モチベーションをアップしたいとき

新たなアイデアを出す遊び心-社長経験からのアドバイス-

コロナの感染防止のため、外出自粛が続き、働き方や事業の進め方が大きく以前とは変わってきています。

まさに「新常態」といわれる世界が始まっており、一人ひとりが変わっていかなくてはならない状況であると思います。

このように、大きく自分の周りの環境が変わっていくときに、その環境に適合し、いきいきと仕事をしていくためには、どのようなことを意識するのがよいのでしょうか。

変わっていく社会に対し、慎重になり過ぎ、几帳面に対応するのではなく、遊び心をもって次のことを考えていくことで、新たな発想もわき、仕事も面白くなるのではないでしょうか。

この新常態に限らず、このことはいつの時代でもいえることと思います。難題にぶつかったときや事業を始めようとしたとき、この遊び心を持つことで、いろいろな考えや工夫が浮かんでくることが多く、几帳面に考えて事を進めるより、幅が広いものになることが多くあります。

岡本さとる氏は、作品の中でその点に触れています。

主人公である剣道の師範が、なかなか現状を打破できない弟子たちを前に、その解決策をどうすべきか悩んでいたときに、遊び心を持つことの大切さに気づいた話を紹介しています。

私も、会社の社長を務めていたときには、部下が、何か新たな事業を始めようとしたときには、この遊び心を大切にするよう話してきました。

今回は、環境が変化する中で、いかに生き生きと働くかについて、おかま落としの作品と私の経験から紹介します。

遊び心を持つことで一皮むけた境地に

小説「熱血一刀流 胎動」の舞台は、江戸時代中期の江戸下町にある剣術道場です。

主人公である、小野派一刀流の剣豪、中西忠太が新たな道場を開き、別の道場を破門されたやさぐれ剣士たちを集めての猛げいこが始まりました。

中西忠太は、型や組太刀を修めることを重要視する、他の小野派一刀流の道場での稽古と異なり、実践的な立ち合いや試合を重んじた稽古を取り入れていました。

この方針のもと、弟子たちに実践的な能力を植え付けるよう、稽古のやり方については、日頃から工夫していました。

しかし、稽古に励む中、弟子たちの体力はついてきたものの、実践的な能力といった意味では、伸び悩んでいる状況にありました。

このため、実践的な能力を強化するための方策を何とか見つけなければと思い悩む日々が続いていました。

ちょうどそのようなとき、流派の違う剣豪と出会い、その剣豪、長沼四郎左衛門から防具を付けた稽古を紹介され、指導を仰ぐことになりました。

ここで紹介する一節は、防具をつけて稽古をするなどは、遊びで剣道をやるものである、と批判する多くの剣豪に対し、遊び心の大切さを長沼四郎左衛門が、悩む中西忠太に語る場面です。

(長沼)「これが道具を着けての稽古でござるよ。今は、中西殿の技を誘い出して、それを払って某は面に出たのでござるが、下手をすると小手をもらっていた。だが、小手をもらったとて、道具と竹刀のお陰で、某の手首が斬り落とされるわけではない——。それゆえ思い切って仕掛けたのでござる」

(中西)「なるほど―――――」

「打ち合う内に、どの技が相手に通じるかわかってくる。また、その技に磨きをかけることもできる」

「いざという時は、日頃決まらぬ技を出さねばよろしいのですね」

「いかにも。竹刀と道具を使うた稽古を遊びと笑うものもおりますが、遊び、大いに結構じゃ。遊びに魂をかける。それでよろしかろう

「遊びに己が魂をかける——」

その言葉の滋味に忠太は感じ入った。

笑わば笑え、嘲けるならそれもよし。しかし、剣への思いと流した汗は、お前達よりも数段上なのだ。

あらゆる偏見と中傷を受けながら、長沼四郎左衛門は、強い意志を貫いて、”ながぬま(竹刀と防具をつけて稽古をすること)”による稽古を大成させたのであろう。

その苦労を察すると、忠太は感動を禁じえなかった。

「中西殿、戯れ言を深う受け止めてはなりませぬぞ。今日の立会いは他流仕合ではござらぬ、遊びじゃ。もうちと遊ぼうではござらぬか」

(岡本さとる著 熱血一刀流 胎動)

早速、道具を着けての稽古が中西道場でも始まり、数か月経つ頃には弟子たちの動きにも実践を意識した動きがみられるようになりました。

中西忠太のやり方に異を唱える小野派一刀流の守旧派の一人、有田十兵衛が久しぶりに、中西道場を訪れ、弟子たちの動きが見違えるようになっているのを見、中西忠太のすごさを改めて感じるのでした。

彼(有田)の目に映る中西道場の五人は、―――――見違えるほどに体の動きがよくなっている。

しかし、有田十兵衛が何よりも感じたのは、中西忠太という剣客の凄みであった。

—–中西忠太は、こういう剣を求めていたのか。いや、大したもんだ。俺には思いもよらなかった。

—–

ましてや彼は、奥平家で百五十石を食む身なのである。

よけいなことをして、方々から睨まれずとも、すました顔で型と組太刀を指南していればよいのだ。

実践的な剣術に目を向けるのはわかる。だが四十をとうに過ぎて、未知なる道具着用による竹刀での打ち込み稽古に、弟子たちとともに挑まずともよかろう。

—–自分にはできない。

(岡本さとる著 熱血一刀流 胎動)

中西忠太が、自分が目指す剣術に近づくために悩み続けている中で、遊び心をもって、新たな稽古法を取り入れたことで、その目的を達成するところまで来た姿でした。

遊び心を持つとやる気が増す

私が社長を務めていた会社は、土木や建築構造物の設計を主たる業務としていました。

特に土木部門については、構造物を設計するときに、基礎地盤を組み込んで設計することが重要でした。

このため、構造物の基礎となる地盤の安定性を評価するための多くの技術を有していました。

その中に、わが国でも先進的な解析手法があり、大規模な斜面の安定性評価などに使われていました。

その解析技術は、会社では、土木構造物を対象に使っていましたが、ある日、その解析を開発した技術者が、「この解析手法は、土木ばかりでなく、もっと幅広く使える可能性がある」というような話をしてくれました。

そこで、私から、「どんな分野に使えるか、幅広で考えてみたらどうか。土木にこだわらず、遊び心を持って考えるとよいのではないか」といった、アドバイスをしました。

すると、あまり日にちを置かず、「オリンピックで人気のスポーツとなったカーリングに応用することが可能ではないかと考えている」との返事がありました。

カーリングでは、石のコースの取り方、どこで石を止めるかといった点について、投擲やスウィーピングを正確に行う必要があります。

この、投擲する選手を支援する目的で、この解析法が役立つのではということでした。

土木とは全く異次元の世界ですが、挑戦してみる価値はあるということで、一緒になって検討してくれるカーリングチームを探すことになりました。

いろいろ、聞いて回ったようですが、一緒に検討しても良いというチームが現れました。

その後、そのチームが練習するときには、出かけていき、精度良くボールを投げるための、条件を解析的に見つけ出すことを開始しました。

まだ、成果は出ていませんが、その解析を担うチームは、遊び心を持つことで、今までになく、明るく研究を進めており、いろいろな分野へ挑戦していく意識が強まったと語ってくれています。

まとめ

コロナの感染のひろがりから、今までとは違う生活の仕方、働きかたを取り入れなければならない、いわゆる“新常態”といわれる状況になっています。

このようなときに、その環境の変化を恐れているのではなく、このような時だからこそ、知恵と工夫を駆使してこれからの世界を乗り切っていくことが大切であると思います。

この知恵と、工夫は、今までのやり方の見方を変え、遊び心をもって、幅広い視野で考えていくことが必要なのだと思っています。