会社の経営改革

利益に見合った商品開発-社長経験からのアドバイス-

商品の製造や構造物を設計することを事業とする企業では、成長を続けるうえで、新たな技術や商品を開発し続けることが必須です。

そして、技術開発を継続するため、一部の技術陣に任せることが多いかと思います。

しかし、技術力に自信のある社員は、どうしても自分が持つ技術水準を満足させられるような商品を開発し、お客様に届けたいと思う傾向にあります。

そのようなことを繰り返しているうちに、会社全体の利益が下がってしまう事態に陥ることがあることも事実です。

堀場製作所を設立し、分析機器のトップメーカーとして業界をリードした堀場氏は、その著書の中で、損益度外視の商品開発を否定する明確な一言を語っています。

私自身も、設計業務を主体とする会社の社長を務めたとき、顧客の個々のニーズに応える技術商品を届ける際、顧客に届ける時間の大切さを学びました。

今回は、堀場氏の著書と私の経験から「利益に見合った商品開発」について紹介します。

利益を度外視しての100%品質の商品開発は妥当か

堀場氏は、その著書「イヤならやめろ!」の中の一コマ、「先輩の教えの功罪」について紹介しています。

市場の環境が変わったにもかかわらず、昔の方法を伝授しようとする先輩の言葉が、必ずしも正しくはないという視点から、利益を無視した商品の開発、お客様への売り込みについて警鐘を鳴らしています。

ここで紹介する一節は、堀場氏が、開発者が意識しなければならいことを述べたところです。

最近のお客は、新しい機能を面白がって買ってくれるということは皆無になりました。あくまでも自分の目的を達成するために買うのであって、「目新しさ」がセールスポイントになる時代は過ぎ去ったのです。

そうなると、「とにかく性能を上げておけ、損益を度外視しても100%の品質を目指せ」というような先輩の話はむしろ、“反面教師”と考えなければなりません。

いくら性能が良くても値段が高かったら、初めから引っかかりません。そうしたら逆に、「そのお客が買える値段でどれだけ性能をあげられるかという風に、開発する側の発想を切り替えなければならないのです。

出典:堀場 雅夫著 イヤならやめろ!

職人肌の技術者が陥る利益無視の商品開発

堀場氏が説く話と同じような経験をある会社でしました。

私が社長を務めた会社は、土木、建築といった構造物の設計や、地震時の耐震性評価などをコンサルする業務を担っていました。

一人ひとりの顧客のニーズに合った設計を進めることから、どの程度まで設計の対象となる構造物の品質を高めるかは、担った技術者の裁量に任されていました。

このようなこともあり、ともすると、自分の技術に自信がある技術者は、どうしてもさらに上の性能、品質を求めてしまいたがるようになってしまっていました。自分の技術をフルに活用した商品を開発することにやりがいを見出していることが背景にありました。また、自分が開発したものなら、顧客は満足するはずといった過信もありました。

一方で、このように当社の技術者が満足してまとめ上げた商品を顧客に届けた際に、必ずしもお客様のニーズに合っていないことが発生したことがたびたびありました。

また、満足するまで時間をかけたため、開発コストといった面で大きな問題を生じてしまう結果にもなっていました。

このような問題が明らかになったこともあり、会社内では、お客様の満足度を受注前、受注後そして納品後に調べることで、顧客の真のニーズを把握することとしました。

そしてこの結果については、営業部門ばかりでなく、設計部門も含めて検討することで、会社全体として、コスト、開発期間を含めた顧客第一のニーズに対応した商品開発を目指すようになっていきました。

一方で、とことん技術を極めたいと思う技術者にとって。技術の向上を目指手段が限られたしまうことが、モチベーションの低下につながるという問題が生じました。

これに対しては、会社内で取り組むべき技術開発テーマを決め、そこに専門技術者を張り付けることで、技術者の持ち-ベーションの維持を図りました。

性能、品質を限界まで上げることでコストは大幅増

商品を開発する場合、品質に関していえば、精度をあげれば上げるほど費用はかさんでいきます。

結局、お客様から頂く金額では賄いきれない状況となってしまいます。

この点について、堀場氏は山登りと比較して以下のように語っています。

登山に例えると、初めの三合目、それから五合目、七合目、八合目ぐらいまでは、すっと行けるんです。

ところが最後の九合目から頂上にいたるところに最大の難関が待ち構えています。

そこは、製品としては一番大切なところでもあるんですが、九.五合目くらいまで簡単に行っても、最後の頂上アタックの時に、非常に時間がかかるんです。

ところが最後の九合目から頂上にいたるところに最大の難関が待ち構えています。ただ、ビジネスと山登りには大きな違いがあります。

山登りの場合は、頂上を究められなければ失敗になってしまうのですが、製品開発の場合は、「九十点でもいいからできるだけ早く欲しい」という場合が多々あることです

出典:堀場 雅夫著 イヤならやめろ!

 

商品開発では事前の品質、精度の基準設定が必要

九十点でもよいから仕上げる、という堀場氏の発言を私は、構造物の基礎を強固な地盤に改良する工事現場で経験したことがあります。

地盤の改良をする場合、最初のうちは改良が進みますが、ある程度まで改良が進むと、その先は、少し改良度を上げるだけで、それまでと同等、もしくはそれ以上の費用が掛かることがあります。

そこで、地盤の改良にあたっては、どの程度まで改良する必要があるかを事前の検討で明確にし、改良を終わらせる基準を設けて工事を進めます。

同様な対処は、商品の開発にも言えることで、開発に先立ち目標の品質なりを明確に決めておくことが大切だと思います。のではと思っています。

まとめ

堀場氏が説くところ、また、私が経験したことから、会社の損益に影響を及ぼさないためにはどうすればよいのでしょうか。

私がいた会社では、結局、商品の品質をどこまで顧客の要望にどこまでこたえるかを、コンサルタントの作業を始める初期の段階で、顧客のニーズから明確にすることにしました。

すなわち、品質、精度をどこまでにするか事前の基準を設けることにしました。

これにより、どこまで詰めて検討すべきか、要する時間をどこまでにするかといったことが明確となり、担当技術者も納得して仕事に立ち向かえるようになりました。

一方で、制約を課すことで、技術者のモチベーションを下げてしまうことが懸念されましたが、この点については、常日頃からの、利益を上げるという本来の企業の意図を、しっかり理解させる活動を合わせて取り組みました。

さらに、時間的な余裕をもって技術を磨くため、テーマを決め、研究として取り組む制度にも力を入れました。