私が、ワシントンDCに駐在していた時に、ちょうど映画のプロモーションでワシントンDC に来られていた仲代達矢さんとお会いする機会がありました。
その当時(2009年)で50年以上、新劇の役者、映画の俳優に従事してきたということで、いろいろ参考になるとともに、興味あるお話を聞くことが出来ました。
お話を伺うと王貞治氏など一流選手に伺った話と共通するところが多くあり、一芸を成し遂げた方の努力とそれに裏打ちされた実践での応用力の凄さを改めて感じました。
名優だからできる臨機応変
仲代さんは、お話を伺たっときも新劇で活躍されていましたが、本番ではせりふの援助をする人がつかないことが多く、せりふを覚えるのが一番大変だったそうです。
3時間に及ぶ演劇のせりふを覚えることもたびたびで、せりふが無ければ俳優も楽しいとも話していました。
また、せりふを忘れてしまうことも時々あるということで、その時は、黙って勝手な演技をするのだそうです。
このため、仲代さんの周りで演技をしている配役さんが、その対応に大変な思いをすると のことでした。
また、完全に忘れてしまった時は、一度舞台を離れ、改めて舞台に出直すことにしているとのことでした。
ただし、その突然の演技が、まるで自然の演出であるかのように見えるのだそうで、まさに名人といわれる人だからこそできる芸当であると感心しました。
「経験を積むほどに、そのようなごまかしがうまく出来るようになるのか」と言う質問 については「若い時からやっていた」とのことで、名優と言われる人は、そのようなことが自然に出来る素質を持っているものなのかと感心したことを覚えています。
人目につかないところでの鍛錬
せりふを覚えるということについては、その日の練習が終わり、午前2時、3時まで飲み、それから翌朝まで寝ずに努力していたそうです。
翌日、そのまま稽古場に行き、今日の場面は“どこかな”などと聞き、“参ったな”という顔をしておいて、さらっと演技をやってしまい、周囲を驚かせていたそうです。
このように、演劇会では、皆が気づかない方法でしっかり努力をしているとのこと。
大リーグで 9 年連続 200 本安打を記録したイチロー選手も話していましたが、どこの 世界も、名人と言われる人の努力は大変なもののようです。
観客が俳優を育てる
最近、若い俳優が新劇界で育っていないそうです。
TVなんかでモデルをやったような人が、すぐに役者として出てくる世の中で、若い頃から新劇の門をたたき稽古に励むことがなくなったと言っていました。
一方で、「仲代さんを初め、勝新、萬屋錦之助、三船敏郎などの俳優が出た頃と違い、観客の民度が下がったことが問題」という発言が、同席されていた方からありました。
見る側の能力の低下が演じる側にも影響が出るという話です。
これは、技術を発揮する場がなくなると、途端にその技術が廃れてくるという、我々の技術の世界にも通じる話だと思いながらこの話を聞いていました。
チャンスに間に合う能力研鑽を
「俳優は使ってもらってなんぼ」ということだそうで、監督の声が掛からなければいくら自分でうまいと思っていても機会は与えられないとのこと。
「俳優」は運が大切と仲代さん本人は言っていましたが、前述の同席された方は、多くの名優を見てきた感じから、その時の監督の目が止まる力量を持っていることが大切という ことでした。
チャンスに間に合う能力研鑽が必要なのは、どこの世界でも同じではないかと改めて感 じました。
まとめ
もう、10年以上前に、仲代達也氏との懇談の席で伺った話を書きました。
すでに、王貞治氏、山下泰裕氏、そして青木功氏と、各スポーツでの一流プレーヤーが語る話を紹介してきました。
名人と言われる人、いわゆる一流と言われる人たちが、才能を持っていることは疑いないことと思いますが、その上に日々の努力がなされていることに、我々の見習う点があるのではと、改めて思っています。






