能力を高めたいとき

顧客ニーズを把握することから商売は始まる

新しく事業を始めるときとか、今ある商品の市場を広げようとするとき、営業を担当するものとして、どのように対応すべきか悩むことが多くあると思います。

一方的にこちらから商品の説明をしているだけでは、お客様の納得感は得られません。いかに、お客様が今抱えている困りごとや、お客様が気付かない困りごとを聞き出すこ

とができるかが、商売を進めていくうえでは大切なことです。

作家、今野敏氏は、その著書の中で、取り調べに当たる刑事が、いかに被疑者から本当のことを聞き出すかといった場面で、そのやり取りを書きあらわしています。相手に対する対応という意味では、営業にも役に立つ話であると思っています。

また、私も会社の社長となり、市場の拡大を狙ったときに、いかに営業を進めるか、また、営業担当の能力を高めていくかといったときに、このニーズの把握が大きなテーマとなりました。

今回は、今野敏氏の作品と私の経験から「いかに顧客ニーズを把握することが商売を進めるうえで大切か」について紹介します。

顧客ニーズの把握には安積刑事の取り調べが参考に

小説「炎天夢」は今野敏氏が描く警察小説の安積班シリーズの一冊です。

「炎天夢」の舞台は、安積刑事が所属する東京湾臨海者です。管内でグラビアアイドルの殺人事件が発生しました。

事件には、芸能界の実力者、柳井が絡み、そこに柳井と親しい関係にある刑事部長が捜査に絡んでくるなど、捜査は難しい問題を抱えながら進んでいきます。

いろいろ思惑がある中で捜査が進み、殺人事件の被疑者を逮捕し、取り調べに入りましたが、この被疑者に対し、安積刑事はこれまでの操作から真犯人であることに疑問をもっています。

その被疑者に対する取り調べに対し、今までのやり方を踏襲し、何とか自白させようと、取り調べにあたった刑事は望みます。

ここで紹介する一節は、昔からやられている、自白を取ることに専念するやり方を嫌う安積刑事が、その取り調べの担当として臨んだときの姿勢です。

”昔から「落とせばいい」と考えている刑事はたくさんいる。

被疑者の人権など、どうでもいい。

自白を取ることが自分の仕事だ。そういう考えなのだ。

それはわかっているが、安積はそういうやり方を嫌っていた。捜査員と被疑者、お互いに納得した上でないと、本当のことは聞き出せない。

だったら、捜査の段階で何が本当なのかを知るべきだと、安積は思う。それはそれほど難しいことではない。

相手の話に耳を傾け、疑問に思ったことを、素直に尋ねればいい。ただそれだけのことができない捜査員が多いのだ。

あるときは思い込みで、あるときは怠慢のせいで、大切な「あと一言」が聞けないのだ。

自分自身はそれを避けたいと、安積は刑事になって以来ずっとそう考えていた”

安積は、被疑者から本当のことを聞き出すことに成功し、新たな真実が判明し、捜査は解決に向かっていきます。

取り調べとお客様のニーズをつかむこととは場に大きな違いがあります。しかし、安積刑事の語る言葉は、そのままにお客様の本当のニーズや困ったことを聞く際に役立つ言葉だと思います。

顧客ニーズの把握には「思い込み」が弊害に

安積刑事が話していますが、「思い込み」がお客様の声を聞く際邪魔になることが多々あります。

私が、土木建築関係のコンサルティング会社の社長を務めていたときの経験です。会社では、電力設備やインフラ関係の設計、構造物の耐震性評価などを事業の柱としていました。

会社の事業の成長を目指した市場拡大のため、今までお付き合いのなかった顧客への商品(私の会社の場合はコンサルティングサービス)の売り込みをスタートさせました。

それまで、親会社との取引が多かったため、他の会社への売り込みに営業スタッフが慣れていないため、なかなかに新たな顧客を獲得することが難しい状況にありました。

とくに多かったのが、お客様のところへ出かけて行ったときの対応のまずさでした。

営業担当者が顧客に対したときに、その商品のことならすべてわかっているといった身勝手な自信から、顧客のニーズをしっかり把握することができませんでした。

また、お客様が何か質問しようとすると、それはこういうことですと、お客様の話をさえぎって説明しようとしたりして、かえってお客様の信頼を失ってしまうことがありました。

結局、お客様にはその商品は売れず、その後も声がかからなかったことがあります。

これが、まさに安積刑事のいう、「思い込み」がなせる業であったと思います。

では、どのようにお客様に対すればよいのでしょうか。答えは「真摯に聞く」と「的確に応える」ことだと思います。

(1)真摯に聞く

お客様の所へ伺った際は、まず、来訪の趣旨を簡単に述べ、お客様の話を真摯に聞くことが大切だと思います。

聞くということが大切と分かっていても、その商品については、自分が一番よく理解していると、心に思っていることがあると、必ずそれは顔に出てしまいます。

お客様の話を聞くときによく耳を傾け、まさにそういうことだったのかという姿勢で聞く、真摯な姿勢が必要です。

(2)的確に応える

安積刑事の言葉に「怠慢」がありました。

お客様の話を単に聞くだけでは、お客様の本当のニーズにはまだ至りません。聞く一方で、的確に質問に答える必要があります。

そのためには、お客様のところへ伺う前の準備が必要です。

想定される質問、さらには、お客様が困っていそうな事柄を想定し、説明できる資料を用意する必要があると思います。

安積刑事の言葉にある、「怠慢」により、せっかくお客様が抱えているニーズを聞きそこなうことになります。

このような基本的な行動をしっかり身につけるようになり、徐々に、新しいお客様とのおつきあいが始まりました。そうした新たなお客様とのおつきあいの中で、営業スタッフも自信を持つことができ、市場拡大にめどがつきました。

まさに、顧客のニーズをしっかり把握することで、商売が始まったわけです。

刑事の取り調べと営業、何の関係もないようですが、安積刑事の語る言葉はそのままに営業の現場に役立てる私の経験でした。

まとめ

顧客のニーズの把握のために意識しなければならないこととして、「真摯に聞く」と「的確に応える」の2点を大事なポイントとして書かせてもらいました。

今回は、商売をする上での話としてこの2点を紹介しましたが、この2点については、会社内の上司と部下の関係、外の関係者との関係においても、サラリーマンとしてよく理解しておく必要のある、姿勢ではないかと思っています。