上司、リーダーの役割

部下を指導する効果的な叱り方-会社生活43年からの教訓-

部下を指導するときに、上司はどのような姿勢で臨むべきでしょうか。部下が成果を上げたときには、褒めることが有効とよく言われます。

一方で、部下が仕事で失敗したときや、成果を上げられなかったときには叱ることも大切です。

危機管理で知られた佐々淳行氏も危機管理の面では、「がみがみ叱る親爺の必要性」を説いています。

「叱って指導する」というと、最近ではパワハラ問題になってしまう恐れが多分にありますが、20年以上前は、上司からの叱責は普通に行われていたと思います。

事実、私が、建設現場に勤務していた時には、上司からかなり叱責を受けた経験がありますが、その時の教えが、その後の社会生活で大いに役立ってきたと強く思っています。

しかし、叱って指導することが難しくなった今の時代、上司は、部下をどのようにしどうしたらよいか、ほとほと悩んでいることと思います。

パワハラと叱って指導するということにはグレーな部分がありますが、間違ったことを部下がしていれば当然、その点を注意し指導する必要があり、今はそのやり方が問われているのではと思います。

一方で、作家堂場瞬一氏は、その作品の中で、叱った後には、誰かが取りなしてあげることも重要なことであると、書いています。

今回は、佐々淳行氏の雑誌記事と私の経験、堂場瞬一氏の作品から「叱って指導することの必要性と効果的な叱り方」について紹介します。

部下を叱って指導するときはすぐ叱ることが大切

佐々氏は、現警察庁に入庁以来、警備幕僚長、内閣官房安全保障室長などを歴任し、その後、リスク管理の専門家としてフリーで活動されました。

その佐々氏が、1995年12月の雑誌「選択」の「続危機管理のノウハウ」の記事の中で、部下、後輩をいかに指導するかといった点について、部下、後輩が誤りを犯したときは、時期を外さずきっちり叱ることの必要性を説いています。

そういえばこのごろ、やたらと物分かりのいい上司先輩、教師、父親が増え、信念と愛情をもって部下後輩や子供や生徒をがみがみ叱る、“父権者”と呼ばれるにふさわしい“雷親爺”がめっきり少なくなった。しかし、すべての組織にはしかるべき時に人を叱る大久保彦左衛門のような「がみがみ親爺」が必要なのだ。

叱ろうか、叱るまいか迷い、つい叱りそびれてしまうことがあるが、実はこれがある日思いがけない大事件、大事故を引き起こす遠因となるのだ。

激しい怒りにはそれだけの理由がある。我慢に我慢をかさね、積もり積もった恨みや不平不満、癪に触ったといった程度の軽い小さな憤りが、ある日意外なことが引き金となって大爆発する。人間関係の多くの危機は、往々にしてこういう形で起こり、そして長く続く。

不平不満や怒りを爆発させないための危機管理上の予防措置は、がみがみ叱ること、そして、不平不満を聞いてやり“ガス抜き”をすることである。誰かが悪いことをしたとき、すぐその者を叱り飛ばす雷親爺が存在することが大事件、大事故を防ぐのである。

出典:佐々淳行著「選択 続危機管理のノウハウ

佐々氏は、その長いリスク管理の経験から、リスク防止として、部下なり後輩が悪いことをしたときには、叱ることが大切で、それもタイミングを外さず、すぐに叱ることが大切と語っています。

建設現場で学んだ上司の効果的な叱り方

若い時に工事現場に勤務していました。私の上司は技術的にも、マネージメント面でも能力のある人で、近寄りがたい雰囲気を持った上司でした。

また、我々が自分の行動の悪さに気付かない場合に、その上司から見て気になることがあると、すぐに呼びつけ、怒鳴りつけ、それとともに悪かった点を指摘していました。

ある日、私が建設現場の視察に訪れた来客の案内役を務めたことがありました。もちろんその上司も同行していました。

案内の間は私が先頭に立っていましたが、仮設のはしごを上って視察するところがあり、そのときは、お客様優先と考え、後からお客様について上っていきました。その後、特に問題なく、お客様からも「よく現場を理解することができた」という挨拶をもらい、その案内を終えました。

お客様が帰り、その上司のところに「ご苦労さまでした」、と挨拶に行ったところ、いきなり「今日の案内は何だ!」と強いお叱りの言葉が飛んできました。案内も無事に終わり、特に問題ないと思っていた私には、びっくりの発言でした。

いきなり叱られたときは、この上司は何を言っているのだと、その瞬間、こちらもムカッとしたことを今でも覚えています。

しかし、その後、「昔、同じような現場を案内し、案内者が先頭に立たなかったため、先に行った視察者が、どういう状況かわからず足を踏み外し、事故を起こす事例があった。君はそのようなことまで考えて行動したのか」との発言がありました。

その説明を聞き、なるほど、一歩間違えたらお客様にけがをさせたかもしれなかったと、上司が叱ったことに納得がいきました。

厳しい言葉でしたが、その現場を離れてからもその教えは、いろいろな場面で役に立ちました。

部下を叱って指導する時の効果的な方法2点

建設現場で自分自身が叱られることで多くを学びました。また、その後の会社生活では、管理職となり、部下を指導するときに叱ることもたびたびありました。

それらの経験から、部下を指導するうえで叱らざるを得ないときに、効果的な方法は次の2点であると思っています。

(1)部下がまちがいを起こしたときは、タイミングを外さずすぐに叱ること。これは、佐々氏の記事にも書いてあったものです。

(2)部下がなぜ叱られたか、納得感が考えられる説明をすること。これは私の建設現場での経験です。また、叱るときに怒る上司を見かけることがありましたが、怒っているときは説明する余裕が上司にはなく、決して行ってはいけない行為と思っています。

部下の納得感が得られる叱り方が有効

私が、部下を持つようになり、叱らざるを得ない状況が何回かありました。

叱りっぱなしで、そのあと何も説明をしないでいると、部下はなぜ叱られたか分からず、同じことを繰り返したり、逆に意固地になったりしたケースがありました。

そのような経験をし、部下を叱るときに留意しなければならないこととして、なぜ叱っているかというその理由をしっかり相手に説明し、納得させることだと思います。

この説明と納得感がないと、部下の成長に影響するとともに、ただ単に怒られたと思い、パワハラを受けたと感じてしまうことになってしまうようです。

そして、そのときに、お前を嫌っているという姿勢ではなく、何とか君を育てたいという気持ちを持って語ることも大切かと思っています。

叱責の後の取りなしも重要

小説「策謀」は、堂場瞬一氏の警視庁追跡捜査係シリーズの三作目で、同期のベテラン刑事、沖田と西川が主役です。

5年前に東京渋谷で発生した放火事件と同じ日に放火事件の近傍で発生した殺人事件を西川と沖田が地道な捜査を続けています。

その犯行に関わりのある人物、本間を逮捕し、警察署に連れてきました。沖田の担当でしたが、別な捜査があり、取り調べは、同じ追跡捜査係の庄田と三井さやかの若い二人に任せることにしました。

その取り調べ中に、本間が舌をかみ切り、自殺を試みました。幸い、命には別条がなかったものの、取り調べ中にそのような事態を防げなかったことから、若い二人は、処分を受けることになりそうな状況となりました。

ここで紹介する一節は、そのようなこともあり、しょげ返る庄田の姿を見て、西川が語る言葉です。

二人とも激しく叱責されるだろうが、取りなしてやろう、と西川は決めた。ミスはミスだが、庇ってやるのは悪いことではない。叱られ、その後で誰かのフォローを受けながら、若い刑事は一歩ずつ進んで行く。そういう伝統は大事にしなければいけないのだ、と西川は強く思った。それに慰め役なら、俺が悪者になることもない。

(堂場瞬一 警視庁追跡捜査係シリーズ 策謀)

まとめ

叱りつけることが難しくなった時代です。しかし、大きな問題を起こす前に、また、部下の成長を願う意味からも、小さなことでも指摘することがあれば明確に叱ることが、部下にとって重要と思います。

どのように叱るかについては、タイミングを外さず、部下の納得感を得られるように説明を加えることが大切です。

そして、その際に、建設現場での私の上司のように“何とか君を育てたい”という愛を部下にもって接することが必要とも思います。

さらに、叱られてしょげている本人を取りなしてあげることも大切なことと思います。