サラリーマンが会社で働くとき、充実感をもてるのはどういうときでしょうか。
私の経験では、仕事を任され、権限も与えられ、完成までやり遂げることができたときに達成感を感じ、モチベーションが上がった気がしました。
また、自分の仕事に誇りをもつことが、仕事に対するモチベーションを上げ、充実感を得ることができる大事な一つの要因だと思います。
作家、今野氏はその著書の中で、あることを成し遂げるあめにはきに、傍観者的な姿勢で臨むのではなく、自らの役目であるという誇りを持って挑むことが大切であると、書いています。
私も社長になり、会社の持続的成長を目指し、経営改革を進めていたときに仕事に誇りを持つことの大切さを経験しました。
改革は、経営側の方針で始まりましたが、しばらくすると、社員の中にその意図を理解し、自らがその改革の主人公であるという誇りを持った社員が現れ、その人たちの力が、改革を進めるうえでの大きな推進力になりました。
今回は、今野敏氏の作品と私の社長のときの経験から「仕事にやりがいを持ち、充実感を得るためには、その仕事に誇りを持つことが大切」について紹介します。
誇りを持つことで、弱き者もやくざと戦う力を得る
小説「排除」の舞台はマレーシア。採掘所の周辺住民が環境汚染を受け、住民が反対運動を繰り広げる中、日本のやくざが、その運動阻止のために住民を助ける環境団体に対し暴力をふるっていました。
主人公、佐伯は、元暴力対応の刑事であり、今は「環境犯罪研究所」に出向となり、悪質な環境問題に絡むやくざの排除を任務としています。
ここで紹介する一節は、佐伯が、村に嫌がらせに来る暴力団組員との戦いに一人で臨もうとしたときの話です。
暴力団との戦いの中で、住民は危険であると、佐伯は考え、退避しているように村人に告げました。しかし、佐伯の言葉に対し村人は、自分たちの戦いであるということを宣言し、その戦いに挑むのでした。
「話をしなければならない、とアヌール(住民を代表する若者)は言うの」
景子(佐伯と同じ職場を働く女性)が言う。
アヌールが話し始める。ぶっきらぼうな話しかただが敵意は感じられない。
景子が通訳する。
「われわれは戦いをあなただけに任せることはできない。これはわれわれの戦いなのだ。彼はそう言っているわ」
佐伯はかぶりを振った。
「もはや素人の出る幕じゃない。けが人や死人が出ることになる」
どうか、我々の誇りを尊重してほしい。人間には死んでも守らねばならないものがある。われわれは誇りをかけて戦うのだ——と彼は言っている」
佐伯は驚いた。そして、自分でも意外だったが、感動していた。
誇りのために戦う。守るべきもののために戦う。信じるもののために戦う。
—–俺たちはいつそういうものを忘れたのだろう。そういうことを大切だと言わなくなったのはいつの頃からだろう佐伯はそんなことを思った。
彼は言った。
「あんたが死ぬかもしれないんだぞ」
アヌアールの言葉を景子が訳す。
「かまわない。村を、そして家族を守るために戦って死んだ私を、アラーの神は祝福してくれるだろう。そして、妻や子は私を誇りに思うはずだ」
「ばかだな——」
彼はつぶやいた。「感動的な愚か者たちだ——」
(今野 敏著 排除)
村が危機的な状況にある中で、傍観者でいるのではなく、危険を承知して自ら闘おうとする村人の気概から、危機を乗り越えるための、当事者の意識のありようがはっきりと書かれています。
経営改革には社員の意識変革が必要
私が、ある土木建築の設計コンサルティング会社の社長になったときの経験です。
社長に就任した当時は、会社の状況は、将来の売り上げが危ぶまれる状況でした。このため、将来的に会社を成長させることを目的に、いろいろ仕事のやり方を変えました。
しっかりした目標をセットし、そのためになすべきことを明確にし、実行していくことを社員に向け宣言しました。
今までの仕事のやり方とかなり異なった方策が多かったこともあり、しばらくは戸惑う社員も多くいました。
社員の理解を得るため、目標に向け何をやるべきか、どうすれば変わっていくことができるかなど、経営側から社員に向けての発信が続きました。
1年ほど経つと、進めていた方策の中で成功事例が出てくるようになりました。すると、これまでの変革を進めていけば、このまま成長に向け会社を変えていくことができるようになるのでは、と考える社員が増えてきました。
そして、社員の意識の変化とともに、これまでお付き合いした会社以外の市場でも、自分たちが持つ技術を売ることができる、という成功体験を経験した人たちが増え始めました。
この小さな成功体験により、改めて自分たちが持つ技術のすばらしさを、社員が認識するようになりました。
変革を進めることで自らの能力に誇りを持った社員が推進力に
そのように意識が変わっていく様子が見られるようにはなりましたが、変革を進めるためには、まだまだ経営陣からの指示を受け、仕事を進める状況は変わりませんでした。
このため、社員が上からの指示待ちで仕事をするのではなく、自ら能動的に行動できるように、会社を変えていく必要が生じました。
懇談会を開催し、能動的な行動の必要性を解いたり、仕事の進め方を変えたりし、その方向を目指しました。
そのようなことを2年ほど進める中で、会社の変わっていく姿がはっきりしてきました。意識の変革が進み、会社が変わっていく姿を見、自分たちがやらねばならないことを、上から言われるのではなく、自ら考え、実行しようとする社員が出てきました。
自ら持つ技術をさらに磨き、新たなお客様を開拓し、打って出ようという積極的な活動をする人たちが増えました。
それらの人たちが意識していたことを改めて聞くと、「今まで、技術を磨いてきたのは、我々技術陣です。経営側からの指示でここまで来ましたが、これからは、自分たち自らがやるべきことを考え実行していきます」という発言が返ってきました。
確かに、各部門で長い期間、技術を磨いてきており、その結果として、技術的には大学と肩を並べる技術もあり、また、我々の技術が多様なインフラ設備で活用されていることも確かでした。
会社の改革と社員の意識変革を通して、今までの研鑽による高度な技術が彼らの誇りと
して意識され、自ら動く原動力となったのだと思います。
誇りをもって仕事に打込むことができれば、それは大きな社員のモチベーションになると思うとともに、会社の大事な財産であると思っています。
まとめ
会社にいて働くことで、毎日の充実感を得るためにはいろいろ考えられる手はあるかと思います。
第一に考えられることは、安定した生活を送れる給与を得ることと思います。
そして、金銭的な面で満足すると、次には、仕事をやっていること自体に充実感を得たいと思うのが普通だと思います。
仕事に従事している中で、充実化を得るための方策はいろいろあるかと思います。
今回紹介した事例のように、その仕事に誇りを持つことが、モチベーションを上げる手立てとなり、結果として、充実感を得ることができるようになるのではと思っています。
厳しい環境の中でも、そこにある課題を見つけ解決し、仕事を達成したときの感動を私し自身も得た経験がありますが、その基礎にあるのは、その仕事に誇りを持って、自分の持つ技術、能力をつぎ込んでいくことが重要であると思います。






