今の状況に不安があるとき

困難を乗り越える力とその先の光-会社生活43年からの教訓-

コロナ禍の終息が見えず、自粛生活の中、自宅勤務などで働き方が大きく変わり、ストレスを抱え、この先どうなるか見えない中で、現在は、不安が付きまとう状況かとも思っています。

このように大きな災いでも、必ず先に光が見えてくるはずで、それを頼りに今をがんばっていきたいと思っています。

さて、我々サラリーマンが仕事をしていると、コロナ禍のような大きな災でなくても、大きなトラブルを抱え、その解決方策の見通しが立たないことが発生します。

そして、解決策を考え、手を打ち始めたにもかかわらず、その対策が功を奏さないとき、思わず悩んでしまい思考が止まってしまったことを経験した人は多くいると思います。

では、困難に遭遇したときにどのようにその状況から抜け出せばよいのでしょうか。

作家、池井戸潤氏は、その作品の中で、トラブルに遭遇し、さらにそれに追い打ちをかけるように家庭内の問題が発生した中小企業の社長の姿を描いています。

社長は、そのようなときにあっても、その先の光を求めて、その問題に対峙し、その困難を乗り越えるのでした。

私も、ある工事現場でトラブルが続き、先の見通しが見えず、2年ほどの間悩み続け、いろいろな対策を講じて問題を解決しようとした経験があります。

そして、ある時に解決につながる兆候を見つけたことで、そのトラブルに真摯に対応していく勇気を持つことができました。

今回は、池井戸氏の作品と私の建設現場での経験から「困難に遭遇した際に、どのように乗り切るか、また、その先にある新たな世界」について紹介します。

困難を乗り切るためには継続的な頑張る気概が必須

池井戸潤氏の小説「空飛ぶタイヤ」は、小規模な運送会社が舞台です。会社のトレーラーの事故で、若い母親を死亡させる事故が起きました。

トレーラーのメーカーである東京ホープ自動車の出した調査結果に書かれた「整備不良」に、納得しかねる主人公赤松社長は、何とか整備不良を覆し、真相を解明しようと努力します。

しかし、大企業の自己保身の論理の前に、解明の糸口もつかめずにいました。

一方、家庭内でも問題が発生し、孤立無援となった赤松は、その状況にもあきらめることなく、前に進むことを決意します。

ここで紹介する一節では、赤松がその決意を持つまでに至る、心の動きを描いています。

言い訳もできず、肯定も否定もできず、赤松自身こみ上げてくるものと闘い、ひたすら我慢を重ねてその場をやり過ごすしかない辛さ。

ひとしきり泣いた後、史絵は涙を拭きながら顔をあげた。

「もう限界来てるよ。子供達も——私も」

赤松の目に、憔悴しきった妻の顔は青白く映った。そこに精神の細い糸すら伸びきった危ういものを見出して息を飲む。

もう少しの我慢だとか、いまを乗り切ればなんとかなるとか、そんな上っ面な言葉はたちどころに排され、耐えるしかない悲惨な現実だけが目の前に醜悪な現実として横たわっている。

つらい時、人はそれがいつかは終わると確信しているから強くなれる。だが、いつ終わるとも知れない闘いがもたらすものは、絶望と脱力だ。

それでも俺は闘わなければならないのか——–。

そのことに思い至った赤松は、もはやどんな感情も感じないほどに疲れ切っている自分にも気づいていた。

だが、立ち止まるわけにはいかない。前進しなければならない。

家族と会社、そして従業員がいる限り。

いつか必ず、この苦しい闘いは終わる。終わらせてみせる。だから——-。

だから頼む、ついてきてくれ——-!”

(池井戸潤著 空飛ぶタイヤ)

先が見えない中、光を求めて前向きに行動したことで、最後には、赤松社長は、大田メーカーに勝つことができるのでした。

先の光の見えないトンネルに突入

私が建設現場で課長として現場の責任者を務めていたときの経験です。

貯水池を建設する現場で土木技術者として勤めていました。貯水池が完成し、水を貯め始めると、計画通りに池の水位が上がってきませんでした。

自分が責任者ということで、その原因を探るための調査と、その原因に基づいた対策工の設計の指揮を執りました。

工期が間近であったことから、時間的な制限がありましたが、池の周りの沢の状況などを調べ、水を貯める前と変わっている箇所がないか、また、池の中も潜水士を入れるなど、入念に調査を実施しました。

その結果、一部に水が漏れている箇所があり、まさにそこがトラブルの原因箇所と定め、その個所を重点的に調べ、対策工を施しました。

「これで良し」ということで、再度水を貯め始めました。しかし、最初に水を貯め始めた時と同様の水位になると、やはり、計画通りに水が溜まらない状況となりました。

再度、前回より範囲を広げ、他に原因がないかという視点に十分留意して調査を実施しました。

そのうえで、再度水を貯め始めると、前回よりは高い水位まで水を貯めることが出来ましたが、新たなトラブルが発生し、計画した最高水位まで水を貯めることが出来な状況になりました。

あれだけの調査をし、対策工を実施したのに、どうしてこのようなことになるのか、頭を悩ませました。

また、一緒に、対策工事を進めてきた仲間たちも、度重なる対策工を厳しい仕事環境で進めなければならないことが続き、その緊張感から疲れ切っている様子がうかがえました。

さらに、再度の調査と対策工を実施することになれば、工期に間に合わなくなる可能性も出てき、現場の責任者としてこの先どうすればよいのかに頭が回らず、頭の中が真っ白になりました。

まさに、トンネルの中に入り、いくら走ってもその先の光が見えず、恐怖心だけが拡大するような感じが付きまといました。

しかし、水を計画通りに貯めることが我々の仕事であるという責任感は、まだ残っており、何とかしていこうという意思が次の段階に進むきっかけとなりました。

トンネルの先に光を見出し、困難を乗り切ることに

こうなった以上は、現場だけで対応を考えるのではなく、広く外部の意見もしっかり聞いて、調査と対策工を検討していこうという方針が出され、早速検討チームが編成されました。

今までの工事、湛水時の状況、トラブル発生時の状況等を再度洗い出し、今後の方針を定めました。

結局、貯水池の水を抜き、全面的な調査を展開することになりました。方針がそう決まったことで、今回こそは原因を特定し、工事も完了できるのではという期待がありましたが、まだ、トンネルの先の光は見えない状況が続きました。

水を抜いたところ、それまでの調査では見つけられなかった原因箇所が、目の前に現れました。

その個所を中心に調査を進め、そこが真の原因箇所であることを確信し、このときになって初めてトラブルを解決できるのではという自信がわいてきました。

まさに、トンネルの先に光が見えた瞬間でした。

その原因箇所を手当てし、再度水を貯め始めると、今回は、満水まで計画通りに水を貯めることが出来ました。

何回かのトラブルで先が見えず、何も考えられないときもありましたが、仲間とともにその都度トラブルに立ち向かおうとした意識が、新たな手立てにつながり、解決にこぎつけた結果と思っています。 

まとめ

トラブルが続き、解決の糸口が見えず、まるで出口のないトンネルの中に入ってしまったような気がし、不安がどんどん増していくことを感じることはいろいろな場で起こり得ることと思います。

そのようなときどうすればよいか。池井戸氏も書いているとおり、「前進あるのみ」という強い意志を持ち続けることが大切と思います。

そして、今までとは違った視点で事象を見ることで、新たな対策が見つかることがよくあります。

そのように前向きな思考を持つことで、トラブルの先の光が見え、トラブルルを乗り越えようとする力がわいてくるのだと思います。

まだ、コロナ禍は続くと思いますが、このような時期だからこそ、次の世界に向けて新たな光を見つける努力を続けていきたいと思います。