仕事をしていると、ノルマを課される、もしくは、高い目標を掲げ、その達成を要求されることは、よくあることだと思います。
このようなとき、どのように進めていくかに迷い、また、どこまで進んだかつかめずに、いたずらに時間が過ぎてしまい、いらいらすることもよくある話だと思います。
では、目標を達成するうえでは、どのような姿勢で臨めばよいのでしょうか。
作家、今野敏氏は、警察小説の中で、その点について触れており、犯人逮捕に向けては、一歩一歩前進していくことが大切であることを書いています。
私もある土木構造物の保守管理の職に就いていたときに、毎年時期が決まって生じる事象の原因追及で、地道な調査、検討が最終的には解決に至ることを経験しました。
また、ある会社の社長になったときに、10年後の目標を建てたものの、一気にはそこまで到達できないことに気づき、年度ごとの目標を立て、一歩一歩前進していく道を社員と一緒に歩きました。
今回は、今野敏氏の作品と私の会社生活の経験から「目標達成のためには一歩一歩前進していくというシンプルな考え方が重要」について紹介します。
捜査は一歩、一歩進めて犯人を割り出す
小説「確証」の舞台は、窃盗事件を担当する警視庁捜査3課です。主人公は、その三課のベテラン刑事である萩尾秀一です。
渋谷の時計店で強盗事件があり、立て続けに同じ澁谷の宝飾店で窃盗事件が発生しました。
窃盗を担当する萩尾刑事部長は、両者の事件に何等かの関係があるのでは、と疑問を持ち、その方向で、部下の高田秋穂刑事と一緒に捜査を展開しています。
澁谷の窃盗事件では、犯人が指紋認証で開く金庫を、これまで使われていなかった新しい技術で開けていました。
その技術を考案した人物、迫田氏が、この犯行に関連しているとの思惑から、その人物をよく知る情報屋である、俗称鍵福に、部下の秋穂とともに酒場を訪れ、話を聞くのでした。
しかし、鍵福に話を聞いたものの、部下の秋穂はこれといった収穫がなかった無駄足を踏んだように思っていました。しかし、ベテランの萩尾刑事は違った感触を得たようです。
ここで紹介する一節は、萩尾が部下の秋穂に捜査のイロハを指導する場面です。
新宿の西口にある酒場で福田大吉(鍵福の異名を持つ)にあったのは、午後五時ころのことだった。酒場は開いたばかりだが、どういうわけか、すでに顔を赤くしている客がいる。
福田大吉もその一人だった。
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(秋穂)「迫田さんは、女性を信用していないというようなことを言っていましたよね」
(鍵福)「ああ、たしかにそうだった。女性不信なのかもしれない。そのせいで、ずっと独身だったということも考えられる」
「女には、ずいぶんと期待を裏切られていると言っていました。その言い方に、すごく実感がこもっていたような気がしてきたんです」
萩尾も思い出した。
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「俺たちの稼業はね、基本的にはみんな一匹狼だ。だが、中にはまれに、弟子を育てるやつもいる」
「迫田がそうだというのか?」
「あいつには、優秀な女弟子がいたという噂を聞いたことがある」
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(鍵福)「今日はごちそうになったな。そして、なかなか楽しい話を聞かせてもらった」
萩尾は言った。
「こっちも、いろいろと参考になったよ」
鍵福はうなずいて席を立った。振り向きもせずに店から出て行った。
秋穂がぽかんとした顔で言った。
「なんだかあっさり帰しちゃいましたね」
「こんなもんだよ」
「こっちから一方的に事件のことを話していたみたいに感じたんですけど、あれでよかったんですか?」
「かまわない」
「でも、いちおう捜査情報でしょう?」
「あいつなら心配ない。よそで余計なことをしゃべったりしない」
「でも結局何も聞き出せなかったような気がします」
「いろいろと参考になった。俺はそう言っただろう?」
「どういうところが?」
「迫田には女弟子がいたと鍵福は言った」
「でも噂でしょう?それがどこの誰なのか謎です」
「一歩前進だ」
萩尾は言った。「捜査は、一歩一歩、だよ」
(今野敏著 確証)
地道な調査で真の原因を掴む
40歳代で、水力発電所の土木構造物の保守管理を担当する課長を務めていたときの経験です。
ある発電所の水路構造物で、数年にわたり、毎年、夏の朝に奇妙な音が発生する事象が発生しました。
この現象が構造物に影響をおよばすことはないか、その原因を探り、必要であれば対策工をおこなうことを検討するのが、私に与えられた任務でした。
前職の建設現場でもトラブルの原因解明に携わったことがありました。
このときは、工期末が迫り、急いでいたこともあり、対処療法的な調査で対処したところ、真の原因をなかなかにつかむことができず、再三にわたって、調査を繰り返し、工事の進捗に影響をおよぼすこととなり、関係者に大きな迷惑をかけたことがありました。
この反省から、今回は、確実に原因がつかめるよう、考えられる原因をいくつか考え、その原因に対する調査方針を明確することにしました。
そして、その方針に則り、人に聴診器をあてるように、構造物の必要な箇所に計測計器を設置し、その挙動から原因を探りました。また、構造物の基礎が影響している可能性もあることから、並行して地質調査も行いました。
それらのデータを集め、解析を行うことで、奇妙な音の原因を掴むことができました。
結局、原因追及には2年ほどかかりましたが、考えられる原因を一つ一つ取り除いていくという地道な調査作業を続けることで、真の原因に行き当たり、構造物には大きな影響がないことを確認できました。
問題解決のため、検討方針を明確にし、一歩一歩原因追及をしていくことの大切さを学んだ経験でした。
一歩一歩前進することで目標を目指す
私が土木建築関係のコンサルティング会社の社長になったときの経験です。
社長就任直後に、今後の成長路線を明確にするため、10年後の会社のあるべき姿を明確に示し、その目標に向かった方策を立て、実行することを社員に向け宣言しました。
これは、会社の経営状況が停滞していたこともあり、社員の停滞意識を変える必要があったためです。
これにより、社員と経営者との一体感を醸成し、社員も一緒にその改革に取り組むことでやる気を持ち直してもらうことを目指したものです。
この目標を掲げ、社員とともにいろいろ改革的な事業を進めていくことで、2年ほどすると、成果が見えてきました。
会社の売り上げと利益も伸び始め、処遇も改善され、社員のやる気も高まりました。
しかし、今の情勢では10年後の目標への道のりは遠く、これまでのやり方では、その目標の達成が難しいことも明確になってきました。
このため、新たな方策を建てる必要が生じました。
高い目標に向け、社員とともに一歩一歩進む
新たな方策として取り組んだことが、年度ごとの目標を立て、その目標を確実に達成していくことで、10年後の目標を達成させることでした。
そのためには、10年後の目標を見据え、各年度に達成すべき目標を明確にし、その上で、課題を洗い出し、取り組んでいくことが必要でした。
全社代の目標を立て、それを、各部門におろし、各部門はその目標に向けて方策を立て、実行することとしました。
これまでは、どちらかというと、課題があるとその課題だけを解決するという、“対処療法的な取り組み”でした。しかし、10年後の目標を見据えて各年度が到達すべき目標を明確にすることで、10年後までの道筋が見えるようになりました。
この経営経験を通じ、目標を明確にした上で、そこにたどり着くまで、地道に一歩一歩成果を確認しながら進めていくことが、大切であることを学びました。
まとめ
何か事を成し遂げようとするとき、目標を明確にする必要があります。
その目標を一気に達成することができればそれほど良いことはありません。しかし、目標が高いほど、一筋縄ではいかないのが仕事です。
こういったときには、目標を見据え、一歩一歩成果を成果を出し、評価しながら進んでいくことが、最善の道となるようです。






