モチベーションをアップしたいとき

持続可能な成長のためのビジョン設定-社長経験からの教訓-

会社で仕事を任されたときに、その成果を短期に求められることが、ここ10年ほど、とくに多くなったのではないかと思っています。

しかし、短期の成果を追求するだけで、サラリーマンとして日々の仕事に働く意義を見つけることができるでしょうか。

やはり、長期の目標を見据え、能力を高めつつ、その目標を達成することが、会社の成長につながるとともに社員にとって大きな仕事の喜びとなるのではないでしょうか。

今野敏氏はその著書の中で、サラリーマンとは異なりますが、古流の空手を追い求める空手家である主人公に、10年、20年先の姿を見越して日々の鍛錬を継続する必要性を語らせています。

私は、会社を改革する中で、ビジョンを明確にし、10年、20年先のありたい会社の姿を社員に問いかけました。そのようにすることで社員一人ひとりが、ビジョンのもと、目標に向けわくわく感をもって、日々仕事をすることができるようになることを学びました。

今回は、今野氏の先品と私の経験から「会社が持続可能な成長を遂げ、社員が生き生きと働くうえで、ビジョンの設定が有効であること」を紹介します。

空手を究めるにもビジョンが必要

今野敏氏の小説「虎の道流の門」は、空手道に新たな息吹を入れるため、新たな空手の団体を立ち上げた麻生英次郎と格闘技大会で不敗を誇る南雲凱の二人が主人公です。

新たな空手道を立ち上げ、麻生英次郎は常勝軍団の総帥として名を広めていきますが、自分が目指す理想と現実の乖離に悩みを深めます。

一方、苦労を重ねた南雲は、格闘技大会で連勝をつづけ、裕福に暮らしますが、その生活に満足できないものを感じています。

そして両者は、その道の頂点を極めるため、直接対決することになり、最後に感動の結末を迎えます。

ここで紹介する一節は、麻生英次郎の門下生の鍛錬も進み、日本中が注目する世界グランプリに参加することになった場面です。

当初、参加に反対の姿勢を見せていた英次郎であしたが、門下生たちの強い熱意に押され参加を許可しました。

その門下生の練習は、試合当日に体力のベストを持っていくように入念にスケジュール管理されていました。

その練習の状況を見て、英次郎は先を見越しての鍛錬の重要性を改めて認識するのでした。

高島(師範代)によると、試合一か月前まで徹底的に体を痛めつけ疲労のピークにもっていくのだそうだ。

それからペースを落としつつ、体力を回復させる。試合二週間前に再びピークを作り、あとは、軽く流しながら試合時にベストの状態にもっていく。

だが、輝英塾の練習方法は、あくまでも地道に毎日稽古を積み重ねることだ。毎日、十分でもいいから、型を練る。そうすることにより、自分の体の中で何か変化が起きる。

その変化が重要なのだ。水泳を覚えたり、自転車に乗ることを覚えるのに似ている。武術とはそうした変化の積み重ねだ。

試合中心の練習とはおのずとやり方が違ってくる。十年先、二十年先を見越して日々の練習を積み重ねるのが、本当の空手の稽古だと英次郎は思っている

出典:今野 敏著 虎の道 龍の門から

短期的な成果を求めることの課題

企業は、必ず毎年利益をあげ、成長を目指していくものであることはいろいろな場で語られています。

そういった意味で、短期的な視点で成果を上げることが企業の経営者に求められており、新たに起業をした場合には、3年で単黒、すなわち3年目には利益をしっかり上げることが求められています。

ただし、短期の目標に向かうだけの経営では、取り残されしまう課題があることも確かで、特に社員のやりがいを考えた場合課題が残ります

その会社が目指す将来の姿に向かって、社員とともに成長し続けるためには、短期的な成果だけを追い求めるだけでは達成できないはずです。

企業が持続的に成長し、その中で、社員が生き生きと働くことができるためには、長期的な視点で、“どのような会社になりたいか”を明確にすることが必要と考えています。

その将来の姿を達成するためには、長期的な視点で人材を育てる必要があるとともに、

お客様のニーズをつかみ得る商品を長期的な視点で開発していく必要があります。

ビジョンを設定し長期的な視点で会社を経営

私が、土木建築関係のコンサルティング会社の社長に就任した時の経験です。

就任した当初、会社が将来の成長が見込めない状況であったことから、就任早々に経営改革をスタートさせることにしました。

改革の一環として、会社の進むべき方向性を明確にするため、ミッション(存在意義、使命)、ビジョン(あるべき姿、目指す姿)、バリュー(行動原理)を、広く社員との意見交換を繰り返すなどして定めました。

とくにビジョンについては、どのような会社を目指すべきか、明確な姿を描くことに努めました。

こうして策定したビジョンのもとで、会社の進むべき方向性が明確となり、社員との一体感が生まれ、会社にとっても、働く社員の人たちにもメリットがあることがわかりました

10年先の会社のあるべき姿を明確にすることで、社員の人たちがどちらに向かって行動すべきかがはっきりしてきます。それにより、追い求める道筋の中で、社員一人一人の立ち位置が明確となりました。

このように、ビジョンを設定し、長期的なあるべき姿を明確にしたことで、会社にも社員にとっても良い効果が現れました。

  • 会社にとって:あるべき姿の中で、売れる商品をどのように開発すべきか、またどのような技術を開発しておくべきかがはっきりしました。
  • 社員にとって:開発すべき商品、もしくは技術が明確になったことで、それを担う社員の目標が明確になり、働く意義がはっきりし、モチベーションが高まりました。

まとめ

今野敏氏が主人公に語らせた、本当の成果を求めるための地道な鍛錬の精神は、会社の経営ばかりでなく、自分自身の技術を鍛えるうえでも基本的な取り組み姿勢であると思っています。

急がば回れ。

焦ることなく、将来の姿をしっかり見つめた毎日の行動の繰り返しが、きっと何かを生み出してくれると思います。