モチベーションをアップしたいとき

夢中になる仕事を見つける方法-会社生活43年からの教訓-

自分の職場で、仕事の中に夢中になるものがなく、居場所がないと思ったとき、ただひたすら給料のためだけに働くことにむなしさを感じることがあります。

一方で、一つのことに熱中している人を見ると、難しそうな仕事に見えても、なぜか明るい表情で仕事に取り組んでいるように見えます。そして実際に本人に聞くと、まさにわくわく仕事をしているという返事が返ってきます。

作家、三浦しをん氏は、その著書で一つのことに夢中になる人と、夢中になるものを持てずにいる人、それぞれの人の働く姿の違いを描き出しています。

私も、建設現場でトラブル対応を経験しました。しばらくの間、トラブル対応だけに熱中することになりましたが、夢中でその仕事に取り組むことができ、大きな達成感を得ることができました。

今回は、三浦氏の作品と私の経験から「夢中になる仕事を見つける方法」と合わせ、「夢中になる仕事に出会えたときの喜び」についても紹介します。

一つの仕事に夢中になる人の輝く姿

小説「舟を編む」の舞台は、大手の出版社です。その出版社では、今度、大辞典「大渡海」を発刊することになりました。

「舟を編む」の主人公、馬締は、「大渡海」の編纂のためその言語能力と執拗な集中力を買われ、営業部から引き抜かれました。

営業部では評価の低かった馬締ですが、辞書編纂部に異動になってからは、その仕事に没頭することができました。

「大渡海」に企画時点から辞書編集部にいた、馬締めと同期入社の西岡は、いまいち辞書編纂の、ち密な業務になじめずにいました。

馬締が営業部に配属され、一緒に仕事をするようになり、なぜあれほどまでに馬締が辞書編纂という仕事に夢中になれるのか、疑問に思うとともに、そのように夢中になる仕事がある世界に思いをはせるのでした。

 “辞書に魅入られた人々は、どうも西岡の理解の範囲からはずれる。まず、仕事を仕事と思っているのかどうかしら不明だ。

給料を度外視した額の資料を自費で購入したり、終電を逃したことにも気づかず、調べ物のために編集部に籠もっていたりする。

一種狂信的な熱が、彼らの中には渦巻いているようだ。かといって、辞書を愛しているのかというと、ちょっとちがうのではないかと西岡には感じられる。

愛するものを、あんなに冷静かつ執拗に、分析し研究しつくすことができるだろうか? 憎い仇の情報を集めまくるに似た執念ではないか。

なぜそこまで打ちこめるのか、謎としか言えない。見苦しいとさえ思うときがある。だけどもし俺に、まじめにとっての辞書にあたるようなものがあったら、西岡はつい、そう夢想してしまうのだった。

きっと、今とはまったく異なる世界が目に映るのだろう。胸苦しいほどの輝きを帯びた世界。”

出典:三浦 しをん著「舟を編む」

難しい仕事でも興味があれば夢中になれる

私がゾーン型ロックフィルタイプのダムの建設に従事していたときのことです。

このタイプのダムは、ダムの中央部に水を止めるための土質しゃ水層(コアゾーン)を設け、そのコアゾーンを保護するように、ダムの安定を図るためシェルゾーンがダムの上下流側に設けられます。

また、コアゾーンとシェルゾーンの間には、フィルターゾーンが設けられます。

コアゾーンには土質材料を、フィルターゾーンとシェルゾーンにはロック材を、逐次盛り立ててダムを構築します。

これらの材料の盛り立てにあたっては、厳格な管理基準を設けて施工を進めていきます。

この材料の品質管理を担当していたときに、管理基準を統計処理により数学的に作成するように上司より指示がありました。

それまで管理基準は、その地点で使用する材料の特性試験を実施し、過去のダム建設の事例を参考に決めてきましたが、新たな手法も取り入れようということになりました。

これまで、統計的な手法で管理基準を定めるといった取り組みはなく、どのように対処すべきか皆目見当がつかず、当初、思い悩む日が続きました。

それでも、せっかく任された仕事ということで、改めて大学時代の統計学の本を持ち出し勉強し始めました。すると、ある手法を使えば基準を導けるのではということに気が付きました。

それからは、いろいろ試計算を繰り返し、経験的な手法から導かれた基準との整合を図るなどをしながら、地点独自の管理基準を作り上げていきました。

この間、ほかの仕事を後回しにし、そのことに没頭しました。

2,3か月の検討を経て、従来の管理基準に匹敵する基準を作り上げることができました。

夢中になれる仕事に出会うためには、難しい仕事にもあえて挑戦し、任せてもらうことが大切であることを学んだ経験でした。

また、検討の最中思い悩みましたが、任せられたという自負と新たなことを作り上げるといった試みに夢中になり、その間は建設現場での仕事の中で、最も面白い時期の一つとなりました。

職場に自分のいる場所を見つけることも大切

改めて、「舟を編む」からの抜粋です。

「大渡海」の編纂が始まって、すでに13年が経ち、馬締主任のもとに、新たに若手の女子社員、岸部が配属されてきました。

辞書編集部の社員は馬締主任一人であり、それまで女性雑誌の編集部にいた岸辺にとっては異次元の世界でした。

当初、岸部は、配属されても仕事を指示されるわけではなく、上司の馬締主任は自分の仕事に没頭するだけで、何となく疎外感を感じ、何を支えに仕事をするのかわからなくなり、そんな状態に嫌気を感じるのでした。

 “「ノーザン・ブラック」編集部のころは、同年代の編集者やライターがまわりに多くいた。
———
それがどれだけ気分転換になっていたか、異動二日目にして身に染みてわかった。

辞書編集部には、ほとんど馬締しかいない。共通の話題がないだけならまだしも、意味不明な古語で話しかけてくる。どうしたらいいのかわからない。

新年度の始業式の日の気分を、岸部はひさしぶりに思い出した。
———
始業式とちがうのは、「新しいなにかがはじまる」という期待がまるでないことだ。

会社の仕事は義務ではないけれど、学校生活を送っていたころに感じた新鮮味やときめきから遠い気がする。お金を稼ぐためだけに働くって、人間の精神構造上、無理なのかもしれない。岸部はため息をついた。

会社の意向や、自分の中に生じる慣れや惰性。ただでさえ、いろいろ折り合いをつけなきゃいけないことが多いのに、職場の人間関係にも楽しみがないなんて。何を支えに働けばいいのか、見失ってしまいそうだ。”

出典:三浦 しをん著「舟を編む」

このように、辞書編集部に異動になった当初、疎外感を感じた岸辺でしたが、辞書づくりの面白さを知るようになると、自分がなすべきこともはっきりし、辞書編纂の完成にむけ熱中していくのでした。

この岸辺のように、プロジェクトの中に、自分が興味をもつ分野を見つけることも、仕事に夢中になれる手立てであると思います。

将来のあるべき姿を持つことで仕事に夢中になれる

私がある土木建築設計コンサルティング会社の社長を担っていたときに経験した、新入社員や中途採用の人たちの例です。

「舟を編む」の岸辺と同じように、会社に入ったばかり、もしくは、異動したばかりのときは、どんな仕事をやったらよいのかわからず、職場での自分の立ち位置がはっきりせず、仕事へ向かう気力が失せてしまうことがあるようです。

なぜ、これらの人がやる気を持てないか、面談などで話を聞くなどしてその原因を探り、わかったことが2点あります。

一つは、自分が所属する組織がどのようなことを目指しているのかが、明確になっておらず、組織にいることに納得感が持てないこと。

二つ目は、その中で、自分の仕事がどのように関わっているのか、立ち位置が明確になっていないこと。

これらの原因を払しょくするため、新しく会社に入った人に対し、所属する組織の長から、その部門が目指す世界および、その中で、その人が何をやり、どのように貢献できるのかを、よく話をし、理解してもらうことを継続的に進めました。

その後、半年、1年経過した時点で、対象になった人たちの何人かに話を聞きましたが、おおむね、自分が何を目指して仕事をしているかが明確になっており、やる気をもって仕事に立ち向かってくれていることがわかりました。

この経験から、仕事に夢中になるためには、今、自分が何を目指して仕事をしているかを明確にすることが大切であることを学びました。

まとめ

これからの時代、せっかく会社に入って仕事をするのであれば、わくわく感をもって毎日を過ごしたいものです。

そのためには、仕事に夢中になるものがあることが重要だと思います。そのための方策として、3点事例をあげさせてもらいました。

  •  仕事の中に、自分が興味をもつものを見出す
  •  難しい仕事でも挑戦し、任せてもらう
  •  自分が所属する組織が何を目指しているのか、そして、自分が手掛ける仕事がどんな形で会社もしくは社会に貢献しうるのかをよく理解する

 

これらの取り組みでは、個人ではなかなかに難しいことでもあり、上司の役割も大切になります。

部下が、今の仕事にどう対峙しているか、どのような状態であるかに関心を持ち、率先して部下にその仕事の意義を話しかける必要があると思います。