今の仕事に疑問がある時

間接部門が担うサービスが大切-社長経験からの教訓-

会社でサービスや商品の営業など、お客様とのお付き合いを担う部門というと、つい営業部門とか、現業を担う技術系部門が対応するものと思いがちです。

そして、お客様に直接接することのない総務部、経理部などの間接部門の人は、お客様を大切にというと、つい他人事のように聞いてしまうきらいがあります。

お客様へのサービスについて、このような直接部門と間接部門で壁があってよいものでしょうか。

作家、今野敏は、その著書“任侠病院”で、事務部門の人たちが、自分のお客様は誰であるか、その人たちのために何をなすべきかを考え、行動することが大切であると、書いています。

私も、会社の経営に参加した時に、実際にお客様から仕事を受注する技術部門、営業部門の直接部門と経理、総務などの間接部門の間の壁のために、業務が円滑に進まない状況に遭遇し、その改善に取り組んだ経験があります。

今回は、今野敏氏の作品と私の社長のときの経験から「間接部門が担うサービスとはどういうことか、またそれがいかに大切か」について紹介します。

間接部門の人たちがサービスすべきお客様

小説「任侠病院」は、今野敏氏の任侠シリーズの一冊です。

東京に組事務所を置くやくざの阿岐本組は、経営難に陥った書房や高校にそれらの組織の経営者として乗り込み、実勢をあげてきました。

今回は、その阿岐本組が病院の再建に参画しました。

再建にあたり、まずやるべきこととして病院内を明るくすることを掲げました。

外壁は自分らの手で何とかしましたが、職員の態度に現れる暗い感じを変えるには、自分たちでは手に負えないことを痛感しました。特に、患者と直接向き合うことのない事務局の職員の暗さが気になりました。

そこで、病院の理事に急遽就任した、阿岐本組の代貸、日村は、職員の笑顔を取り戻すべく、周囲の職員に働きかけていきました。

ここで紹介する一節は、日村たちの献身的な努力に目を覚ました。事務局長の言葉です。

 (日村は)心なしか、事務員たちの間の会話も多いような気がした。

その思いが顔に出たのだろう。朝顔(事務局長)がうなずきかけてきた。日村は、朝顔の席に近づいた。

「昨日とは違うと感じているようですね?」

「おっしゃるとおりです。何がどう変わったのか、わかりませんが—」

「今朝のことです。事務員のミーティングで、私たちは確認したのです」

「確認—?何の確認ですか?」

笑顔はただ、という言葉がありますね?サービス業の基本です。ただで最も効果的なのが、笑顔です。私たちは、事務職なのでサービスの基本など関係ないと思っていました。特に、医療機関はサービス業ではありません。しかし、それが間違いだということが、わかったのです

「間違い—?」

「あなたたちは、外壁をきれいにして、蛍光灯を新しくしてくださいました。そして、野沢さん(事務局のベテラン事務員)に、笑顔の重要さを教えてくださったのです。私たちは、それから学ぶことにしました。我々の病院に来て、患者さんがまず最初に接するのは、医者でもなければ、看護師でもありません。受付であり、我々事務員なのです。そして、帰る前に最後に接するのも我々です。それはとても重要なことだと気づいたのです」

「それを確認されたと—?」

「そうです。医者や看護師の方々は、精一杯丁寧に患者さんに接している、それなのに、事務員が無愛想では、ぶち壊しです。さらに、我々がいい雰囲気を作ることで、精神的にも肉体的にも厳しい思いをされている医者や看護師の方々を少しでも楽にしてさしあげられるのではないかと—」

「それはとてもいいことだと思います」

引用:今野敏著 任侠病院から

部門間の壁の存在でお互いを思いやる気持ちが生まれず

私が、土木建築関係のコンサルティング会社の社長に就任した時の経験です。

私が経営に参加した時、会社内では原価部門と間接部門が別の建物にいたこともあり、

それぞれが何をやっているか理解しようとせず、また、相談したくてもメールか電話で済ませることが多くありました。

このため、間接部門からは、「向こうは一体どんな仕事をやっているのか」という批判めいた言葉が、また、原価部門からは、「こちらが忙しい中、つまらぬ仕事を書類だけで言ってきて何の説明もない」といった愚痴ばかりが聞こえていました。

間接部門の職員は、原価部門が何で困っているかもわからず、何とか手助けしようとする意志も働かない状況でした。

このように、直接部門と間接部門の間に壁があっては、同じ会社内なのに業務が円滑に進むことが難しいと考え、対策を講じることとしました。

ちょうど事務所を移転することになっていたので、社員が同じフロアーで働ける事務所に移転することにしました。いわゆるワンフロアー化を図りました。

これにより、原価部門と間接部門が同じフロアーで働けるようにし、お互いがもっと頻繁にコミュニケーションをとれるようにしました。

間接部門が気付いたサービスすべきお客様

会社の中で起こった例を紹介します。

会社の当該年度の企画方針書を作成するときのことです。

業務が始まり、ある程度まとめに入った段階で、どうしても基本データを見直す必要があり、経理部から各本部にお願いが出されました。

間接部門と原価部門が別の建物にいたときには、一方的に経理部から書類を各原価本部に発送するだけで、特に説明もなく「方針だから見直してくれ」の一言で終わっていたとのこと。

これでは、両者に心の通ったコミュニケーションを取ることができず、相手は不満を積もらせて、関係が一段と悪くなる状況でした。

フロアーを同じくしてしばらくすると、ある本部から経理部に対し「どうして今頃数値を見直すのか」という問い合わせが直接あったそうです。

間接部門からその質問に対し状況をよく説明したところ「それならば仕方ない」と納得して作業に取り掛かるようになりました。

このように相互のコミュニケーションが活発化するのに伴い、間接部門の社員も、どうすれば、原価部門が効率的に、またやらされ感なく一緒に仕事をするかを考えるようになりました。

誰が自分たちのお客様であるかを、間接部門は理解するようになりました。

いまでは、原価部門がいかに働き易くなるかを部の目標に掲げるところも出てきており、社内サービスが徹底されつつあります。

まとめ

お客様というと、すぐに商売の相手を思い浮かべてしまいますが、働く人それぞれにサービスすべき人が自分の後ろに控えていることを紹介しました。

そして、組織が一体となって動くためには、自分がサービスする対象が誰であるか、どの部署であるかをしっかりつかむことが大切です。

対象が明確になり、その対象が動きやすくなるためにどうしたらよいかを考え、行動するようになれば、組織は活性化し、明るく仕事ができる状態になることを経験しました。