仕事で行き詰った時

プレゼンでの緊張をほぐす方法-会社生活43年からのアドバイス-

会社で仕事を任せられると、大事な企画会議で会社のトップの前でプレゼンをしなければならないとか、大勢を前にスピーチを行う機会が必ず訪れます。

準備をしていても、いざその場になると、緊張してしまい、思うことの半分も説明できなかったり、話せなかったりした経験を多くの方は持っていると思います。

今野敏氏は、その著書の中で、主人公が突然の事態にひるみ、心臓がどきどきしていく中で、意識を変える逆転の発想で、気分を落ち着かせていく様子を描いています。

私も大勢の人の前で挨拶することが苦手でしたが、ある方の発言をきっかけに、挨拶することにむしろ積極的な姿勢で臨めるようになりました。

今回は、プレゼンやスピーチなどで緊張しないための方策について、今野氏の作品と私の経験から紹介します。

 

逆転の発想で緊張感をほぐす

今野敏氏の小説「虎の道流の門」は、空手道に新たな息吹を入れるため、新たな空手の団体を立ち上げた麻生英次郎と格闘技大会で不敗を誇る南雲凱の二人が主人公です。

新たな空手道を立ち上げ、麻生英次郎は常勝軍団の総帥として名を広めていきますが、自分が目指す理想と現実の乖離に悩みを深めます。

一方、苦労を重ねた南雲は、格闘技大会で連勝をつづけ、裕福に暮らしますが、その生活に満足できないものを感じています。

そして両者は、その道の頂点を極めるため、対決することになり、最後に感動の結末を迎えます。

ここで紹介する一節は、麻生英次郎が新しい空手団体を起こし、評判が高まってきたときのことです。

評判が高まるにつれ、道場を訪れる人が見え始めました。その中に、実力を備えた様子の空手家が道場破りに現れました。

一瞬、ひるみ、弱気の顔を見せた麻生でしたが、ある逆転的な発想がひらめき、その途端に気が落ち着き、真の実力でその相手に対峙することができた時の話です。

英次郎は、自分の顔色が失せていくのを感じていた。口の中が渇き、下にしびれたような感覚がある。心臓の鼓動が激しさを増していた。

フルコンタクト空手の大会準優勝者。となると、戦いは本気のどつき合いになるだろう。あばらの一本や二本は覚悟しなければならないかもしれない。英次郎がプロの空手家だったら、怪我のことなどそれほど気にしなかったかもしれない。

事実、学生時代は、怪我をそれほど恐れてはいなかった。

だが、社会人ともなるとそうはいかない。空手でけがをしたから会社を休むなどということは許されない。

英次郎は、そのときふと思った。

これは、いいチャンスなのではないだろうか。

道場生たちも英次郎に対して、妙な憧れを抱いているという。

ここで、英次郎が、相手にしたたかにやられてしまえば、そうした幻想のようなものが払拭される。

そう考えると、気が楽になった。

出典:今野 敏著 虎の道 龍の門(下)

突然の事態に、麻生は逆転の発想で意識を変えることで緊張感をほぐしました。プレゼンでもスピーチでも同じような緊張感に捕らわれると、つい弱気になってしまいがちです。このようなとき、いっとき、プレゼンに集中している気をそらすことで、緊張感がほぐれるようです。

 

緊張し続けたスピーチの後に受けたアドバイス

私が米国、ワシントンDCの事務所に駐在になってすぐのことでした。

事務所の所長として、あるパーティーで最初の挨拶をすることになりました。

人前で挨拶することに慣れておらず、それも米国人も招待されている会での挨拶であったため、数日前から何を話すべきかを考え、英語に訳し準備を進めました。

当日は、朝から重い気分で過ごしていました。

パーティーが始まり、いよいよ私の挨拶の順番がやってきました。

のどが渇き、用意した原稿を置く台もなく、原稿は胸のポケットにしまったまま挨拶せざるをえない状況で、うまく英語が話せるかなど、悪い思いにとらわれ、気分は滅入る一方でした。

用意した原稿の半分も話したかどうかわからないうちに、あいさつを終えました。

皆さんに自分の英語がわかったかも心配で、挨拶の後も落ち着かない気分でした。

挨拶を聞いていた一人の方の話で一気に気が落ち着くことに

夫人は続けて「今の挨拶はよかったわ。一番に原稿を見ないで、私たちのほうを向いて話していたのがよかった。また、ぼくとつとした語り口がほほえましかった」と。

その話を聞き、気分がほぐれるとともに、うれしい気持ちでいっぱいでした。

この経験で、プレゼンやスピーチをするときには、流ちょうでなくても、相手の顔を見て語りかけることの大切さを学びました。

 

気分をほぐす術を覚えることで緊張感がほぐれる

その後も、何回か挨拶をする機会がありました。

特に、日本の有名な俳優がワシントンDCを訪れた時には、その方が主人公の映画の紹介で、その俳優の方と同じ舞台に立ち挨拶することがありました。

以前の自分に戻るのではという不安がある中での挨拶となりました。

やはり、原稿を読む雰囲気ではなく、頭に叩き込んだ挨拶の内容を話しました。

以前の私であれば、声も出ず、内容も分からない挨拶となっていたと思いますが、ワシントンDCに来て、最初の挨拶の後にもらったご婦人のアドバイスのおかげで、それほど上がることなく挨拶ができたことを覚えています。

まとめ

大事な場でプレゼンやスピーチをするときとか、突然の事態に遭遇したときなど、悪いことばかりを考えて、つい弱気になってしまうことはよくあることだと思います。

このようなとき、緊張感をほぐすために、少し違った見方でその場を見てみることで気分を落ち着かせることができ、実力を出し切れるのではと思っています。

また、プレゼン時に、相手の顔をしっかり見、語り掛ける口調で話すことが大事で、常にこのことを意識して行動することで、いざというときに緊張感を和らげることができると思います。

追記

なお、ワシントンDCでは、挨拶の最初にウイットに富んだ内容を入れると、お客様をひきつけるのに効果があると教わりました。

ウイットのある話が思いつかないときは、壇上に上がる時に、あえてつまずいてみせるのも良いとのアドバイスもありました。