仕事で行き詰った時

問題解決には専門以外の能力が必要-会社経営からの教訓-

専門知識を身に着けて会社に入ったものの、その知識だけでは社会に通用しないことはよくある話だと思います。

また、新たな事業に進出しようとしたときに、それまでに培った能力だけではその分野では通用しないこともよくある話だと思います。

何か一つのことを成し遂げようとしたとき、自分が専門とする分野以外の技術、能力を持っていると、達成に至る道筋が見えてくることがあります。

新田次郎はその著書で、未踏峰の劔岳の登山を試みた山岳会が、登頂を成功させるうえでは、多岐にわたる能力が必要であることを学んだ例を書き記しています。

私も、ある会社の社長として、それまでと異なった分野に市場を広げようとしたときに、社員の能力の再開発の必要性を感じた経験があります。

今回は、新田次郎氏の作品と私が新たな社長として新たな分野へ進出しようとしたときの経験から「問題解決、とくに難問と言えわれ課題解決には専門以外の能力が必要」について紹介します。

専門外の能力を身につけて初めて劔岳を克服

小説「劔岳」の時代は日露戦争直後の明治40年です。主役は、陸軍省陸地測量部に所属する柴崎芳太郎です。

明治40年ころまでに全国の地図を作るための測量は、中部山岳地帯をのぞきほぼ完了していました。

ただ一つ残った中部山岳地域の地図作成にあたっては、前人未到の劔岳に登頂し、地図作成の基本となる三角点を設置し、測量を行う必要がありました。

民間の山岳会が劔岳の初登頂を目指すという噂もあり、陸軍省の測量部隊は、その威信をかけ、山岳会に先んじて劔岳の登頂を決断しました。

この任務を若手ではあるものの、難しい山の測量に実績を上げている柴崎が受けることになりました。

梅雨明け時のわずかな登頂機会を狙っての測量が開始されました。しかし、雪崩、暴風雨などの自然の驚異に、幾度か登頂をあきらめ途中から引き上げざるを得ない状況が続きました。

その様な悪条件に立ち向かいながら柴崎部隊は唯一と思われる登路を見つけ、いよいよ劔岳の登頂を目指すことになり、選抜された登頂組が出発していきました。

リーダーとして前線基地に残ることにした柴崎が、登頂組の出発を見送っていたところに、初登頂を競っていた山岳会のリーダーが近づき話しかけてきました。

その山岳隊は、夜半まで続いた雨もあり、その日の登頂をあきらめていました。

自分たちの判断に対し、なぜ柴崎が昨日から降り続いていた雨の中で今朝は晴れることが予想できたのか、柴崎に尋ねるのでした。

ここで紹介する一節は、その問いに答える柴崎の言葉から学んだ、山岳隊メンバーの教訓です。

(山岳隊員)「——-測量部隊が登ろうとしていると聞いて、あわてて飛び起きたのですからね」

男性が笑い、ほかの山岳会の男たちも笑っていた。意外にも、出し抜かれたことを悔しがっているというより、何だか楽しげだった。

「ところで」と、笑いが収まったところで男性が柴崎に聞いた。

「——-今日晴れるということが、どうしてわかったのですか。——-」

男たちの視線が集まっていた。柴崎は、隠すようなことではないなと思った。

「気圧計でだいたいのことはわかっていました。昨日、気圧は徐々に上昇していましたし、夕方には急上昇しました——」

—————

山岳会の面々が「うーん」「へえ」などとうなずいた。

やっぱり我々は勉強が足りませんでした」と男性が苦笑いした。「測量部隊の皆さんのように、気象学なども身につけておかないと山には登れない、ということですね。そんな方々のむこうを張って劔岳に先に登ってやろう、などと考えたのは、あまりにもあさはかでした」

ほかの山岳会の男が、「でも、これでさっぱりしましたよ」と言った。

(劔岳 新田次郎原作、山本甲士文)

一つのことをなそうとしたとき、専門能力以外の能力も身につける必要がある、という事例でした。

このことは、事業を新たに展開しようとした私も経験したことでした。

新規顧客開拓のため異次元の能力開発を目指す

私が、土木、建築関係のコンサル会社の社長となったときの経験です。

私が社長就任するまでは、会社の多くの仕事は、親会社からの発注に頼っていました。しかし、その後は、親会社からの受注が減るということで、会社の経営を維持するうえでは、商材をより一般的な市場へ売り出す必要がありました。

何十年という親会社との長いお付き合いから、特定の顧客からのニーズに対しては、例えば土木技術関係の仕事であれば、土木関係の単独部門での対応が可能でした。

また、顧客のニーズが大きく変わることもなかったことから、その部門としては、部門以外の能力を身につけていく必要性もありませんでした。

そのような状況の中、会社の将来の成長を目指し、特定の会社以外の会社も対象に事業を広げていくことにしました。

いざ市場の拡大を目指し、いろいろな顧客に接触するようになると、我々に要求される技術が一段と多様化してきました。

多様化するニーズに対応するためには、これまでのように単独の部門だけでは対応しきれないことが明確になりました。

顧客ニーズの多様化に対する解決策として、まず考えたのが、顧客のニーズに応えることのできる他部門の能力を生かすことでした。

このため、その種の技術を有する他部門との連携を図ることを進めましたが、それだけでは十分に対応しきれないことも分かってきました。

顧客に直接対応する部門の社員が、部門以外の技術、能力をある程度身につけていないと、顧客のニーズをスムースに理解することが難しいことが、顧客ニーズに対応できない、大きな原因の一つであることがはっきりしました。

のため、社員それぞれが、現状、自分が有している技術から一歩離れ、違った分野の技術、能力を身につける必要が高まり、直ちにその対策を講じました。

時間はかかりましたが、一人一人が待つ専門能力に、その他の能力が身に付き始めることで、顧客のニーズへの対応に改善効果がみられるようになりました。

その効果も出始め、さらに、他部門との連携が進むようになり、一般の顧客の多様なニーズにも対応できるようになりました。

会社の将来の成長を目的に市場の拡大を目指そうとしたとき、多様な顧客のニーズに応えるためには、社全体の能力を向上させる必要があり、そのためには、個々の社員の専門能力の能力を再開発することが重要であることを学んだ経験でした。

まとめ

新たな事業を展開する、もしくは、新たな世界に飛び出していこうとしたときには、これまで培ってきた技術、能力では対応できないことは多々あります。

そして、その世界で成功を勝ち取ろうとするにはいくつかのステップを踏む必要があると思っています。

  • 自分が目指す方向を明確にする。
  • 目標達成のために必要となる技術、もしくは能力を明らかにする。
  • 躊躇することなく明らかとなった技術、能力をみにつける。