モチベーションをアップしたいとき

働く喜びを求めて-社長経験からのアドバイス-

私は、建設現場で働き始め、最後は、ある会社の社長を経験しました。

長いこと会社生活を送り、また、いろいろな職場で働いていると、明るく、わくわく感をもって働いている人がいれば、何かつまらなそうに、ただ仕事を消化している人がいるのを見かけます。

働くことは、我々の人生の大半を占めるものであり、どうせ働くのであれば、その中に喜びを見つけ、生き生きと働くことが素晴らしいのではないでしょうか。

では、働くことに喜びを感じるためにはどうすればよいのでしょうか。

作家、今野敏氏はその任侠シリーズの一冊「任侠シネマ」で、金のためだけでなく、働くことに喜びを見つけることの大切さを紹介しています。

私も、ある会社の社長を経験したときに、社員の人たちに生き生きと働いてもらうためには、自分が担う仕事の中に喜びを見つけてもらうことが大切であることを学びました。

今期は、今野敏氏の作品と私の社長経験から「働く喜びを求めてどうすればよいか」について紹介します。

金のためだけに働くだけだは仕事に喜びは得られず

小説「任侠シネマ」は、今野敏氏の任侠シリーズの一冊です。

このシリーズでは、やくざである阿岐本組が、経営が悪化した学校や病院などの再建に乗り出し、見事、復活させるまでの悲喜こもごもの痛快談を取り上げています。

「任侠シネマ」の舞台は、東京、北千住の老舗の映画館です。この映画館も、時代には逆らえず、経営は赤字が続いています。

そのようなこともあり、映画館を所有する会社の社長である増本氏は、利益の上がらない映画館を存続するか、廃止するかで悩んでいます。

一方で、映画館の存続を熱望するファンがおり、これらの人を中心としたファンクラブが、クラウドファウンディングで、資金援助しようとしていました。

しかし、北千住の再開発に絡むグループによる妨害工作で、その支援も頓挫してしまっています。

そこに、映画館の経営再建の支援の依頼が阿岐本組に寄せられました。

組長である阿岐本、そして若頭の日村をはじめとする組員の努力により、妨害工作をするグループの目論見をつぶし、無事、映画館の存続に道を開くのでした。

ここで紹介する一節は、阿岐本組長の弟分である永神組長から、映画館の経営再建の依頼を受け、阿岐本組が奮闘し始めた時のことです。

映画館の存続を、金銭的な視点からしか考えない、現実的な若頭の日村を相手に、なぜ商売をやるのかを、阿岐本組長が熱く語る場面です。

(阿岐本)「こんななまぐせえ金の話なんざ、早く終わりにしてえな。映画館ってものは、もっと夢のあるもんだ」

(日村)「しかし、商売となれば、夢だの何だのと言ってられなくなるでしょう」

「誠二——」

「はい」

「おめえの悪いところはそれだよ」

「はあ——」

それって、何のことだろう——。

「おめえは、何でもかんでも、こうしなきやならねえとか、こうあるべきだとか、考えるだろう」

「そうでしょうか——」

自分ではよくわからない。

「そうなんだよ。そして、物事のマイナスの面を見たがる」

「いや、決してそんなことは——」

「そうなんだよ。商売なんだから、夢だの何だのと言ってられない——。たしかに、そうだよ。

けどな、何のための商売なんだ?これはな、『千住興業』社長の増原さんにも言ったことだがな。

人は、ただ金のためだけに働くんじゃねえんだよ。極道が言えた義理じゃねえけどな、働く喜びってもんがあるんだ

「自分も、それはわかっているつもりですが——」

「いや、わかってるつもりでも、つい楽しみとか喜びとかを後回しにしようとする。増原さんもおめえも同じだよ」

(今野 敏著 任侠シネマ)

その後、日村は、組長の言葉を受け入れ、その意向に沿って行動するようになります。

一方で、映画館の廃止を狙うグループに、貸し手である映画館オーナーとの金銭面での関係を続けたい銀行が絡み、増原社長の経営者としての苦悩は続きます。

しかし、最終的には、増原社長は、阿岐本組長が語る「働く喜び」を映画館の社員に見出し、存続を決意するのでした。

次の一節は、阿岐本組長が、改めて会社の経営について悩んでいる増原社長に語っているときの会話です。

(阿岐本)「前に言ったことを、もう一度言わせていただきますよ」

(増原)「前におっしゃったこと——?」

「ええ、何のためのお仕事か、と私は質問しました。そのとき、社長は、利益を上げるためだとおっしゃいました。私はそれだけじゃないと思いました。

そして、こう申し上げたのです。やりたいことをやるためじゃないのか、と——。人は何かやりたいことがあって会社をつくるのでしょう。

利益を上げることは部下に考えさせればいいんです。社長の仕事にはもっと大切なことがある。

なにをやりたくて会社の経営をなさっているのか。それをお考えになることが、重要なんじゃねえですか?

(今野 敏著 任侠シネマ)

利益追求だけでは社員の満足感を満たすことはできず

ある会社の社長になってすぐに、その会社の経営状態が停滞していたこともあり、まずは、利益を上げることが最優先であると確信し、経営の変革を進めました。

社員にも、企業として利益を上げることの必要性を説き、いかに利益を上げるかを考えて行動するよう話し続けました。

2年ほどすると、その成果が出始め、会社は、今までにない利益を生むようになり、社員への報酬も上げることができました。

しかし、その後の社員を対象にした意識調査で、給料が上がることだけでは、仕事や会社に対し満足感を得られない人が、結構いることに気づきました。

さらに、仕事に満足を感じる理由について意見を聞きました。

すると、自分が従事する仕事に意義を見つけ、納得して仕事に関わることで、わくわく感をもって仕事に積極的に関与しうることがわかりました。

そのようなこともあり、年数をかけ、社員の仕事に向かう意識を変えることを始めました。

仕事に喜びを感じてもらう取り組み“能動的な行動”

意識改革で大事にしたことは、やらされ感をなくすことでした。

「上司がやれと言っているからこの仕事をやっているのだ」、という受動的な行動を上げる人が多くいました。

これでは、どうしても、わくわく感を持って仕事はできないということもはっきりしました。

やらされ感をなくすために、いかに“社員に能動的に仕事に従事してもらうか”が大きな課題でした。

そのためにとった方針が“自ら考え、判断し、行動する”ことを前提に仕事に取り組んでもらうようにすることでした。

会社を経営するうえでは、まず会社が社会に対しどのように貢献し、成長していくかを明らかにし、そのための方向性を社員に対し明確にします。

そして、その方向性のもとで、執行部隊である各部が何をなすべきかを考え、実際に事業を展開していくことになります。

これまでは、部長からグループマネージャーに仕事が流れ、それを受けたグループマネージャーが、各担当に仕事を割り振っていました。

まさに、担当者からしてみれば、やらされ感一杯の仕事のやり方でした。

仕事のやり方を変えるために大事にしたことは、なぜその仕事をやらなければならないのかを社員一人ひとりに理解してもらうことでした。

その仕事が、会社としての、また、部としての方針のどういうところに関係しているのか、担当者の納得感が得られるまで説明し、意見交換することから始めました。

その上で、自分の仕事の目標を明確にし、スケジュールも決め、仕事を実施してもらいました。

その際には、自らが能動的に行動できるように、上司のサポートのもとで、“自ら考え、判断し、行動する”ことにしました

これにより、自らが、会社の進むべき方向に参画していることが意識され、自分が考えなければ事が進まないといった、能動的な行動のもとで仕事が可能となります。

2年ほどこの運動を続けていますが、まだ、顕著な成果は出ていないものの、社員からは、強く支持されています。

いましばらくたてば、わくわく感をもって仕事をする社員が増えてくるものと確信しています。

まとめ

我々は、人生の大半を働くことに費やしています。そうであれば、働くことの中に喜びとか、わくわく感をもって仕事に従事したいものです。

そして、一つの仕事が終わった後には、やり切ったという達成感も是非感じたいものです。

このためには、給料が高いということばかりでなく、その仕事に喜びを見つけることが大切と思います。

そのための一つの方策が、仕事をするときに受け身とならず、能動的にその仕事に取り組んでいくことだと思っています。