上司、リーダーの役割

難しい仕事への挑戦が成長のカギ-会社生活43年からの教訓-

せっかく会社に就職したのであれば、自らが成長し、常に新しい仕事に挑戦することで、生き生きと働きたいものです。

では、サラリーマンが成長するにはどのようにすればよいのかでしょうか。

自己研鑽を積んだり、実務を通して能力を身につけたり、いろいろノウハウがあると思います。

作家、今野氏は、その作品の中で、若手刑事が成長するための手がかりとして、ただ言われたことをするだけでなく、その先を自分で考えることが、一人前の刑事になるうえでは重要であると述べています。

私の経験からも、サラリーマンが成長するうえでは、自分で考え、能動的に行動することが望ましいと考えています。そして、そのためには、自分に与えられた任務の一つ上の役職の仕事に果敢に挑戦することで、成長することが多いように思っています。

今回は、今野敏氏の作品と私の経験から「成長するためには難しい仕事、例えば、一つ上の仕事に挑戦することが有効」について紹介します。

言われた仕事のさらに上を考えることで一人前の刑事に成長

小説「マル暴総監」の舞台は、警視庁北綾瀬署です。主人公は、暴力団を担当するものの、組対係には最も不適当と思われる、弱体刑事の甘糟です。

署管内で起きたチンピラの殺人事件を担当することになった甘糟刑事が、謎の男に翻弄されながらもその事件を解決していく姿をコミカルに描いています。

ここで紹介する一節は、甘糟刑事のパートナーであり、上司である郡原刑事が、今回の事件の最中に、犯罪捜査のいろいろな過程で、甘糟刑事を厳しく指導している場面です。

郡原刑事は、何とか甘糟刑事を一人前にしようと、事あるごとに厳しく甘糟刑事を指導しています。

捜査本部に召集された二人が、捜査会議の必要性について議論している中での会話で、甘糟刑事を何とか一丁前の刑事にしたいと願う郡原が、思いを込めて発言する場面です。

「捜査情報の共有ができねえじゃねえか。捜査会議の目的は、すべての捜査員が情報を共有することなんだ。まあ、もっとも、それが必要ないと考えている捜査幹部も増えているがな——」

自分もそう思いますよ。捜査情報をすべての捜査員で共有する必要なんてないでしょう。管理官が把握していればそれでいいんです。そのための管理官でしょう」

「刑事ってのは、そういうもんじゃねえ。兵隊じゃねえんだ。言われたことだけを、ただ黙ってやってるだけじゃだめだ。自分で考えなけりゃな」

「捜査員が好き勝手やってたら、とんでもないことになるじゃないですか」

「言われた仕事をきっちりやるのは当たり前のことだ。その上で考えるんだ。自分の分担が、捜査全体の中でどういう意味を持っているか——。そういうことを考えるんだよ。出なけりゃ、一人前の刑事なんて育たねえ。だからさ、最近の若い刑事はみんな使えねえんだ」

出典:今野敏著 マル暴総監

一人前になるためには、自分が置かれている立ち位置を意識し、自ら考え、判断し、行動することの必要性が強調されています。

一つ上の仕事に挑戦することで成長

私が建設事務所に勤務していたときの経験です。

会社に入社して3,4年たったころのことです。直属の上司が、急にその職を離れることになり、急なことなので、その後任も半年は来ないとのことでした。

あるプロジェクトが動き始めており、待ったをかけられる状況になく、建設所の所長と相談し、その所長の指導を受けながら自分が不在となった上司の業務を進めることになりました。

初めて聞く専門用語や事務処理など、戸惑うことが多かったことはありますが、一方で、自分で考え、判断しなければならないことも扱う立場になり、やる気の出る仕事でした。

また、その上司がいればどうしてもその人のいうことを処理するだけになってしまい、頼りがちになってしまう受動的な仕事しかできなかったと思います。

しかし、任されたことで、自ら方針を決め、判断し処理していくことができるようになり、直接的な業務処理以外にも、プロジェクトを進める仕事の流れを学ぶことができた経験でした。

私の場合は、やむを得ず上司の仕事を担うようになりましたが、一つ上の仕事という難しい仕事を担うことで学ぶことは多くあると気づいた経験でもありました。また、受動的な姿勢ではなく、能動的な姿勢で仕事に臨むことの重要性も学んだ経験でした。

これらの経験は、後に、会社の経営を担う立場になったときに、若手登用という意味で役に立ちました。

難しい仕事に挑戦させることで若手はやる気を出し成長

土木建築関係のコンサルティング会社の社長に就任した時の経験です。

会社の中で常に仕事が集中するグループの各メンバーに、役職上の一つ上の仕事を任せることで、そのメンバーが成長していく姿を見たことがあります。

会社では、お客様の都合で処理すべき仕事の量が月単位で波を打つことが多くありました。

最大の仕事量に合わせて人材を用意していたのでは、企業として成り立ちません。そこで、業務が集中する部署では、グループマネージャーは部長の仕事を、メンバーもそれぞれ上位職の仕事を担うように業務分担の割り振りを決め、仕事を進めてもらいました。

必ずしもすべてのグループで成功したわけではありませんが、ある部署では、活気にあふれた仕事ぶりになったほか、仕事の量の多寡にかかわらず、しっかり成果を出すようになりました。

 また、1年もそのようなことを続けることで、メンバーの能力も目に見えて向上し、成長する姿をいることができました。

また、自分でも経験したことですが、負かされる量が多いことで、自分で考え、判断するという、能動的な姿勢がみられるようになったことも、よい影響でした。

まとめ

言われたことだけをやるだけでは、その道のプロにはなれない、という今野敏氏の話は、サラリーマン世界でも十分通用する話だと思います。

人は任せれば必ずやり通すことができ、能力も磨かれることを私は建設現場の経験で学びました。

その経験を基に、社長になり、社員にも難しい仕事を任せることを意識して進めました。

その経験から大切と考えたことは以下の2点です。

 ① 仕事を受ける本人が、やる気を持って能動的に行動すること

② その後押しとして、上司が、部下に対し一つ上の仕事に挑戦させる勇気を持つこと