上司、リーダーの役割

上司との円滑なコミュニケーションの取り方

上司にはいろいろな人がいます。

その中で、結構多いのが、仕事がよくできるものの、小うるさい上司ではないでしょうか。そして、そのような上司は、どうしても部下に小うるさく対することが多いようです。 一方で、部下のほうは、うるさく言われるのが嫌で、上司に話すことを遠慮しがちになります。

このような上司に何か言われると、どうしても相手が上役であることから、言われることを、無理と分かりながら対応してしまうことが多いかと思います。また、言いたいこともいえず、ストレスをためてしまうことになるのではないでしょうか。

このような上司と円滑にコミュニケーションをとるためには、どう対応すべきでしょうか。

今野敏氏はその著書で、駆け引きが上手な人の特性を述べ、示唆を与えてくれています。

また、私も、建設現場に務めていたときに、ある時期まで上司に言われるままに、対応し対案したが、ある事件をきっかけに。はっきり意見を言うことで、上司の信頼を獲得したことがあります。

今回は、今野敏氏の作品と私の建設現場での経験から「上司と円滑にコミュニケーションを取るにはどうしたらよいか」について紹介します。

上手な駆け引きでコミュニケーションの円滑化を図る

小説「清明」は、東京の町田市で発生した殺人事件で始まります。警視庁と神奈川県警が共同で捜査を進めることになりました。

被害者が中国人であることが判明し、犯人も中国人である可能性が出てきました。

犯人が中国人である場合には、中国と日本の政治的な関係を考え、中国政府を意識しなければならず、捜査が面倒になることを警視庁の伊丹刑事部長は心配しています。

そのような伊丹部長の姿勢に対し、主人公である神奈川県警の竜崎刑事部長は、政治的なことは考えず、あくまで日本としてこの犯罪を裁く必要があると、原則論を主張します。

その二人の会話の中で、駆け引きの上手な人とはどういう人かを竜崎部長は語っています。

(竜崎)「被害者が中国人だということは、犯人もそうだという可能性があるな」

(伊丹)「そうでないことを祈るな——。もし、被疑者が中国人ということになれば、取り調べなどが面倒なになるし、中国の捜査当局も何か言ってくるかもしれない」

「別に何を言ってこようが構わないだろう。日本での犯罪は日本で裁くのが原則だ」

「政治的な駆け引きってやつがあるだろう。政府が中国との揉め事を回避しようとすれば、中国側の要求を受け入れるかもしれない」

「外国人犯罪者を本国に引き渡すかどうかは、東京高裁が決めることだ。政治的判断が入る余地はない」

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(伊丹)「おまえの理想主義には頭が下がるよ」

(竜崎)「おまえがしっかりすればいいんだ」

「どういうことだ?」

「捜査本部長はおまえなんだ。政治的な思惑などが介入しないようにするんだな」

伊丹は渋い顔になった。

彼は政治的な駆け引きが得意だと思っているようだ。だが、実はそうでもないと竜崎は思っている。

本当に駆け引きが得意な人物とは、はっきりとノーと言える人のことだ。伊丹はそうでない。

伊丹は言った。

「そういうのは、おまえに任せたいところだがな——」

竜崎は何も言わないことにした。

(今野 敏著 清明)

竜崎部長は、いろいろ考えて、結局本質にかかわることでも何も話をしようとしない姿勢を戒めました。

そして、この事例は、言うべきことはしっかり言うことが、上司や関係部署とのコミュニケーションを円滑にし、問題の解決には必要であることを示しています。

私も、建設現場で、上司に対し、言うべきことをしっかり言うことの必要性を学びました。

上司に何も反論せず対応することの弊害

土木構造物の建設事務所で私が一部署を任されていたときの経験です。

すぐ上の上司である所長は、技術力もあり、優秀な人でしたが、我々の行動にかなり入り込んで小言を言うことで、近づきがたい人でもありました。

その所長から言われたことは、素直にそのまま対応し、小言に対しても所長との関係が悪くなることを心配し、時間がかかることでも対応するようにしていました。

このようなことで、一見所内は落ち着いていました。

別の建設所から見ると、我々の建設所は、かなり変わった組織に見えたようで、時々、「お前のところはなんか固い感じがするな」と言われたこともよくありました。

確かに所長の意見が絶対で、意見を戦わせる雰囲気にはなりにくい状況でした。

このため、建設所全体としての考え方に偏りが生ずる弊害もありました。

上司への「ノー」の発言をきっかけにコミュニケーションが円滑に

上司追随の状況がしばらく続きました。

しかし、私が課長を務める課全体で、残業をいとわず、一つの仕事を実施いているときに、所長追随を改めなければならない状況が発生しました。

仕事のはかどりが遅いと感じたのでしょうか、所長が、わざわざ部屋から私のところへ来て、「どうなっているんだ」といった発言がありました。

部下を含め我々が、期限内に何とか終わらせるべく、今まさに佳境に入って仕事を完成させようと、熱中している状況を理解せず、そのような言葉を発したのでした。

それまでは所長の小言については素直に話を聞いていたものの、ここは、直属の部下である私からひとこと言わなければと判断しました。

現状を見てから発言してほしいこと。このような発言が続くと、部下もやる気をなくすことを、即座にはっきり告げました。

言ってしまったときには、まずい関係になるかなと思い、その後、気にしながら業務を進めていましたが、所長からはそのことで特に話もありませんでした。

その後、小言はなくなり、仕事そのものも私に任せてもらうことが多くなり、私への信頼が増しました。そして、その上司とのコミュニケーションには心が通うようになり、むしろ今までより円滑になった気がしました。

今野敏氏が書くように、所長との駆け引きにおいて、はっきりノーといったことが、結果的には功を奏した経験でした。

まとめ

仕事が、いろいろな人、組織に関わってくると、それらの関係者のことを考えなければならいことは、日常的に発生することと思います。いわゆる忖度が働き過ぎる常態化と思います。

このようなときに、相手のことばかりを思い、波風立てないように対応するだけでは、結局、長期の良好な関係作りは難しいようです。

いうべき時にはっきりノーと言える関係が、お互いの信頼関係を増すことになる基本だと思います。

このような何でも言える風土が、上司とのコミュニケーションを円滑にする大切な手立てであると思います。

さて、部下がどうあるべきか、ということばかりを書いてきましたが、上司のほうが気を付けなければならいないことでもあります。

部下が、話しにくい、また何か言われるといった気を使わせないよう、職場の風土を作り上げていく必要があると思います。