目標達成に向けて

高い目標達成のための秘訣-王貞治師の教え-

この10月に、今年のノーベル賞の受賞者が発表されました。

発表に合わせてここ数年言われ続けられていることに、日本における科学技術分野での基礎研究の衰退があります。

人材や研究資金を含めた、このままの体制で基礎研究に力がそそがれない場合、将来日本からノーベル賞の受賞者は皆無となる、と発言する人が多くいます。

さて、「基礎がおろそかにされている」という点に関しては、科学技術だけの問題でしょうか。

企業も、最近、環境対策を重視するESG投資を考慮することを意識するようになっているものの、まだまだ、短期的な成果が求められています。

また、個人も、社会のそのような動きの中で、基礎を磨くということへの関心が薄れてしまっているのではと思っています。

プロ野球の名選手であった王貞治氏は、自らの経験から「基礎を鍛える」ことの大切さを語っています。

また、作家、宮本輝もその作品の中で、大学のテニスプレーヤーが経験する厳しいまでの基礎体力作りについて、この点に触れています。

私も、若い時の現場での厳しい条件下での建設経験で培った、判断力や忍耐力などの基礎的能力が、その後の社会生活で役に立ちました。

今回は、王氏の教え、宮本氏の作品および私の経験から「大きな目標を達成するためには基礎作りが大切である」について紹介します。

プロ野球、王貞治氏の教え

米国に駐在中、日本の野球チームの監督をしていた王貞治氏がワシントンDCを訪問され、たまたま、王監督からお話を聞く会に参加することができました。

王氏は、自らの経験から、いかに技術を磨くかについて、“基礎を築く”ことが大切であると、自らの経験から語っていました。

私が知っている王監督は、選手時代にバッターボックスに立ってホームランを打つ姿か、監督として采配を振るっている姿でした。

お会いする前は、あのように素晴らしい記録を残す方はきっと厳しい方であるに違いなく、どのような懇談会になるのか心配していました。

お会いしてみてすぐに、王監督が気さくな方であり、かつ、サービス精神に富んだ方であることが良くわかりました。

お話は、もちろん教訓に富んだものであり、さらに、こちら側からの遠慮のない質問に対しても、一つ一つ、丁寧にお話ししてくださいました。

そのような姿に直接お会いし、名選手という方はこのように素晴らしいセンスを持っているのだと感銘したことを覚えています。

今回は、その時の氏の言葉“基礎を鍛えろ”を紹介するとともに、その時私が感じた氏の教えをあわせて紹介します。

すぐには役に立たないかと思いますが、長い目で見れば、実践したことを良かったと思えるお話だと思います。 

何事もスポーツは下半身がしっかりしていることが大切。下半身が反応して動き出せば、上半身はついてくる。このために下半身を鍛えておくことが必要

ちなみに王氏はふくらはぎが、現役当時45センチ程度あったとのこと。

現役を退いた後、テニスを習ったが、コーチから「手ニス」ではなく「足ニス」ですべきというのもよく理解できるとのこと。

このお話を聞き、能力や技術を上達させるためには、まず“基礎を鍛えろ”ということだと思いました。

私もそうですが、つい成果を求めて、すぐに実践に入ってしまうことがあります。

しかし、せっかくの実戦での経験も基礎力がなければ大きく育たないということだと思っています。

軽い負荷のトレーニングの実践

王貞治氏が、「手ニス」ではなく、「足ニス」が大事と語っていましたが、作家宮本輝氏も、小説「青が散る」の中で、基礎を鍛えるためのトレーニングに関する記述を残しています。

「青が散る」の舞台は、新規に開校した、ある大学のテニス部です。

主人公、椎名燎平は、キャプテンを務めることになる友人の強い要請で、テニス部に入りました。

最初は気の乗らない部活動でしたが、キャプテンとの二人三脚で活動を進めるうちに、テニスにはまり込んでいきます。

小説では、そんな燎平を取り巻く友人や燎平が思いを寄せる人との、日々の出来事を通じた、青春を生き抜く若者の悲喜こもごもの出来事を描いています。

ここで紹介する一節は、精神的な病気で、1年間休部していたテニス部員、安齋克己が部に復帰したときの話です。

高校生時代に指導を得ていた田岡コーチのもとで、再び練習を始めることになったときに、そのコーチの厳しい練習状況を思い出した場面です。

 (安齋)「俺、高校生のときにも田岡の兄貴に教えてもろたことがあるんや。徹底的にしごかれたよ。選手としてよりも、コーチとして一流の人や」

(燎平)「それなら、なおさら結構な話やないか」

と燎平が言うと、安齋は鼻に皺を寄せて苦笑し、

「真夏の炎天下のコートに五時間も立たされたことがある」

と言った。

「五時間!」

「大きな古タイヤを引きずって、全力疾走をやらされた。これはラグビーか相撲の選手にさせることで、テニスの選手には向いていないのと違うかて抗議したんや。そしたら、判るまで立っとれと言われて、そのまま五時間立たされたんや」

金子が安齋の話を聞きながら、くつくつと笑った。

「頭がポーッとして、もう死ぬかと思った時分に田岡の兄貴が来よって、判ったか、そう訊きよった。判るも判らんもないよ。俺は息も絶え絶えに、判りましたて即座に答えたねエ」

(宮本輝著 青が散る)

高校時代に優秀な成績を収めた選手が、王貞治氏が推奨したタイヤを引っ張る練習を取り入れ、相撲の選手になるぐらいの基礎体力を足腰に築こうとしていた練習風景が浮かびます。

繰り返しのトラブル対応から学んだこと

若い時の苦しい経験が、その後の会社生活を送るうえで役に立ちました。

このブログでは、何回となく紹介しましたが、建設現場において担当として、また、現場の責任者として、いくつかのトラブルに出会いました。

ひと月で処理できたものから、さらに長い月日を要したトラブルもありました。

これらのトラブルの原因を考え、その対策を考えるとき、常に思ったことが、まだまだ自分の技術力は未熟であること、問題解決のための技術を磨かなければならない感じたことです。

トラブルを解決し、その構造物を完成させなければならない状況に置かれ、ひとつひとつ技術を磨いていった気がしています。

いろいろ迷惑をかけた経験でしたが、ひとつひとつ技術を磨いていく中で、技術力が上がっていきました。

また、それと同時に学んだこととして、忍耐強く、謙虚に、物事に対応する力がついたことがあげられます。

与えられた条件が厳しい時、逃げずにそれに立ち向かうことも基礎を鍛えるという意味では、有効な手であると思います。

まとめ

 スポーツ、芸術そして科学などの分野において、一流といわれる人の話を聞くと、必ず、「基礎を鍛える」という言葉が出てきます。

そして、その基礎を鍛えるうえでは、日常の絶え間ない研鑽を継続してきたという話も聞きます。

会社で仕事に従事し、大きな目標の達成に向けて努力しているときにも、同様なことがいえると思います。

日々遭遇する課題の解決に向け、ひとつ、ひとつ真摯に対応しながら、技術、能力を磨いていくことで、知的な筋力がついてくると思っています。

そのようにして、知的な筋力をつけることが、大きな目標を達成するうえでの第一段階であると思っています。