ある競技で、力だけで勝負しても勝てなかったり、交渉において、理詰めで説得してもなかなかに相手に理解されなかったり、力だけで押し通してもよい結果が生まれないことはよくあります。
その時に、一歩引いて考える余裕を持ち、知恵を働かせることで物事が解決することも多くあるようです。
山本周五郎は、力を持つ者と知恵を持つ者の二人がそろったことで、大事を成し遂げることができたことを、その著書「さぶ」で書いています。
私も、ある商品を開発することに携わったときに、技術力だけでは顧客のニーズに合う商品は出来ないことを学びました。
今回は、山本周五郎氏の作品と私の経験から「商品開発など大事をなすときには知恵と技術力の双方が必要」について紹介します。
力と知恵で災害を乗り切る
小説「さぶ」の舞台は、江戸時代の下町です。なんでも器用にこなす栄二と、鈍だが愛情深いさぶの二人が主人公です。
いつも兄貴役を務める栄二が根拠のない盗みの疑いから石川島の人足寄場に流されました。
それ以来、世間を恨むことしか考えなくなった栄二でしたが、人足寄場でのある事件を通じて人のやさしさに触れる機会を得て、落ち着きを取り戻し、人相寄場を出ることになりました。
その後、栄二は、さぶとともに昔からなじみのある経師屋を始め、お互い支えながら一人の男として成長を遂げていきます。
ここで紹介する一節は、栄二がまだ人足余生場にいたときのことで、大嵐が人足寄場を襲ったときのことです。
ある日、江戸に大雨が降り、栄二たち人足が暮らす寄場が水につかり、人命の危機に陥入りました。そのとき、自らの命を顧みず、力持ちの清二と知恵のある栄二が、協力して他の人を誘導し、皆を救うこととなりました。
その二人の行為を称賛し、栄二と清二を相手に人足寄場の奉行が語る場面です。
その二人の行為を称賛し、栄二と清二を相手に人足寄場の奉行が語るのでした。
九月一日の休みに、栄二とこぶの清七が役所へ呼ばれ、それぞれ一貫文の褒美を貰った。暴風の夜、総崩れになった人足たちを抑え、無事にかれらを非難させたうえ、七十余人にすすんで、島を守るためきっかけを与えた、という二つの件を褒められたのである。栄二は辞退し、あれは清七の手柄であって、自分はあとから彼のまねをしただけだといった。
「奉行は見ていたのだ」と成島治右衛門は穏やかに微笑みながら云った、「—–初めの功は正しく清七のものだ、清七の振り上げた掛矢が、崩れ去ったあの人数の足を止めた。そして、続くそのほうの説得があればこそ事がうまくいったのだ、清七の掛矢だけでは、死の恐怖で動転したあの人数を抑えきることはできない。力に対しては必ず力が動き出し、避難する前に死傷者が出たであろう」
清七の力と栄二の知恵と、この二つであの騒ぎを抑えられたのだ、と奉行は云った。
出典:山本周五郎著 さぶ
知恵と力がかみ合うことで甚大な災害を免れることができた事例ですが、この知恵と力を合わせて危機に取り組む姿勢は、ある大きな課題を克服する場合にも同じことが云えると思います。
私も商品開発に関係し苦労していたときに、顧客ニーズに合わせるためには知恵と技術力の双方が必要であることを学びました。
技術力だけではお客様のニーズに合う商品開発は不可能
自社の有する技術力を頼りに、自らの思いだけで開発した商品が、お客様のニーズに合わず、満足してもらうことができないことは、よく聞く話だと思います。
特に、技術に自信を持っていると、自分が開発する商品ならば、絶対お客様はその商品に目を付け、買ってくれるはずだと思い込んでしまいます。自分を満足させることに終始し、お客様のことまで思いが至らない状況になってしまいがちです。
そこには、お客様のニーズに何とかこたえようとする意識が見られません。
私が土木建築関係のコンサルティング会社の社長を務めていたときに、営業部門で経験した事例です。
我々が持つ技術であれば、必ずお客様に満足してもらえるといった意識のもとで、お客様のニーズを聞くこともなく開発した商品がありました。
これはきっと気に入ってもらえると思い、お客様のところに商品をもっていったところ、「いい商品を開発されましたね」と言われるものの、「ぜひ、うちの会社でも使いたい」とは言ってもらえず、結局その商品は、どこにも売ることができませんでした。
結局、自社の技術力に拘泥し、顧客ニーズを反映しようとしない傲慢な姿勢がそのような惨めな結果を招いたものでした。
顧客のニーズに応える商品開発には知恵も必要
自分がよいと思って開発した商品が、必ずしもお客様に買ってもらえない、という痛い経験から、開発にあたって心得なければならないことを我々は学びました。
お客様に買っていただける商品を開発する場合、なんといってもまず実施することは、お客様の声を聞き、ニーズを確認することが必要であることを改めて認識しました。
早速、お客様の声を聞くことで、ニーズを把握できるようになりましたが、辞書の技術力だけでは商品の開発ができない事態も出てきました。
自車の技術力に頼り切ればあきらめざるを得ない状況でしたが、これまでもお付き合いのあるお客様であったこともあり、何とかお客様のニーズに応えることに方針を固めました。
時間があれば、新たに自社内で技術を開発することは可能であることがわかりました。
しかし、自社で技術を開発していれば時間がかかり、とうていお客様の要求するタイミングでの納入はできないことがはっきりしました。
このため、自社以外の会社、学校が持つ技術を調べ上げたところ、必要な技術を持つ会社が見つかりました。
以前からお付き合いのある会社であり、共同で商品を開発することでその会社の了解を得ることができました。
「難題に出会ったときには知恵を働かせること」を実践することで、技術的な課題を克服することができた事例でした。
この経験から、知恵を働かせることで、顧客ニーズへの対応についても幅が広がることを学びました。
まさに、山本周五郎が語る、力と知恵の両方を働かせて初めて、お客様の心に響く商品が出来上がるのだと思います。
まとめ
勝負事しかり、危機への対応もしかり、力だけで押しても相手を負かす、もしくは危機を乗り切ることはできません。
会社を上げての商品開発のような大きな課題の場合も同様で、力と知恵、両者を車の両輪に見立て、ことに臨む姿勢が、問題を解決する手段になると思います。






