今の状況に不安があるとき

前向きな姿勢が仕事で結果を出すコツ-会社生活43年からの教訓-

会社で仕事を任されたとき、何とか結果を出したいと思うのは誰しも思うところです。

では、仕事を任され、大きな課題を与えられたときや、新たな事業にチャレンジするとき、皆さんはどう対応しますか。

能力のある人でも、それはやったことがないからとか、難しそうで自分には無理だといって、つい尻込みしてしまい、せっかく与えられた機会を逃がしてしまうことを経験した人もいることと思います。

堀場製作所を設立した堀場氏は、その著書の中で、商品を開発するときなど、未知のものに挑戦するときには、恐れず前向きに挑むことが大切である、と強調しています。

また、堂場瞬一氏もその作品の中で、思い悩んでいるときこそ、後ろ向きな考えを捨て、前向きな思考と行動が、結果をもたらすと書いています。

私も、ある事業の立ち上げを任されたときに、まず自分自身が前向きに進んでいくことで、優秀な人材が集まり、数年で成果を出すことができた経験があります。

今回は、堀場氏と同橋の著作と私の経験から「仕事で成果をあげるためには前向きな姿勢が大切であること」を紹介します。

前向きな発想が結果に大きな差を生むことに

堀場製作所は、分析、計測機器のメーカーとして、全世界に製品を送り出しています。

その創業者である、堀場雅夫氏は、自らの経験から多くの著書を出しています。

氏は、その著書「いやならやめろ!」の中で、今まで会社として手を付けてこなかった機械の製作の時の経験を紹介しています。

機械の開発のための時間が限られる中、お客様から依頼されたときにどう対応することが大切かを、堀場氏はたびたび社員に語り掛けています。

ここで紹介する一節では、会社として未経験の機器の開発に挑戦する状況を、山登りに例えて、どのように課題を克服するかを紹介しています。

時間のパラメーターの重要性は、あらためて強く認識すべきものだと思っています。例えば、お客さんから打診を受けた次の日に、「やはり、わが社はそういうことは今まで経験が浅いので、すぐには何ともお答えできませんわ」とお客さんに言ってしまったらもうゼロなんです

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でも、24時間内で、例えば「確かに、わが社はそういうことはしていない。しかし似たようなケースでこんなものがあります。

それぐらいわが社はできます。——そういう状況でもいいなら引き受けましょう」と、答えられれば、お客さんにとってもその問題についてゼロか100かの判断ではなく、具体的に検討することができるようになります。

これが商売のコツです。

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そうした対応をそつなくこなすためには、経験が必要なことはもちろんなのですが、私はそれよりもむしろ大切なのは、「未知のものをおそれず挑む心と、冷静に洞察する頭脳なのではないか」と思っています。

例えば、千メートルの山を登ったけれど、千五百メートルの山は登ったことがない人がいたとします。彼が「千五百メートルの山を登れ」と言われた時に、「いや、私は千メートルしか登ったことがないから、無理です」と考えるか、「まあ、千メートル登って、これぐらいだった。

その1.5倍の高さだけれども、しんどさは多分3倍ぐらいになるのではないだろうか。あるいは—–」というふうな類推ができるかどうかの違いなのです。

「千メートル登った」というのも、「千五百メートルを登っていない」というのも事実であって、経験をした人が五人なら五人いて、それぞれ千五百メートルというものについてどう考えるかということなのです。

経験よりも、そうした前向きな発想ができるかどうかで、大きな差がつくのだと、私は考えています

出典:堀場 雅夫著 イヤならやめろ!

経験の大切さを語る中で、さらに必要なこととして、成果を出すためには、前向きな姿勢で取り組んでいくことを、堀場氏は上げています。

前向きな姿勢が成果をもたらす

小説「不信の鎖」は、警視庁犯罪被害者支援課に勤務する村野秋生が主人公のシリーズ 第6作です。

ブラック企業と評判のハウスメーカーの会社社長の大崎の娘が殺害され、2年間犯人が逮捕されない状況が続いていました。山梨県で起こった強盗殺害事件の犯人が、その殺害に関与したことを自供したことから話が始まります。

娘の父親である大崎は、一代で名をなした不動産ディベロッパーのオーナーで、ワンマンで知られています。2年前の殺害事件のときにも、被害者支援課として、主人公村野はこの大崎の対応にあたりましたが、激情しやすく、相手を人とも思わない姿勢に閉口していました。

今回、犯人が現れ、自供したことから、あらためて、村野たちは大崎に接触しましたが、前回以上に傲慢の姿勢で振る舞う大崎に対し、思うような支援活動ができていませんでした。

また、大崎には、不動産会社立ち上げ前から、その事業の進め方に犯罪的な要素もあり、また、不動産会社も「ブラック企業」のレッテルを張られるなど、マスコミにも評判が悪い人物でした。

そのような中、大崎の横暴な警察やマスコミへの攻撃的な行動もあり、今後の対応に悩む村野でした。

ここで紹介する一節は、そのような村野の姿を見て、嘗て恋人関係にあり、現在は、警視庁の支援課と緊密な関係のある、被害者の支援センターでボランティアを務める女性、愛が村野に対し、前向きに考え行動するように話しかける場面です。

 (村野)「ただ大崎さんは、俺たちが積み上げてきたデータの枠に入らない人じゃないか」

(愛)「それは——そうね」それまで自信たっぷりに話してきた愛の口調が揺らいだ。「でもこの仕事は、いつも新しいパターンとの出会いじゃない。私たちは毎回、それを乗り越えてきたのよ」

「今まではね」話しているうちに、私はどんどん自信がなくなってきた。

「今回だけ駄目っていう根拠はないわよ。今までできたんだから、今回もきっとできる」

「君、昔はこんなに前向きじゃなかったよな。会社をつくった頃は、毎日愚痴ばかりだった」

「最初はね—–何とか軌道に乗ってからは、愚痴を言っているのが馬鹿馬鹿しいって気づいたの。そんなことを考えたり言ってる暇があったら、新しい企画を考えたり、会議で前向きの発言をする方が楽だから。正直、その方がお金になるし—–愚痴はお金を生まないのよ」

「俺たちは、金のためにやっているわけじゃないけど」

「目的が金儲けだろうが、人助けだろうが、同じ」愛が断定した。「とにかく前を向くこと。そうしないで自滅した人を、私はこの業界でたくさん見てる」

(堂場瞬一 不信の鎖)

新事業に前向きな姿勢を示すことでメンバーの獲得を目指す

会社の自分が所属する部門で新たに海外コンサルティング事業を始めることになり、そのリーダーを任されたときの経験です。

ゼロからのスタートということもあり、ともかく人材を集めることが最初の仕事でした。

それもまだ経験したことのない環境下の業務に参加してもらう上では、指名されるのを待つ人ではなく、自ら進んで手を挙げて参加し、新たな世界を切り開いていこうとする、前向きな人が望ましいと考えました。

新たに事業を始めるといっても、自分自身、何から始めてよいかもわからない状況であったため、まず海外で我々として何ができるか、その結果としてどういう貢献がその国でできるかを勉強しました。

仕事を始めるまでには、いくつかの難しい課題を解決しておく必要がありましたが、それは仲間が集まってからおいおい解決することとし、仲間集めに力を注ぎました。

まず、海外での事業にはやりがいがあり、どのように面白いものであるかを訴えていくことにしました。

このため、参加してくれそうな候補者がいる事務所を回り、我々が始めようとしている事業の意義などを話し、また、意見交換をするなどの啓蒙活動を展開し、このような人材を集めにかかりました。

訴えたのは2点です。

第一に、これまでのように待っていれば業務を与えられる職場にいては自分自身の成長の目はないこと。

二点目に、海外の案件に携われば、これまで培ってきた技術をすぐに生かすことが出来、間違いなくやりがいを感じることができること。

このように、事業に参加すれば苦労はするが、必ず成果を出せることを、自分自身が前向きな姿勢を崩さずに、事業所を回りながら訴え続けました。その結果、最初の1年で10名ほどの若いやる気のある人材が集まりました

前向きな姿勢がチャレンジ精神を持つ人材を集めることに成功

結局、事業を始めて、3、4 年で数十名の社員が海外コンサルティング事業に参加しました。そして、その多くの人は自ら手を挙げて参加した人たちでした。

その頃にはコンサルティング事業としてそれなりの成果も上がってきており、技術専門家として、アジアの発展途上国に駐在する人、プロジェクトに参加し、メンバーとして活躍する人など、多彩な顔ぶれとなってきました。

おかげで、各国で活躍する人たちの話しが絶えず聞こえるようになり、その話が、また、新たな人を呼び込む手段となりました。

集まった人たちの多くは、新しいことに手をつけることに興味を持ち、それぞれに与えられた役割に応じ課題を解決するため、前向きに動いたことが印象的でした。

このように、チャレンジ精神に富む人が集まったのを見、自らが新たに挑む世界に前向きに出ていく姿勢を示すことが重要であることを学びました。

まとめ

誰でも今まで経験したことがないことに取り組もうとしたときには、しり込みしてしまいがちだと思います。

しかし、このようなときに、よい機会が与えられたと思い、前向きにそのことをとらえ、行動するかということが重要です。

やりだすことで、多くの課題の遭遇することになりますが、その一つひとうを解決していくことが、また、やる気を起こしてくれるものになると思います。

そして、その経験を積むことで、一段と難しい課題にも挑戦していく意思が備わってくるとも思っています。