会社の経営改革

V字回復の経営の基本、理想の姿-社長経験からの事例-

私がワシントンDCに駐在していたときに、たまたま柔道家の山下泰裕氏から直接話を聞く機会がありました。

オリンピックで金メダルを取るなど、数々の名誉を刻んできた氏が語る言葉はやはり重みがあります。

その中で、印象に残った言葉が、「今をひたむきに、未来を見据えて生きる」ことでした。

夢、 理想、限界の3つに挑戦していくことだそうです。話の後に、氏にサインをもらいましたが、そこにもやはり理想の姿を追うという意味を込め、「挑戦」と書いてありました。

-柔道家山下泰裕氏の講演から-常に高い理想の姿を追って日々努力2020年東京オリンピックを前に、JOC会長になられた山下泰裕氏の講演を、20年ほど前にワシントンDCで聞く機会がありました。 山...
-青木 功氏の講演から-高い目標に向けて努力する一流プレーヤー1980 年の全米オープンでニクラウスとの死闘を演じ、また、1983 年のハワイアンオープンでは逆転イーグルで優勝するなど、数々の戦績を...

理想の姿を追うことは、企業にもいえることであると思っています。

企業の再建で多くの実績を有し、経営改革に関して多くの著作のある三枝匡氏も、その著書の中の一節で、期待のシナリオとしてこの点について書いています。

また、私自身、会社を経営する中で、成長を目指すうえでは、社員のみんなさんに、将来の会社の理想の姿を描いてもらうことが重要であることを勉強しました。

今回は、三枝氏の著書と私の経験から「V字回復の経営における基本となる理想の姿の明確化」について紹介します。

V字回復に必須な改革後の出来上がりの姿

三枝氏は、その著書「V字回復の経営」の中で、改革時に踏むステップの第一のものとして、「期待のシナリオ」をあげています。

期待のシナリオの意味、そして期待のシナリオが備えるべきこととは。

いずれにしても俊敏な成功者は、自分としてはこうなってほしいという「期待のシナリオ」を明確に持っている。

それに対して現実がうまくいっていないときに、強いリーダーは「このままではまずい」「何とかよくしよう」と何らかの行動を起こす。

経営改革の場合には、この第一ステップで、改革のストーリーやスケジュール、あるいは改革後の「出来上がりの姿」が明確に示されていなければならない。

この段階における障害(失敗や停滞の原因)は、期待のシナリオが曖昧なまま放置されることで起きる。それは、私は期待のシナリオの「具体性不足」の壁と呼ぶ。

出典:三枝 匡著 V字回復の経営

現状に満足し、変化することをためらう組織

私が土木建築関係のコンサルティング会社の社長に就任したときの事例です。

その会社は、毎年、ほぼ一様の売り上げをあげており、社員はその状態に満足している状況にありました。

しかし、その状態に満足し、将来に向かって成長していく、利益を上げていくということへの関心が薄く、現状を変えるということに対し抵抗感がありました。

多くの売り上げを頼っていた親会社からの受注が、私が社長に就任した時には、減少が見込まれており、全体の売り上げ、利益が低下することが確実な状況にありました。

V字回復を目指した経営の3ステップ

 V字回復を目指し行動し始め、いろいろ試行錯誤を繰り返しましたが、以下の3ステップをこなすことで、その軌道に乗せることができました。

 ① “理想の姿”の明確化

 ② 社員の意識改革

 ③ 能動的な行動を取る社員へ変革 

(1) “理想の姿”の明確化

会社が、低迷する状況になっても、どうしていくかという議論がなされていないのが、私が社長に就任した時の状況でした。

このため、社長に就任した私は、まさに会社が経営の谷にいることを痛感し、V字回復を目指すことにしました。

まず手掛けたことが、現状に満足することなく、現状の問題点を意識し、利益を確実に上げる成長する会社を目指すことを社員に語りかけました。

また、三枝氏が経営改革にあたって、第一ステップとして掲げている、改革後の出来上がりの姿、“理想の姿”明確にしました。さらに、理想の姿の達成までのスケジュールを明確にする意味で、それを10年単位で成し遂げることを明確に打ち出しました。

(2) V字回復の経営に向けた社員の意識改革

V字回復を目指すという宣言をした際、社員の多くの人の反応は「まさかそのような世界」が来るはずはないといった懐疑的なもので、これまでの仕事のやり方に慣れてしまった社員の意識を変えることは難しい状況でした。

このため、社員に経営改革の必要性を理解させるため、いろいろ手立てを講じました。

一方的に宣言するだけでなく、社員にも、そのような理想の姿の世界は具体的にどのようなものになるかを理解してもらうため、社員との懇談会を繰り返し行いました。

第一ステップはこのように始まりました。しかし、理想の姿を示すだけでは、社員が動き出すきっかけになりませんでした。

このため、部門ごとに、あるべき姿を具体的なイメージとして作り上げてもらい、その世界を具体的に、できる限り数字で表すようにしてもらいました。

このように、社員自らが参加する形で、なりたい姿、その世界の具体的なイメージを考えることで、かなりの社員の意識もそちらの世界に向かって動き始めようという変化が起こりました。

ただし、あるべき姿を明確にした上で、さらにそれを実現するためには、次のステップに移っていく必要がありました。

(3) 能動的な行動を取る社員へ変革

経営改苦を進めること、そのためには、“あるべき姿”を明確にし、その目標に向けスケジュールを設け、進むことをスタートさせました。

そのスケジュールを基に、成果を上げていくためには、次の段階に取り組む必要が生じました。

社員が、まだまだ、上からの指示を待つ、受け身的な姿勢が顕著であり、これでは、会社全体としてのエネルギーが不足し、理想の姿まではたどり着かないことが懸念されるようになりました。

このため、会社としての理想の姿を、各部門としてのあるべき姿、さらには、各グループとしてのあるべき姿まで掘り下げることにしました。

こうすることにより、各社員が、担うべき目標が明確となり、各自が、スケジュールを立て、成果を上げていく姿が見えるようになりました。

こうすることで、社員一人ひとりが、会社が目指す姿のどこを担っているか、自分の立ち位置が明確となり、能動的な行動に移るようになりました。

このような状況のもとで“理想の姿”に向けてのスピード感は今までにないものとなりました。

まとめ

柔道家山下氏、プロゴルファーの青木氏の講演会の話に始まり、三枝氏の経営改革の実態を読み、長期的な視点からの目標を計画にする必要性について、自分の経験も含め紹介しました。

成長するためには、第一ステップとして、明確な“なりたい姿”、“理想の姿”を描くことが重要です。これは、経営だけでなく、自らの能力を向上させたいと思う人も意識すべきことと思っています。

さらに、会社においては、会社としての“あるべき姿”を、個人レベルまで掘り下げていくことが必要となります。