仕事で行き詰った時

リスク回避能力の高い人の行動-会社生活43年からの教訓-

事業を始める、転職をするなどといった大事な“事”をなすとき、また、自然災害が発生

したときなど、リスクはつきものです。

誰しも、そのような事を始めるにあたっては、考えられるリスクを洗い出し、対応策を考え、対応します。しかし、リスクは一通りでは済まない場合があり、一次的なリスクだけに備えていたのでは、リスクを完全に払拭することができない場合があります。

最初のリスクの後に発生する二次的リスクに対応ができず、結局、大事を達成できなかったり、被害を大きくしたりする事態に陥ることがあります。

山本周五郎は、その著書「花丈記」の中で、この二次的なリスクにどのように備えるべきか、リスクへの対応能力に優れた人を例にとり、語っています。

私が従事した土木構造物の構築においては、気象の変化、地震など自然を相手にすることが通常のことであり、自然災害は避けられないリスクの一つです。

このため、考えられる大雨などの自然現象への備えを行いますが、それでも被害を免れなかったときに、被害を最小限にとどめるため二次的なリスクへの備えをしておくことの重要さを、リスク対応に優れた上司から学んだ経験があります。

今回は、山本周五郎の作品と私の建設現場での経験から「リスク回避能力が高い人が取る行動-二次的リスクへの備え-」について紹介します。

リスク回避能力の高い人は二次の備えを

小説「花丈記」に納められている「備前名弓伝」の話で、備前岡山藩で弓の名人と言われた、藩士青地三之丞が主人公です。

藩主の命を守るということを唯一の目的として弓道に励む青地の奥ゆかしさに、藩主、池田光政は愛情を注いでいます。

その青地を退けることで藩主の引き立てを狙おうとする、新参者の一刀流の達人、滝川氏との勝負することになりました。小説では、その滝川氏との駆け引きの中で、青地が真摯に一人の藩士として真摯に生きようとする姿が描かれています。

ここで紹介する一節は、青地三之丞が藩主、池田光政と弓の稽古について談話する場面です。

三之丞は、いつも使っている弓より強力な力を必要とする弓で的を射るよう、藩主に命じられました。三之丞はためらうことなくその弓を受け取り、見事、的を射抜きました。

いつもは、そのような強い弓で練習をすることのない三之丞が、あえて与えられた強弓を使い、正確に的を射る姿を見、その技に感嘆し、その秘伝を三之丞に問うのでした。

「ごまかしてはならぬ。強弓を引く秘伝があらば申せ。どうだ」

「はっ、重ねての仰せゆえ申上げまする。およそ武術は戦場御馬前のお役に立つため修行を仕ります。弓にいたしましても泰平の稽古にはおのれの腕相応の道具を使えまするが、戦場に於て持ち馴れた弓が折れたとき、おのれの力に合う弓を捜している暇はございません、ありあう弓の強弱を問わず、即座に執って役に立てることができてこそ、大切の御奉公がなるものでござりましょう。わたくしは非力でございますから常にこの心懸けで稽古をしておりました。このほかに秘伝と申すようなものはございません」

光政は黙って聞いていたが、「そうか、よく分かったぞ」と頷いて云った。

出典:山本周五郎著 花丈記のうち備前名弓伝

普通に戦場で起こるリスクの、次に起こりうるリスクまでを考えて準備しておくことの大切さを三之丞は藩主に示しました。リスクへの対応に優れている人は、二次的なリスクへの対応をしっかり考えて行動している事例だと思います。

工期間近の工事現場で起きた自然災害

私が大きなプロジェクトの建設所に勤務していたときの経験です。

工期は4か月と限定されており、この期間でいくつかの構造物を完成させなければなりませんでした。

大規模な工事であったため、通常の工事のやり方では工期を守れないこともあり、突貫工事で構造物を完成させなければならい状況でした。

半ば工事が終わったときに、ひどい嵐が工事現場を襲いました。相当量の雨が降り、斜面に構築し、ほぼ完成しかけていた構造物の一部が降雨で流されてしまいました。

ある程度の雨が降っても、雨水を切りまわしたり、構造物を養生したりして降雨によるリスクには対処できるようにしていましたが、構造物の一部をどうしても守り切れませんでした。

復旧に、2週間かかるとの見通しが出ましたが、それでは、工期内に構造物が完成しないと誰しもが思っていました。

リスク回避能力の高い上司が示した二次的被害に向けた行動

誰もが工期内の完成をあきらめていたとき、その工事の責任者から、「何とか復旧工事を早く進めろ。残りの構造物も工事を早める手立てを検討し、工期の短縮を図るように」との指示が出ました。

それでも、工期を守ることは物理的に難しいと思い、責任者に話を聞くと、「このようなことは、必ず現場では起こるものだ。そのために2週間ほどの余裕を見て、工事を進めてきた。まずは、これを機会に、工期を早めることを考えろ」と現場の責任者の私に語りました。

この2週間の余裕があったことで、大きな被害を受けたにもかかわらず、工期内に工事を終えることができました。

ただ雨が降ってきたときの対応だけでなく、もし、復旧工事をしなければならなくなった時のことも考え、そのときの方策を頭に入れていた、責任者のリスク対応でした。

 まさに、自然災害が起きたときに、次にどのようなことが起こるかをしっかり頭の中に描き、それを実践した、リスク回避能力の高い人の行動でした。

この時の経験から、私自身、何か事を進めるときには、2次、必要なときには3次のリスクに備えることを常に意識するようになりました。

まとめ

何か大事なことを成し遂げようとしたとき、リスクは必ず伴います。

そして、直接的に影響する一次のリスクで対応できればそれに越したことはありませんが、それで済まないことはよくある話です。

それでは大事を成し遂げるためにはどうしたらよいのでしょうか。

花丈記の弓の名人、私の上司のように、一時的なリスクが生じても、その後に起こることを考え、準備していることで、大事は成し遂げられるのだと思います。