目標達成に向けて

目標達成直前のポイント-気の緩みに注意- 

仕事を任され、その仕事をどう進めるかといったときには、きっと目標を設定することと思います。

目標に向けてまず一歩を踏み出し、八合目くらいまでは緊張感をもって仕事に対峙しますが、あともう少しで終わると思った瞬間に、気が緩んでしまうことがあります。

そして、このようなときにいろいろトラブルが発生しやすくなることも確かです。

宮城谷氏はその著書で、困難を乗り越え、あと少しで目的地に着こうとしたときに、その部隊を引っ張っていたリーダーが、ふと気を緩めてしまうことがあり、そのことを主人公が戒める場面を書き記しています。

また、宮本輝氏もその作品の中で、目標達成直前の気の引き締めについて書いています。

私も会社の社長を務めていたときに、ある会社からの仕事を受注する最終段階で詰めが甘く、取れそうだった仕事を失注してしまった経験があります。

また、著名なアスリートである、山下泰裕氏をはじめ、偉大な成果を上げた人も、最後まで気を抜かずに鍛錬することの大切さを述べています。

今回は、宮城谷氏と宮本氏の作品、および私の会社経験から「目標達成直前に気を付けることとして、気の緩みに注意」について紹介します。

スキを見せぬ人が目標達成間近で気の緩み

「介子推」の舞台は、紀元前の中国です。

紀元前に、中国山西省で数百年にわたって存在した「晋」という国家があります。

紀元前600年ころ、晋の国家が跡継ぎの問題で国内が乱れ、王の2番目の子である重公子は身の危険が及んできたことから、国外逃亡を図り、斉の国へ向かいます。

結局、重公子はその後、晋国に戻り王となり、次第に強大化し、天下の覇権を握ることになります。

重公子が覇権を握る前は幾多の困難に出会いました。その重公子が困難な逃亡も間もなく終わり斉の国に入ろうとしたときのことです。

重公子の信望の厚い先軫が、重公子の逃亡のリーダーとなり、一切の采配を振るってきました。斉の国が近づいたこともあり、まさにその先軫が気を緩める発言をしました。

ここで紹介する一節は、その言葉を聞いた主人公の介子推が先軫を諫める場面です。

“先軫)「まもなく、道が広くなろう。難所はおわりだな。あと数日で河水(黄河)のほとりに達する」

そのいいかたは先軫の気苦労がなみなみならぬものであったことをあらわしている。みずからの苦労をみずからなぐさめたのであろう。その表情をうかがった介推は、

——-これほどすきを見せぬ人が、ここで弛むか。

と、不安をおぼえた。

先軫の気の弛みは全体の弛緩につながる。

この点、介推は異質であった。

邪気は人の虚を衝く。

———-

「愚見を申し上げてよろしいですか」

介推は少し首をたかくあげた。

「なにか」

先軫の目が、いってみよ、とゆるしている。

「この道の東にある山岳は赤狄の巣であるときいております。———–赤狄の矢が降ってきそうな気がいたします。——–とくにご用心なさるべきではありますまいか」

「うむ——-」

先軫はまさに虚を衝かれたおもいがしたのであろう、眼光の強さをよみがえらせ、介推をひとにらみしたあと、からりと笑い、

「よくぞ申した。——-赤狄が高所からわれらをながめ、つけてきているとすれば、こちらの緩怠は手にとるようにわかる。むしろここからいそぐべきだ」

(宮城谷昌光著 介子推)

苦労の末、間もなく目的地に着こうとした部隊のリーダーの気の弛みを、部下が、その直前で諫めることで、敵の攻撃を免れ、無事目的に入ることができました。

どのような意志の強い人でも、ここまで来ればと思い、ふっと気を抜いてしまうことがあります。

このようなことは、サラリーマン生活でもいろいろな場面で生じることで、私もこのような経験をしました。

ゴール直前に「さあこれからだ」と気の緩みを意識する

小説「彗星物語」の舞台は、大坂の2家族、13名と犬が暮らす一般的な家庭です。ハンガリーから留学生、ボラージュが訪れ、家族能の暮らしは一変します。

家族が抱える、娘の恋愛問題ほかに遭遇する城田家ですが、ボラージュの持つひたむきな生き方、それに家族の皆に愛される老健の愛嬌が相まって、家族のきずなが強まっていきます。

ここで紹介する一節は、ボラージュが猛勉強の末に書き上げた、評価の高い修士論文が審査に通り、いよいよ帰国間近となったときに開かれたパーティーでの出来事です。

その席で、ボラージュの留学生の挨拶があり、ボラージュがなぜ、3年間修士論文の完成まで頑張ることができたかを、ボラージュに代わり述べています。

ぼくを日本に呼んでくれた人の家族は、ぼくにすばらしいことをたくさん教えてくれたが、そのなかで最もすばらしいことは、マラソンでゴールまであと五メートルのところまでたどりついても、<さあ、これからだ> と考える心だ。ゴールをすぎるまでは何が起こるかわからない。どんな状況にあっても <さあ、これからだ> と考える心を、ぼくは日本の家族から教えてもらった。

ボラージュは、そう言って、この僕を励ましてくれた。”

(宮本輝著 彗星物語)

顧客との契約では受注まで気を緩めずフォロー

ある土木、建築関係の設計コンサル会社の社長を務めていたときの経験です。

会社のある部門で、営業の業績について年度の途中で私が聞く受注予想と、期末の実績に差があることがよくありました。

最初の1年は、ま、そのようなこともあるかと捉えていましたが、2年目も同様な状況で推移していることが分かり、その原因を探りました。

すると、営業部員が顧客のところへ行って、ある商材の話をすると、「素晴らしい商品ですね。うちでも使ってみたい」といわれ、良い感触であったことから、その商材を売れるものとカウントし、受注計画に乗せていました。

しかし、しばらくしてその顧客のところへ行くと、別の会社が同じような商材をもってきて、丁寧に顧客のニーズを聞き、即座にその商材を納めていることが分かりました。

せっかく、顧客のニーズを聞いておきながら、対応が後手に回って、その顧客との契約まで至らなかったことがよく発生していることが分かりました。

顧客から希望的な言葉をもらったことで、もう受注できると思い、気の弛みが生じてしまったものだと思います。

その結果、その後のフォローが十分にできていなかったために、受注できず、しかも顧客を失う結果となってしまいました。

顧客が発注してくれるまで、油断することなく、とことんその顧客に対応すること、そしてスピードを持って対応することの大切さを学んだ経験でした。

著名なアスリートは引退まで気を緩めず

偉大な業績を上げたアスリートたちは、引退するまでの鍛錬において、途中で気を抜くことを決してしなかったと、語っています。

お話を聞く機会のあった、柔道家の山下泰裕氏、プロゴルファーの青木功氏もこの戒めを言葉にしていました。

ここでは、山下泰裕氏の言葉を紹介します。

我々が行き着きたいところは自分が描いた遙かに 高い理想の姿。その理想に向けて自分を鍛錬していく過程において、途中の実績は関係 ない。後ろを振り向かず、前だけを見て生きてきた。

途中で休んで、周りを見、水を飲むくらいのことは必要だが、腰を下ろして、良くやった。“よっこいしょ”と言った瞬間に、引退の時が来ている気がする

まとめ

誰しも、苦労を重ねた上で、やっと目標が間近に見えてくると、つい気が緩んでしまうのは普通のことだと思います。

それも、目標が高ければ高いほど最後の最後に、つい気を許してもらうことが多いようです。

ある大先輩が、工事の現場で間もなく工事が完了するときに、当時現場の課長を務めていた私に話してくれた言葉があります。「山に登るうえで、9合目からが本当の勝負といわれている。工事も同じ、ここからが正念場と思って、気を引き締めて進めること」と。