朝起きて書斎のブラインドを上げると、庭の植え込みの木槿が満開でした。
ピンクと白の花の取り合わせもよく、しばし見とれていました。
風やそよ 窓下の木槿 書を休み

さて、本題です。
組織を経営する、もしくは、あるプロジェクトを任され推進しているとき、いろいろな段階で決断を下さなければならないことが責任者にはついて回ります。
方針が決まり、決断をそろそろと思っているとき、もう少し状況を探ってから決断しようとする人もいれば、まずは、決断を下してしまおうとする人もいると思います。
DeNA会長の南場智子氏は、その著書「不格好経営」のなかで、迅速な判断の大切さを語っています。
一方で、私は、海外事業の責任者を務めていたときに、判断時期を遅らせたことで、ある案件を失注してしまった経験があります。
責任者が決断を下すときには、迅速な意思決定が、そのプロジェクトを成功裏に導くためには必要なことのようです。
また、意思決定した後、責任者はどのような行動を取るべきでしょうか。
この点についても、南場氏は明快な事例を紹介しています。
ここでは、南場氏の著作と私の経験から、「迅速な意思決定の必要性とその後に必要な行動」について紹介します。
迅速な意思決定
南場智子氏は、大学卒業後、1986年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、10年後にマッキンゼーでパートナー(役員)となり活躍していました。
その後、1999年にマッキンゼーを退社してDeNAを設立しました。
マッキンゼーでコンサルタントとして事業リーダーに経営のアドバイスをしていた立場から、自ら事業リーダーとして経営を担う立場になりました。
南場氏は、その変化について、その著書の中で物事を提案する立場から決める立場に代わったことに苦労したと書いています。
そのような意味で、我々が事業リーダーとして重い責任のもとで意思決定するときに、南場氏の語る次の一節は、事業リーダーにとっては参考になるものだと思います。
コンサルタントとして、A案にするべきです、と言うのは慣れているのに、Aにします、となると突然とんでもない勇気が必要になる。コンサルタントの「するべき」も判断だ。しかし、プレッシャーの中での経営者の意思決定は別次元だった。「するべきです」と「します」がこんなに違うとは。
(南場智子著 不格好経営)
そして、意思決定するときの迅速さの大切さについても、事例をもとに次のように記述しています。
不完全な情報に基づく迅速な意思決定が、充実した情報に基づくゆっくりとした意思決定に数段優ることも身をもって学んだ。コンサルタントは情報を求める。それが仕事なので仕方ない。これでもか、これでもかと情報を集め分析をする。が、事業をする立場になって痛感したのは、実際に実行する前に集めた情報など、たかが知れているということだ。
本当に重要な情報は、当事者となって初めて手に入る。やりはじめる前にねちねちと情報の精度を上げるのは、あるレベルを超えると圧倒的に無意味となる。それでタイミングを逃してしまったら本末転倒、大罪だ。
(南場智子著 不格好経営)
意思決定を迅速に進めるためには、方針が決まっていれば不完全な情報のもとで意思決定することの大切さをここでは紹介しています。
一方で、南場氏のアドバイスの逆を行い、失敗してしまった経験が私にはあります。
意思決定に時間をかけ案件を失注
私が、会社内のある部門の海外コンサルティング事業の責任者を務めていたときの経験です。
我々が経験してきた発電事業に関するノウハウを生かすプロジェクトを発展途上国にコンサルティング案件として売り込もうとしていました。
ある東南アジアの国の電力関係会社に我々のプロジェクトの内容を説明に行きました。
我々からのプレゼンテーションが終わり、その後の質疑も活発に行われ、先方の当案件に対する感触も良いものがありました。
その場で、プロジェクトの一部を契約することも可能でしたが、質疑の中で出てきた先方の要望を調べ直し、再度提案するほうが良いのではと判断し、一旦、東京に戻ることにしました。
先方から質問のあったことを中心に情報を集め、それらをもとに一段と納得性のあるプロポーザルを作りましたが、その間に2週間ほどが過ぎてしまいました。
プロポーザルの完成を待って、直ちに磨きをかけたプロポーザルを持参して、前回訪問した会社に再度の説明に出かけました。
内容に関してはよい感触があったものの、先方からは「その内容のプロジェクトについては、あなた方が来る前に、あるコンサルティング会社と契約を交わしてしまった」との返事がありました。
実状を探ると、我々が訪問した1週間後に競合コンサルタントが同じ会社を訪れ、ほぼ我々と同じような提案をし、その場で契約に至ったとのことでした。
結局、競合会社に先をこされ、我々は、前回良い感触を得ながら失注する羽目になってしまいました。
2週間前に、一部でも契約をする決心をしていたならと思いましたが、結局後の祭りでした。
より良いプロポ―ザルを作ってからことを進めるのではなく、迅速に判断し、その後出てくる課題については適切に処理していくことが必要であったと反省した経験でした。
選択の後が大切
南場氏は、迅速な意思決定の隊背謁差を述べていますが、一方で、選択よりも
その選択をした後の行動が大切であると書いています。
次に紹介する一節は、南場氏が一緒に仕事をしてきた若い社員が、新たな道を
見つけ、DeNAを退職するときに南場氏にあてたメールの一部です。
先日、大学時代の知人たちに「退職して文筆業に専念する」と伝えると、皆から「お前、大丈夫か?」「将来をちゃんと考えているか?」と言われましたが、笑って聞き流しました。
7年前、DeNAに就職することが決まったことを告げた時も、彼らは同じように言っていました。
「お前、大丈夫か?」「将来をちゃんと考えているか?」と。
“選択”に正しいもあやまりもなく、選択を正しかったものにする行動がるかどうかだけだと信じています。
この考え方は、DeNAで学んだ多くのことのうちのひとつです。
(南場智子著 不格好経営)
事業を進めていると、選択後に事業環境が変わったりして、当初とは異なった状況下に置かれ、そのもとでいくつもの課題を解決していかなくてはなりません。
選択が正しかったか、と問うことはせずに、選択した方向に向かい、実直に事業を進め、その中で出てきて課題については真摯に対応することが大切であることを、私もその後の会社経営で学びました。
あとがき
会社の経営ばかりでなく、プロジェクトを推進する責任者は常に意思決定を求められます。
もう少し情報を集めてからの方が確実な意思決定ができると思っている間に事は進んで行ってしまうことが多く、やはり、意思決定を迅速に行い、行動に移るべきであると思います。
意思決定をし、そちらに向かい行動してから生じる課題の方が、プロジェクトの推進にとっては、切迫性があるものが多く、早くにこれらの課題を排除して、推進することが大切であると思っています。






