艦のほうを見た。この戦闘旗が一度消えてふたたびあがったとき、後続する各艦の艦長以下がひどく感動した。しかし、当の三笠ではほとんどの者が、マストが折れたのも旗がふたたび揚がったのも気づかず、操艦、射撃、伝令などの戦闘動作に夢中になっていた。

東郷はかねて、

 「海戦というものは敵にあたえている被害がわからない。味方の被害ばかりわかるからいつも自分のほうが負けているような感じをうける。敵は味方以上に辛がっているのだ」

というかれの経験からきた教訓を兵員にいたるまで徹底させていたから、この戦闘中、兵員たちのだれもがこの言葉を思いだしては自分の気をひきたてていた。

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古今東西の将師で東郷ほどこの修羅場のなかでくそ落ちつきに落ちついていた男もなかったであろう。”

(司馬遼太郎著 坂の上の雲 第八巻)

競合相手の動向を懸念し過ぎて案件失注

 私が、海外コンサルティング事業のリーダーを務めていたときの経験です。

ある発展途上国でプロジェクトの募集があり、応札することになりました。自社が持っている人材と技術力をそのプロジェクトに適用すれば、案件受注も可能ということで、応札の準備を始めました。

そのプロジェクトの受注業者は、プロポーザルの技術的な内容と応札金額の両方を勘案して決められることになっていました。

準備を始めると、数社が同じ案件に応札する見通しであることがわかりました。その中で、技術的にはやや劣ると考えられるものの、強敵となるコンサルも含まれていました。

情報を収集していると、そのコンサルティング会社は、この案件の獲得にかなりの力を入れており、金額面でかなりの譲歩をして来るのでは、という声が聞こえてきました。

このため、当社も金額面で、かなりの減額をしなければならないのではという状況となり、価格面ばかりに神経が集中してしまいました。

自ら強みとする人材と技術を使おうとすると、金額的で相手会社の金額を上回ることになりそうだということに最終的に判断がなされ、技術面での提案の質を落として応札することになりました。

結果は、金額的に差はほとんどなく、技術面でその競合会社に劣ることとなり、その案件を失注することになりました。

相手は金額で勝負してくるという、噂のみで見えない競合におびえ、自らの強みを打ち出せなかったことによる敗北でした。 

まとめ

 司馬遼太郎氏の作品「坂の上の雲」から、仕事において陥りそうな失敗の要因を、日露戦争でのロシア海軍の敗戦事例から、2点取り上げました。

  •  二兎を追うもの一兎を得ず
  •  見えない敵におびえる

この2点については、我々サラリーマンがその仕事でもよく経験する失敗の要因かと思います。

挑戦しての失敗は、次につながる可能性があるもので、積極的に挑戦する価値があるかと思いますが、二兎を追うものは一兎を得ずであったり、見えない敵におびえたりすることで失敗し、成果を得られないことには用心したいものです。