上司、リーダーの役割

部下に信頼されるリーダーの行動-会社生活43年からの教訓-

あるプロジェクトで部下とともに仕事をするときに、リーダーとして一番に考える必要があるのが、部下の信頼を得ることだと思います。そして、信頼を得るためには、リーダーとしてとるべき行動があります。

例えば、部下の想定以上の働きで成果が上がったとき、リーダーはどう対処すべきでしょうか。

真のリーダーは、決して部下の成果を自分のものとはしないはずです。成果が大きければ大きいほど、自分の手柄にしたいと思うものですが、リーダーは、そのような場合でも部下の手柄を明確にし、さらに周りの人に部下の成果を公表し、称えることすらすると思います。

また、部下に対し、表面的な判断でかつ公平な姿勢で接することを避けるべきであると思っています。

今野敏氏は、その作品の中で、真のリーダーが取るべき行為として、その一例を書き記しています。

また、歴史学者、関幸彦氏はその著書「人事の日本史」の中で、武田信玄を事例に取り、部下を登用する立場から、いかに部下の信頼を獲得するかについて書いています。

私も、長い会社生活の中で、しっかり部下の成果を認め、誉め称える人もいれば、自分自身の評価を高めるために、部下の成果を取り上げて自分のものとしてしまう人もいることを見てきました。

今回は、今野敏氏と関氏の作品と私の経験から「部下に信頼されるリーダーが取る行動」について紹介します。

信頼されるリーダーの行動 1- 誰の成果かをはっきりさせる-

「警視庁科学捜査班」のシリーズでは、特殊な事件を担当するため警視庁内に設置された科学捜査班が活躍する物語です。

この科学捜査班は、キャリア警察官である百合根と医者の資格を有するメンバー、嗅覚に優れるメンバーなど、それぞれに特異な能力を有する5名の6名で構成されています。

毎回、この捜査班が、それぞれの能力を駆使して、難事件を解決し、捜査に協力していきます。

小説「プロフェッション」の舞台は、ある大学病院です。

大学の研究室の関係者3名が誘拐され、その後すぐに解放されたものの、奇妙な病気にかかり、一人が死亡するという事件が起こり、化学特捜班がその捜査に当たることになりました。

化学特捜班のリーダーであり、医師の資格を持つ赤城が、3人がかかった病気の原因として、寄生虫が関与していることに気づきました。

すぐに、赤城が、患者の担当医師にその旨をつげたことで、症状が悪化していない二人の命を助けることになりました。

ここで紹介する一節は、寄生虫が病気の原因であることを赤城が突き止めたことを評価する百合根に対する赤城の答えです。

「ネズミの寄生虫が、どうして人間に脳炎を起こさせたんだ?」

菊川(警視庁捜査一課課警部補)が訪ねると、赤城が言った。

「話を最後まで聞け。ネズミの糞とともに排出された第一期幼虫は、カタツムリやナメクジなどの中間宿主に取り込まれる。そしてその体内で、二回脱皮して、L3、つまり第三期感染幼虫となる。これが、ヒトに対しても感染源となる」

———

百合根は尋ねた。

「治療法はあるんですか?」

「通常一か月ほどで、第三期幼虫は死滅して体外に排出されるので、その段階で治癒する。予後は悪くない。だが、幼虫の数が多い場合など、大竹のように死亡することもある。サイアベンダゾールやメベンダゾールといった抗寄生虫薬を使用することもある」

「浦河さんや並木さんの担当医には、それを伝えたのですね?」

「すでに、二人は抗線虫の治療を受けていた。髄液の検査の結果で、寄生虫による髄膜脳炎の可能性が高いことがわかったからだ」

菊川が尋ねた。

「じゃあ、二人が助かる可能性は高いということだな?」

「もともと、広東住血線虫による髄膜脳炎の死亡率はそれほど高くない」

百合根が赤城に言った。

「赤城さんが、二人を助けたとも言えますね」

赤城は厳しい目を百合根に向けた。

「俺が二人に何かをしたわけじゃない。あくまでも二人の担当医が力を尽くしているということだ」

「でも、並木さんの担当医に、髄液の検査を指示したのは赤城さんですよね」

「最初に髄液検査に気づいたのは、浦河の担当医だ」

赤城は、他人の手柄を自分のものにするようなことは決してしない。誰の功績かをはっきりさせようとする。

このあたりも、リーダーとしてふさわしいと、百合根は思う。

出典:今野 敏著 プロフェッション

しっかりと部下や仲間の功績を評価し、それを公にすることで、上司や仲間から信頼を勝ち得ていく、赤城の姿が見て取れます。

信頼されるリーダーの行動 2-人の和と公正さを重視し信頼を獲得-

「人事」は、多くのサラリーマンが強い関心を持つ事柄です。

その「人事」に関する、3名の歴史学者による書、「人事の日本史」は、日本史を古代から近世まで振り返り、「人事」の本質を以下の3点の視点から、歴史の中の事例を基に明らかにしようとするものです。

  •  歴史上重要な意味を持つ人事とは
  •  個人は人事をどのように考え、行動したか
  •  日本的な人事の論理の存在

本書は、これらの視点に沿い、現代の「人事」のあり方を改めて考えさせる内容となっています。

「人事の日本史」の一項「人材を見抜く眼力」は、戦国時代の雄といわれた武田信玄が対象人物として取り上げられています。

若くして甲府守護職を継いだ後、国力のアップのため、河川の氾濫が続く甲府盆地に堤防を築くなどにより新田を開発し、農業の振興に努め、国の安定化を図りました。

一方で、「人は石垣、人は城」とうたわれているように、人を人材とみなし、その活用にも力を入れた武将でした。

ここで紹介する一節では、そのような信玄が、日頃、部下とどのように接したかを論じています。

独断専行が多い戦国武将の中にあって、信玄は合議を重んじた。出陣に際しては徹底して議論をしたという。聴く耳を持っていたのだ。

「信玄家法」あるいは「甲州法度之次第」とされた規律のさまざまには、公正を重んじたその性格が読みとれる。

自分が法律であるかのような誤解を、信玄は持たなかった。ワンマンにありがちな専横を自ら戒めたのだ。だから、もし信玄自らが法の趣旨に背くようなことがあれば、貴賤を問わず目安に申し出よ、と令達した。人の和を重視する姿勢のあらわれであり、同時に例外状況をつくらない公正さの表明だった。

領民に信頼されるゆえんである。『甲陽軍鑑』には、信玄の人の見方を知るうえでおもしろい内容が語られている。

  • 信玄宣ふ、———-一つには、分別あるものを佞人(ねいじん)と見る。二つには遠慮の深き者を臆病と見ん。三つには、がさつ成る人を兵(つわもの)とみん。是大なるあやまり成るべし。分別のある人は十を七分残して三分申す。遠慮深き者は後先をふみ、常に万事を大事にする。

 

いささか長い引用だが、人を見極める信玄の眼力がよく表現されている。そこには「分別」と「佞人(ねたみ、へつらう人物)、「遠慮」と「臆病」、「がさつ」と「兵」のちがいが語られており、真の人材は「分別」「遠慮」「兵」の気風を備えていると指摘する。

表面的な判断で人物を評することの戒めともとれる信玄の人材登用法。人の活用を通じて、信玄は甲斐を一等の国へと育成した。

(遠山美都男、関幸彦、山本博文著 人事の日本史から関幸彦、人材を見抜くための眼―武田信玄-)

信頼されるリーダーの行動 3 -功績を評価する-

私が若い時に出会った建設現場のあるリーダーの話です。

排水管を数キロメートルに亘って敷設しなければならない工事でした。工期も制限され、短かったこともあり、複数の工区に分けて工事を進めることになりました。

その現場を取り仕切っていたリーダーが、各班の陣容、班のチームリーダーを決めて工事は進められました。

期間が短いということで、そのリーダーはいかに効率よく工事を進めるか、いくつか対策を講じていました。

その工事の推進策の一つとして、リーダーが取り上げた手段が、各班に工事のスピードを競わせることでした。

リーダーの「一番進捗した班には特別賞を出す」という掛け声もあり、各班が競っての工事となり、それぞれにいろいろ工法を駆使し、何とか一番になろうということで皆努力していました。

各班の努力が実り、工事は工期末を待たず完了することができました。その工事に引き続いて、さらなる工事が控えていたこともあり、この工期短縮はプロジェクト全体のムードを盛り上げるものとして、評価されました。

普通にはその工事を引っ張ったリーダーが得意になるところですが、リーダーは、各班が、どのように素晴らしい工法を取り入れたかを明確にしました。

そして、全体プロジェクトのトップに「効率よく工事を進めた各班のメンバーこそが表彰されるべき」と報告し、自らの表彰は遠慮しました。

このような姿勢は、このときばかりではなく、常にそのリーダーが備えていた資質でした。このため、そのリーダーは、直接の部下ばかりでなく、請負の作業員からも信頼を勝ち得

ていました。

当時、そのリーダーと一緒に仕事をしていた私は、そのリーダーの行動に、リーダーとしてとるべき行動を学びました。

まとめ

チームで仕事をし、立派な成果を出したときに、真のリーダーが取るべき態度を紹介しました。

自らは、一歩引いて、部下の業績を褒める姿に、部下ばかりか、上司まで、そのリーダーを信頼するようになると思っています。

また、このようなリーダーの下には、常にやる気のある部下が集まってくることも自らの経験で学びました。

また、部下に登用とした場合など、表面的な判断で選ぶことはせず、また、公平な姿勢で活用することも大切なことと思います。