会社を経営したり、あるプロジェクトのトップとしてその組織をリードしたりするとき、しっかりした成果を上げるためには、メンバーひとりひとりが、やる気をもって、担務する仕事に従事することが必要です。
そして、このような組織で仕事をした人たちは、その仕事が終わったときに感じる達成感も高いものがあり、一段とその組織への愛着がわき、次の仕事への意欲が高まります。
では、数名からなるグループから100名を超える会社に至るまで、そのメンバーにやる気をもって仕事をしてもらうにはリーダーとしてどうしたらよいのでしょうか。
作家、江上剛氏は、その著書の中で、化粧品を開発するチームのリーダーの言葉の中に、その解決策を紹介しています。
私自身も、会社を経営するようになり、働く人たちにやる気を持ってもらうことがいかに難しい問題であるか経験し、いろいろ試みました。
結局、トップが方向性を示し、一緒に事業を進めていく姿勢をもち続けることが大切であることを学びました。
今回は、江上氏の著作と私の経験から「リーダーとしての役割として方向性を示し、共に進む」ことの大切さを紹介します。
リーダーの役割の基本はメンバー方向性を示すこと
小説「奇跡の改革」の舞台はフィルムメーカーの日本写真フィルムの開発チームです。
日本写真フィルムが、デジタルカメラの台頭により、会社の主力製品であったフィルム事業が消滅するという危機に出会いました。
本作品では、その危機を乗り越えるため立ち上がった人々の姿を描いています。フィルムにとって代わる事業として化粧品を取り上げ、その市場に打って出ることになりました。
今まで手をつけたことのない新たな事業に苦しみながらも、いろいろな分野からメンバーが集まり、化粧品の開発を進めていきます。
開発を始めてしばらく後、化粧品開発のリーダーを務める主人公は、メンバーのやる気ある姿を見つめ、これまでの会社の仕事のやり方を反省するとともに、メンバーのやる気を導き出すために何が必要かを認識するのでした。
ここで紹介する一節は、メンバーのやる気のある姿を見た化粧品開発チームのリーダーの、それまでの過程をつうじた思いです。
悠人(開発チームの若手メンバー)は、彼の得意分野である細胞研究で成果を上げている。それぞれの製品が皮膚細胞にまでどれだけ浸透するか、解析に余念がない。また新しい人工皮膚の開発にも、外部の研究者と協力して取り組み始めている。
バブル入社世代と言われ、どちらかというとのんびり屋で大した役割を期待していなかったが、それは戸越ら、リーダーの怠慢だったことが分かった。彼らは使命感と明確な目標を与えれば、まっすぐにそれに向かって進んでいく。
戸越は、少数だがいいチームができたと喜んでいる。老壮青、男女と言えば大げさだが、意欲あるスタッフを集め、その意欲に正しい方向づけさえできれば、物事は順調に進んでいくことを実感した
出典:江上 剛著 奇跡の改革
経営改革のスタートに社長として示した会社の方向性
私が会社の経営に参画したときの経験です。
その会社の業績が停滞している中で経営に参画しました。
会社の売り上げが伸びないといった状況で、社員の人たちも処遇がどうなるか不安を抱える時期でもありました。 そういったこともあり、まずは、社員のやる気を起こす必要がありました。
そのため、まず、会社の将来あるべき姿を打ち出し、社員にその世界が具体的な形で見えるようにしました。
そのうえで、具体的な目標も明確に打ち出しました。
このように、これから進むべき方向性と明確な目標を定め、社員にその目標を伝え、皆でその目標に進んでいくことを宣言しました。
さらに、その目標達成のため社員がインセンティブをもって仕事に励めるよう、これまでの仕事のやり方など見直しを進め、社員自身が目標に進んでいることが見えるような工夫も取り入れました。
一つのインセンティブとして、成果が出た社員にはその成果に見合って報酬を改善することも約束しました。
リーダーは方向性を示した上で目標に向かい一緒に進む
社長就任直後に今後の会社の方向性を宣言し、経営改革を進め2年ほどで会社の収支も改善し、処遇も改善し、社員の将来への不安を取り除くことができました。
しかし、社員の会社への満足度を調べると、まだまだ、やる気をもって仕事をするという点では、納得感を得られていませんでした。
会社の方向性を明言し、目標をはっきりするだけでは、その先の成長は成し遂げることが難しいことが明確となりました。
そこで、実際に改革を進めていく中で、いくつか手立てを講じました。
まず、会社が現状でどのような状況になっているか、社員のみんなが見えるようにしました。これで、うまくいっているのか、遅れていることがあるかを認識してもらいました。
さらに、改革を実行してからは、経営層が、現状の課題などを直接話し合うことのできる機会を持ったことも、社員のインセンティブを維持するうえでは重要な役割を演じました。
社員と一緒になって今の停滞状況から抜け出すということを、常に社員に理解してもらうよう、努めました。
このような改革を進めてから数年を経て、会社の業績も順調に上向いて来ました。また、社員に約束したとおり、業績の上昇に見合った処遇の改善なども進めました。
この結果、いろいろな手立てを取り入れる前に比べ、明らかに会社の中が明るくなったことも確かでした。
さらに、社員の満足度調査でも、仕事に対するやりがい感も上がってきたことを確認することができました。
江川氏がその著書で書いている通り、明確な方向を定め、社員のやる気を活発化させることで大きく組織が変わることを経験しました。
まとめ
人は、ただ与えられた仕事をするだけではやる気が出ないことは、江上氏も書いており、私の経験でもはっきりしています。
小さな組織でも、成果を上げるためには、その組織のリーダーがメンバーにいかにやる気をもって仕事をしてもらえる状況を作ることが重要と思います。
そして、社員にやる気を起こさせるためには、リーダーが、会社の方向性を示し、さらに目標を明確にすることが最初のステップと思います。
そして、方向性と目標を打ち出したならば、実際の行動に映る次のステップとして、社員に寄り添い、一緒にその方向に進んでいくことが必要だと思っています。






