モチベーションをアップしたいとき

知恵と工夫が問題解決の基本-会社生活43年からの教訓-

物事を進めようとしたとき、大きな壁にぶつかると、つい安易な方法で問題を解決してしまい、当初に掲げた目標を達成できない結果になってしまうことがよくあります。

では、問題解決に必要なことはどんなことなのでしょうか。

池井戸潤氏は、その作品の中で、ある建設会社が大きなプロジェクトが公示され、受注競争となったときに、応札額を下げる代わりに、知恵と工夫で大幅なコストダウンを達成することで応札額を下げ、このプロジェクトの受注につなげた話を書いています。

私も、ある会社の同僚から、あるプロジェクトの推進のため、仲間と一緒になって知恵を出し合い、大幅なコストダウンを達成したことで、そのプロジェクトを進めることが出来たという話を聞いたことがあります。

また、私自身も、海外のプロジェクトが頓挫しそうになった時に、地道な検討を重ね、関係者の理解を得ることで、そのプロジェクトを継続することが出来た経験があります。

今回は、池井戸潤氏の作品と私の会社生活からの経験から「問題を解決し、しっかり目標を達成するためには、知恵と工夫が基本」について紹介します。

知恵を絞り工事費を下げることで談合回避

池井戸氏の小説「鉄の骨」の舞台は、中堅ゼネコンの一松組の業務課です。建築現場で工事管理を担っていた主人公、富島平太は突然の異動で業務課に転勤になりました。

業務課は、談合課とも呼ばれ、公共事業のプロジェクトの入札時の会社間の談合調整を担っていました。

一松組が得意とするトンネル工事を主体とする地下鉄工事が発注されました。一松組では、それまでのやりかたを踏襲し、応札に向け、落札額を決めた上で、工事費低減のため協力会社、資材メーカーに強く協力要請を進めてきました。

しかし、そのやり方では、応札額を下げるうえでは限界があることが見えてきました。

受注に向けた今後の取り組みを議論する会議では、ベテランの営業部長をはじめ、多くのメンバーが引き続き協力会社への要請を強めていこうと主張します。

その中で、これまでの協力会社との交渉で、一段の協力要請が困難であると判断した業務課の中堅社員西田が、資材などの低減で無理をするのではなく、工法の見直しで大幅にコストダウンを図ることを提案するのでした。

土木技術部門との連携で、そのコストダウンにもめどがつき、工事費は20%もの大幅な削減が可能で、受注競争にも勝てる応札額を達成することが可能な提案でした。

一松組は、道路族の主(ぬし)である国会議員のごり押しもあり、談合に加担する事態もありましたが、結局、このコストダウンが功を奏し、その談合に参加せず一松組はプロジェクトを受注することになりました。

ここで紹介する一節は、西田が、知恵と工夫でがコストダウンを進めて応札することを強調する場面です。

西田らのコストダウン案は、部番毎の値段の見直しから始まっている。

金本(営業部長)案に対する、現実を踏まえた修正案は、ひと言でいえばより精緻なものだった。金本主導で作成した計画に比べ、コスト高であるものばかりではなく、中には大胆に下回る目標価格を設定しているものもある。

「結局のところ、おしなべてコスト高を容認しろってことかよ」

西田の話が一段落した隙を突いて、金本が皮肉を込めた。

「違います。個別コストといったミクロの努力には限界がある。私が提案したいのは、コスト構造の転換です。そのために——-」

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(西田)「トンネルの位置が地上に近ければ近いほど、コストは下がる。今回の品川・初台間の地下鉄工事をシミュレートしてみると、この工法を採用することによって、総コストは約二十パーセント削減できる」

平太は思わず、我が耳を疑った。

二十パーセント——!

会議室のあちこちで驚きの声があがったのはいうまでもない。

「おい、そんな工法があるんなら、なんで最初から言わなかった」

狼狽した金本の言葉は、どこか言い訳めいて聞こえる。

「技術的問題があったからです」

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この部署に来た日に、業務課は談合課だといわれた。実際、S区役所発注の工事では、談合破りによって落札こそできなかたものの、調整による入札に臨んだ経緯がある。

だが、今回の大掛かりな公共工事に入札するにあたって、平太は業務課の業務課たる部分、真の実力を垣間見た気がした。

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知恵と工夫によって事態を打開し、正当な競争で一番札を勝ち取る、これが本来の入札のあり方だ。”

(池井戸潤著 鉄の骨)

知恵と工夫による大幅コストダウンで事業を推進

私の会社の同僚の体験談です。

彼も私と同じ技術屋で、その当時、大きなプロジェクトの推進担当としてチームを引っ張っていました。

そのプロジェクトは、彼が所属する部門の将来の成長戦略には欠かせないものであり、彼としては、どうしてもそのプロジェクトを推進する必要があり、また、その責任を負っていました。

そのプロジェクトの計画書がまとまり、その推進の可否について経営層へのプレゼンが行われました。

その席で、ある役員から「今の工事費では、プロジェクトを進めるわけにはいかない。工事費を半分にすればプロジェクトを推進してもよい」との意見が出されました。

工事費を半分にしろという想定もしない指示に、彼も当初はがっかりし、あきらめざるを得ないかなといった考えが頭をよぎったといっていました。

しかし、仲間の応援もあり、彼はあきらめず、すぐに手を打ち始めました。

まさに「鉄の骨」と同じように、徹底的なコストダウン方策の検討を始めました。

工法の見直しについては、専門業者の意見を聞き、工程を短縮することを確実にしました

また、工事に使う機器についても、専門メーカーと相談し、改良を進めるめどを付けました。

そのほか、細かい点にも目を光らせて、半年の検討で工事費を半減するめどを付けました。

その結果をまとめた計画書を、再度役員会に諮り、役員の賛同を得て、プロジェクトを推進することとなりました。

役員に想定外の指示を言われたからといって、プロジェクトをあきらめることをせず、知恵と工夫でコストダウンを図り、プロジェクトの推進を獲得することが出来た事例です。

プロジェクトを推進できたことの嬉しさのほかに、仲間との一体感、さらにはモチベーションが今まで以上に上がったとも、彼は話していました。

粘り強い交渉でプロジェクト推進の活路を開く

ここで紹介する話は、私が、海外事業を部門のトップとして勤めていたときの経験です。

中東のある国で技術的なコンサルティングを進めていました。テロ組織の活動が中東地域で活発化し、プロジェクトを今後進めるべきか否かという問題が発生しました。

その国の関係者からは、「十分な安全対策を採るので、プロジェクトを止めることはまかりならない」と、さんざん言われていました。

そのようなときに、上層部から「危険なので、すぐに引き上げるように」との要請がありました。

社員の安全が大切ということが理由でしたが、その国とのこれまで築いてきた関係などを一切考慮しない提案であったことから、すぐには了解できない状況でした。

プロジェクトを止めてしまうことは、部門の収支の意味でも問題でした。しかし、それ以上に懸念したのは、その国とのこれまで培ってきた良好な関係が損なわれてしまい、今後一切、その国での仕事はできなくなることが考えられたことでした。

また、プロジェクトの推進に協力してくれていた日本の国際機関もプロジェクトを止めることに対しては反対であり、やめることになればその組織との関係も悪化することが予想されました。

安易に何の対策も講じずにプロジェクトを止めることはできるかもしれませんが、その影響は甚大であり、何とかプロジェクトを継続するため当該国との交渉を進めました。

当該国の関係者とは入念に打ち合わせをし、プロジェクトの推進にあたっては、十分な安全対策を当該国の責任で果たしてもらうことなどを取り決めました。

また、日本の国際機関に対しても、現地事務所との連絡を密にし、情報共有を緊密にし、さらに何かあった場合の対応を取り決めました。

これらの手段を講じることで、上層部の了解を得、そのプロジェクトを継続することが出来ました。

出来得ることを地道に検討し、手を打つことで、安易な判断を覆すことが出来た経験でした。

リスクが絡む話になると、安易に断念することを考えますが、柔軟かつ地道に対策を検討することで活路が開ける事例でした。

まとめ

仕事をしているときに、大きな壁にぶつかったときの対応として大きく二つがあると思います。

一つが安易な判断で、極端な場合は、その仕事を止めてしまうことで済ませてしまう対応です。

いま一つが、大きな壁の課題を徹底的に分析し、知恵と工夫でその課題を克服して、当初の目的を達成する対応があると思います。

どうしても、時間がない、上司がうるさいなどの理由で、安易な芳に流れることがあるかと思いますが、これでは、サラリーマンをやっている醍醐味を味わえないのではと思います。

ぜひ、「鉄の骨」の西田、また、私の同僚のように、知恵と工夫で壁を乗り越えてもらえればと思います。