今の仕事に疑問がある時

会議では発言してこそ価値が

企業を含め、ある組織を作ると会議は必ずついて回ります。しかし、なかなかに若手が発言することは難しいようです。

また、会議に強い権限を有する上司が出席している場合には、どうせあの人が最後は決めるのだからということで、発言をあきらめてしまうことが多いかと思います。

さて、情報を共有する場合などは、この様なことで会議が進められるのも許されるかもしれません。しかし、多様な情報を集め、ある方針を決めるときなどに、このような姿勢でよいのでしょうか

今野敏氏は、その警察小説の中でこの海外の問題点を描いています。

若手刑事が捜査本部の会議で、これだけは発言しなければ、と思いながら周りの雰囲気に押され、結局発言できず、忸怩たる思いにとらわれる状況が書かれています。

私も、若い時に、方針を決める会議で発言しなかったことから後で問題が生じ、あの時なぜ発言しなかったのかと強く反省した経験があります。

また、アメリカに駐在した時には、「会議に出て発言しない人は、参加していないことと同じ。それでは時間の無駄」と、米国の知り合いに云われたことがあります。

今回は、今野敏氏の小説および私の若いころとワシントン事務所での体験から「会議で発言することの価値、大切さ」について紹介します。

大事な一言を発言できない会議の雰囲気

小説「化合」の舞台は、板橋警察署です。

管内で殺人事件が発生し捜査本部が置かれ、板橋警察署と警視庁捜査一課からなる捜査本部が設置されました。

この捜査本部には、通常、現場捜査には顔を出さないエリート検事、烏山がわざわざ殺人現場に出向き、捜査の音頭を取ることとなりました。

烏山検事が信奉する病に侵された先輩検事に成果を見せたいと思い、早くに解決をしたいと焦る検事のもと、捜査の初期段階から容疑者を絞りこむ状況となりました。

現場の刑事たちは、今の段階ではまだ容疑者を固めず、捜査を広い視点から進めなければならないと思っています。

しかし、検事に盾突くことも出来ず、捜査は検事の思う方向で、進みそうになっていました。

その捜査本部に詰める、若手の菊川刑事も検事のやり方に疑問を持つ一人です。

初期の段階で話題となった、事件の発生場所に着目すべきと思っており、何とか現状の進め方を変えたいと思いながら捜査会議に臨みました。

ここで紹介する一節は、会議で発言できなかった菊川刑事の残念な思いを描いています。

菊川は、疑問に思っていることを発言しようかどうか迷っていた。生田(被害者)がどうしてあんな時間にあんな場所で死んでいたのか——。

真夜中から明け方にかけて、自宅から遠く離れた場所に来ていた。それには、必ず何か理由があるはずだ。その理由が、殺害されたことと関係があるかもしれない。

捜査会議で一度話題になりかけたことがある。だが、今のところ、本格的に議論されていないし、まだそのことについての、捜査員たちの報告はなかった。

百目鬼課長(捜査一課長)が、烏山検事に言った。

「いずれにしろ、まだ引っ張るには早すぎるでしょう」

(烏山検事)「では、泳がせて様子を見ることですね?捜査員を張り付かせてください。」

———-

菊川は、発言しようかどうか、まだ迷っていた。会議は終わろうとしている。このままだと、烏山検事の思惑のままに捜査本部の方針がずられていくような気がしていた。

「では、これで会議を終わる。解散」

牧野理事官が言った。

結局、菊川は発言できなかった。捜査会議は基本的には、会議というより連絡会だ。捜査員が情報を上げ、幹部が指示を出す。決して議論を戦わせる場ではないのだ。

だから、菊川のような下っ端は、なかなか発言の機会はない。無理に発言すると、出しゃばるなと言われそうな気がする。だが、勇気をもって発言すべきだったかもしれない。菊川は、ちょっとばかり自己嫌悪に陥っていた

(今野 敏著 化合)

この後の捜査も、検事の思惑で操作は進みました。しかし、真犯人ではない容疑者が逮捕されました。

容疑者が自白を迫られる段階で、捜査一課長の判断を得て、検事の示す捜査方針とは異なる捜査を菊川刑事たちは進めることになりました。

その方針が功を奏し、結局、検事が意図した容疑者とは別の容疑者が逮捕されることとなりました。

菊川検事の思いは通じましたが、検事の思惑で進捜査が進められたままであれば、冤罪を生む結果にもなりかねない事件でした。

菊川刑事が、会議で発言できなかったことを強く反省し、自分の考えをはっきり捜査で発言するようになったことが、事件の解決の重要なターニングポイントとなりました

疑問点を発言せず、同じトラブルが発生

このブログで何回も書いてきましたが、若い時の設現場での経験です。

私が従事した土木工事も終盤になり、工期が迫っていたときに起きたトラブル対応の話題です。

トラブル発生の原因解明のため、すぐに調査が開始されました。工期も迫っていたことから、ある程度の調査で結果を出し、今後の方針を決める必要がありました。

その方針を決める会議がありましたが、現場に最も近いところでずっと工事を見ていた我々は、今少し、調査を進める必要があるのではと思っていました。

しかし、工期内に工事を終わらせたい、という上司の強い思いがあり、その会議では何も発言できないまま、今後の方針が決まってしまいました

その方針に沿い修復工事を進めましたが、結局、トラブルは解消せず、再度の工事が必要になりました。

このため、前回より広範囲の調査を行い、しっかり原因を掴んで修復工事を進め、工事を完了することが出来ました。

工期は少し伸びたかもしれませんが、真の原因を掴んで工事を進めていれば、やり直しするほどには時間も資金もかからなかったのでは、と反省した経験でした。

会議に出たら発言する世界

ワシントンDCに駐在していたときの経験です。

場所柄で、毎日のように国際問題を議論するセミナーが開かれていました。

私も、着任早々から、そのようなセミナーに顔を出すようになりました。米国人で知り合いになった人とも頻繁に顔を合わせるようになりました。

あるときのことです。私がセミナーに参加しているのに、何も発言しないことを奇妙に思ったのか、その知人がわざわざ私を昼食に誘い、アドバイスしてくれました。

「せっかく、いろいろな分野の人が参加しているセミナーで、なぜ君は発言しないのか。

アメリカでは、発言しない人は会議に参加する資格がないと思っているよ。何か興味があるから参加しているのだろう」といった話でした。

おっしゃるとおりで、セミナーでの講演者の話の中には興味があり、質問したいことはありますが、自分の英語ではとか、今聞かなくてもとか思い、なかなかに発言できませんでした。

しかし、アメリカ人のアドバイスがあってからは、事前の勉強もし、発言をすることを意識するようになりました。あるとき、事前の勉強と発言するという強い意識の成果が出ました。

講演内容に関し質問をすると、司会者から「グッド クエスチョン」という反応があり、気をよくした覚えもあります。

会議では逡巡するのではなく、積極的に発言すべきと強く思った経験でした。

まとめ

偉い上司がいる会議では、どうしても遠慮が先立ち、思っていることを発言できないのが多くのサラリーマンの現状かと思います。

発言しなかったことで、上司の思う方針を変えることが出来ず、問題が深みにはまってしまう事例を書かせてもらいました。

この一言が今後の調査なり、組織の今後に影響するときには、意を決して発言することが大切だと、その反省から思いを強くしています。

いまの世の中は、私が、会社生活を送ったときよりも開放的になっており、コミュニケーションも取りやすくなっているかもしれませんが、いざというときに、声が出ないのは今でも同じと思います。

自分の考えを言う勇気を持つこと、上司は、そのような雰囲気を作り上げていくことが大切と思います。