今の仕事に疑問がある時

問題解決には真実の追求が必要

大きな決断を迫られたときやトラブルに遭遇したとき、どのように行動することが正解の道を選んだことになるのでしょうか。

ことを決めるまでに時間がないとか、余分な仕事を抱えたくないとか、いろいろなことで判断が揺らいでしまいます。

このような本質から外れた要因に捕らわれると、判断を誤り、必要な成果を得られなかったり、よけいに時間を取られてしまったりすることになりがちです。

やはり、何が起きているか、その真実を追求したうえで判断を下すことが、正解を得る近道のようです。

堂場瞬一氏は、その警察小説の作品の中で、犯罪捜査において犯人の割り出しにおいては、真実を追求することの大切さを描いています。

私も、建設現場でのトラブル対応時に、拙速で実施した調査したことで、真の原因を掴み損ね、トラブルの解決に時間を必要以上に要してしまった経験があります。

今回は、堂場氏の作品と私の建設時代の経験から「とことん真実を追求することでかかえる問題を解決できる」について紹介します。

真実を追求する強い意志が問題解決の道

小説「邪心」は、警視庁犯罪被害者支援課に勤務する村野秋生が主人公のシリーズ第2作です。

リベンジポルノの被害に遭ったという女性、平尾綾子が、被害者支援課と関係の深い公益法人被害者支援センターに、相談に来たことから話が始まります。

犯罪の疑いがあることから、村野が中心となり、この事件の捜査にあたりました。

捜査が停滞する中、被害者彩子が重傷を負う事件が起き、彩子と以前付き合いがあり、彩子のその時の写真を流したと思われた石井に疑いの目が向けられます。ところが、その石井が殺害されるなど、事件は複雑化していきます。

そのような中、いつも冷静な判断を下し、部下に任せることの多かった、被害者支援課の本橋課長は、この事件には積極的に参画してきます。

警視庁捜査一課出の本橋は、石井が死んだ事件は他殺であると、現場の状況から判断しました。一方、この事件を担当する所轄の担当課は、マンションからの飛び降り自殺を強く主張します。

常には冷静な本橋が今までになく、この所轄の動きに対し反抗的な態度を示し、所轄との関係が怪しくなり始めました。

ここで紹介する一節は、そんな本橋と、村野他部下が今後、支援課としてどのようにこの事件に向き合うか、その今後の方針について議論する場面です。

(本橋)「では、両面狙いで話をしましょう——何か、自殺説を裏付けるものがありますか?」

いきなりそうきたか。本橋の強引さに今更ながら驚く。捜査一課時代の彼と直接一緒に仕事をしたことはないのだが、穏やかで丁寧な仮面の下には、こういう強い本音が隠れていたわけか——こちらが本当の顔で、支援課では必要ないから出していなかっただけかもしれない。

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優里(村松の同僚)が店の外に出て行くと、本橋がふっと溜息をついた。私は何も言わずにいたが、本橋は照れたように「若気の至りですかね」と言い訳した。

五十歳になる人間が「若気」もないものだが、私は黙ってうなずいた。血気盛んな気持ちをまだ残しているのは間違いないわけだし。それでも、これ以上のトラブルは何とか避けたいと強く願った。

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(本橋)「ただ、警察の都合で話が捻じ曲げられるのは許せないんですよ」

(村松)「分かります」

「そういうことで、どれだけミスを重ねてきたか—— 散々批判を受けているのに、自分が同じような立場に置かれたら、楽な方へ流れてしまう。これではいけないんです」

「それはーーー— 仰る通りですね」

仕事を増やしたくなのは、働く人間ならば誰でも同じだと思いますよ。同じ給料を貰っているなら、できるだけ楽に処理したい——殺人より自殺の方が、捜査の手間ははるかに楽ですから。自殺にしたい気持ちは分かりますね。安藤君(支援課初年生)」

「ええ——はい」梓が背筋を伸ばした。

でも、我々に必要なのは真実を探ることです。ほんの少しでも疑いがあったら、最初からやり直してみることも大事です。今回、所轄の連中は足を踏み外しそうになった。本部にいる我々としては、そういうところに気づいたら絶対に止めないといけないんです。だいたい——」”

(堂場瞬一 邪心)

真の犯人を洗い出すためには、真実を追求し続けることの大切さを、本橋課長は強調しています。このことは、一、警察に限ったことではなく、会社生活の中でもあり得る話だと思っています。

真実を追求する姿勢が問題を解決

 このブログで何回か紹介した、ダムの建設現場に従事していたときの経験です。

ダムの建設の見通しがたった頃に、新たに、ダムに付帯する構造物を設けることになりました。ダム建設の工期も後半に入ってからの構造物の構築ということで、急ピッチで設計、施工を進めていく必要がありました。

土木構造物は自然との協調が必要で、構造物を建設する基礎部がどのようになっているか、よく見極めて設計し、施工することが大切ですが、このときは、時間がないこともあり、基本を守り切れなかった経験です。

この付帯構造物の設計に関しても、一通りの基礎部の調査を行い、これまでの施工事例や学会の論文などを参考に設計し、施工を進めました。

ダムの竣工に合わせ、追加の付帯構造物の完成も間に合い、いよいよ水を貯め始めることになりました。

あとは時間をかけて、ゆっくりダム湖に水を貯めればよい、というのがその時の私の安易な気持ちでした。

しかし、水を貯め始めてから、一月ほど過ぎたときに、その構造物に損傷が生じ、湛水を一時中断しなければならないトラブルに遭遇しました。早速、水を貯めるのをやめ、トラブルの原因を調査することになりました。

すでに、水を貯め始め、満水にする時期も決まっていることから、短期間で原因を調査し、補強工事を実施しなければならない状況でした。

損傷の原因が、水圧がかかったための基礎部の変形であると考えたことから、基礎部の調査が中心となりまし

構造物の損傷個所の周囲の基礎を掘り返し、その原因を探りました。すると、そのトラブルの原因と思しき箇所が見つかり、そこを処置すれば、再度の湛水も可能ということで、早急に、補強工事を行い、水を貯め始めました。

すると、ほぼ同じ水位で、また、同じ箇所でトラブルが発生し、再度水位を下げての調査と補強工事を実施することとなり、工期の延長もやむを得ない状況となりました。

工期を延長することになったものの、やはり、早期の復旧をしたいという意識が、建設所のスタッフ全員にありました。

基礎部の調査を進めると、前回と同じようなところに原因と思われた箇所が見られましたが、二度続けてのトラブルを回避するため、他に原因がないか、気が焦る中での調査となりました。

もうここいらへんで調査を終えても、と思う気持ちがありましたが、真実を追求しなければまた同じことが起こるのでは、という懸念があり、疑わしい箇所を探し続けました。

結局、最初に原因と思った箇所よりさらに深い箇所に、根本的な原因となる箇所が見つかりました。その個所以外に怪しい箇所がないことを確認し、すぐにその基礎部を徹底的に処置し、補強工事を行いました。

再々度の湛水を始めると、今回は、前にトラブルを起こった水位を超えてもトラブルを起こすことなく、水位を上げることができました。

時間がないということで、真実の追求を怠ったことが原因で、真の原因を追究し損ね、よけいに時間をかけてしまった経験でした。

まとめ

時間がないとか予算がない、もしくは、余分な仕事を増やしたくないとか、いろいろなことを考えて「もうここいらへんでよしとするか」と決断し、行動したために、結局、課題を解決することができないことはよくあることだと思います。

ことを決めるとき、特にトラブルの解消とか、いろいろ影響する要因が絡む事案を判断しなければならないとき、真実は何かということに立ち戻って考え、判断することが、結局は、より良い成果に至る道だと思っています。