モチベーションをアップしたいとき

やりがいを持つ仕事は夢を語る社長のもとで

新型コロナの感染が収まらず、サラリーマンの働き方が大きく変わっています。

職場を離れ、自宅で仕事をする人が増え、また、転職を余儀なくされる人も多いかと思います。

このような時代に、いま一度、仕事にやりがいを持つためにはどのような会社で働くことが望ましいのでしょうか。

そして、せっかく仕事を得て働くのであれば、同じ職場で働くにしても、会社を変る場合でも、働くことの喜びを見つけることが大切であると思っています。

その喜びを持って働くうえでは、ただ利益ばかりを追求しているだけの会社ではなく、勤める会社に夢があるか、といったことが重要な点になると思います。

そして、夢のある会社には必ず夢を持っている社長がおり、その社長が先頭になって、夢のある世界に向けて会社を、そして社員を導いていくはずです。

作家、今野敏氏は、その作品の中で、社長を船の舵取りにたとえ、夢のある世界に向け、方向を決め、その船の舵を取っていく社長の心意気を紹介しています。

私も、会社の社長になったときに、どうすれば社員が仕事をするうえで、生きがいを見つけ、わくわく感を持って働くことができるか悩みました。

結局、社長である自分自身が夢のある世界を描き、その世界を社員に語り、その世界に向け、社員と一緒になって進んでいくことが大切であることを学びました。

今回は、今野敏氏の作品と私の社長経験から「仕事にやりがいを持つうえでの基本として、社長が夢を語っているかが重要」について紹介します。

社長はロマンをもって航海する船長となるべき

小説「任侠シネマ」は、今野敏氏の任侠シリーズの一冊です。

このシリーズでは、やくざである阿岐本組が、経営が悪化した学校や病院の再建に乗り出し、見事、復活させるまでの悲喜こもごもの痛快談を紹介しています。

「任侠シネマ」の舞台は、東京、北千住の老舗の映画館が舞台です。この映画館も、時代には逆らえず、経営は赤字が続いています。

そして、映画館を所有する会社の社長である、増本氏は、利益の上がらない映画館を存続するか、廃止するかで悩んでいます。

一方で、映画館の存続を熱望するファンがおり、これらの人を中心としたファンクラブが、資金支援などで、援助しようとしていました。

しかし、北千住の再開発に絡むグループによる妨害工作で、その支援も頓挫してしまっています。そこに、映画館の経営再建の支援の依頼が阿岐本組に寄せられました。

組長である阿岐本、そして若頭の日村をはじめとする組員の努力により、妨害工作をするグループの目論見をつぶし、無事映画館の存続に道を開くのでした。

ここで紹介する一節は、映画館の今後について悩む増本社長に対し阿岐本組長が、経営者が持つべき夢について語るところです。

経営者が、ロマンを求めて、船のかじ取りとなってその行き先を決めていくことが必要であることを語っています。

(阿岐本)「ビジネスの世界のことはよくわからねえんで、偉そうなことは言えません。ですから、これは、あくまで私の個人的な意見だと思って聞いてください」

(増原)「はい」

「社長は今、経営者は現実主義でなければならないとおっしゃいました。それはそうでしょう。厳しい現実を乗り越えていかなけりゃならねえんですかね」

「そう。経営者には会社を守る責任があります」

経営者は、言わば会社という船の舵取りですね」

「そうですね。会社がどの方向に舵を切るかを決めるのは経営者です」

「その船はどこに向かうんでしょう」

「は——」

「言い方を変えればね、その船は何のために港を出たんでしょうね」

増原は阿岐本の意図を探るように、しげしげと見つめた。阿岐本はにこやかな表情のまま言った。

「私はね。船はロマンを求めて冒険の旅に出るもんだと思いたいんですよ。船を安全に旅させるというのは、舵取りの最低限の仕事ですよね。

なにせ、船を沈めちまっちゃ元も子もねえわけだ。しかしね、安全に航行することが船の目的じゃねえでしょう。どこかに行くことが目的なんだ。その行き先を決めるのが経営者じゃねえんですか?」

「ロマンを求めて冒険の旅に出る」

増原はそうつぶやいてかぶりを振った。「経営者には、それは夢のまた夢ですね」

(今野 敏著 任侠シネマ)

このときは、まだ、阿岐本の言う「ロマンを求めて船を出す」ことに、懐疑的な増原でした。

しかし、阿岐本組のメンバーの熱意と映画館を続けたいという社員の強い意志を感じ、増原は、映画館の存続を決意するのでした。

夢を見据えて社長と社員が一緒に進む

私が、土木、建築関係のコンサルティング会社のある会社の社長となったときの経験です。

社長に就任し、最初に手を付けなければならない経営課題が、会社の収支状況を改善することでした。

それまで、会社内の各部門の縦割りが強く、会社が立てる目標を全部門が一体となって達成しようという文化がありませんでした。

全部門の社員が、一体となって進むうえでは、会社が目指す方向性を明確にする必要がありました

このため、会社としての2年先の短期的な目標と10年先の長期的な目標を明確にしました。さらに、その目標が達成されたときの会社の状況も明らかにし、社員の理解を得ることに努めました。

日々の業務のなかで実際に事業を進める社員の理解が必須と考えたわけですが、この理解を得るために、目標とそれを達成するための会社の方針を、社員との懇談会の中で明らかにしていきました。

社員の理解を得て、経営改革を進めていくことで、2年後に短期の目標を達成することができましたが、期の目標達成については大きな問題が残っていました。

それは、半分以上の社員が、その目標を達成することで実現するであろう世界を理解し、納得していないことでした。

このため、目標を達成した世界では、どれほどわくわく感を持って働くことができるのか、さらに社員も会社も一段と成長していくことができるのだという夢を、社員に語り続けました。

将来の夢ある世界に向けての航海

会社の示す、夢ある世界に理解を示すことのできない社員たちを動かすため私も動き出しました。

「任侠シネマ」にある通り、私も会社を船にたとえて、自らが船長となり、強い意志をもって、その世界を目指すことを宣言しました。

また、既に長期の目標を理解し、そのために能動的に活動している社員も30%はいました。

これらの社員から、まだ船に乗らずにいる社員と話をしてもらい、将来の世界を目指すことの納得を得るよう努めました。

このまま、今、停泊している港にいたのでは、社員一人ひとりが、また、会社が成長することができないことを反しました。

さらに、今、この港を出港すべきであることを、船に乗ろうとしない社員に訴えていきました。

そのような行動のもとで、理解が進み、5年経過したときには、長期の目標を見据えるところまで来ました。

まとめ

前作のブログ「働く喜びを求めて」でも書きましたが、人生の大半を働いて過ごすうえでは、なんといっても、その中に「喜び」を見出すことが大切かと思います。

仕事をやっているときにわくわく感を感じ、またその仕事を完了させたときに、達成感を味わう上でも、この喜びは欠かせないものになっていると思います。

そういった喜びを見つけるうえでは、その会社のトップである社長が、どのような夢をもって、その会社や社員を成長させていこうとしているかが大切です。

そして、その中で、社員一人ひとりに何をやってもらいたいかを明確に考えていることが重要な条件であると思っています。

ぜひ、会社を変ろうとするとき、また、今の職場で満足感を得られないときには、この点をよく見て行動する必要があると思います。