モチベーションをアップしたいとき

能力を向上させるための秘訣-高い目標に挑む-

サラリーマンの皆さんは、常に自分の能力を高めようと努力していることだと思います。

能力向上のための方法はいろいろあるようですが、何か秘訣はあるのでしょうか。

この点について、山下泰裕氏に直接伺った話をまとめた「常に高い理想の姿を追って日々努力」を、このブログの2019年7月30日の回で紹介しています。

その中で、山下氏は、成長を確実にするうえでは、高い目標(高い壁)を掲げることが必要だと述べています。ぜひ、読んでいただければと思います。

では、高い目標とか高い壁をどのように設定したらよいのでしょうか。

堂場氏は、その作品の中で、将来有望と言われている若手スポーツ選手に対し、高い目標を据えることの大切さを教えるために、自らが壁になろうとする、先輩格である一流選手の姿を書きあらわしています。

私は学生時代に、体育会系のバドミントン部に所属していました。そのときに、目の前にハイレベルの技術を持つ仲間がおり、彼を目標とすることで、一つ上のレベルまで達した経験があります。

今回は、堂場瞬一氏と今野敏氏の作品と私の学生時代に所属したクラブでの経験から「能力を向上させるためには、高い目標に挑戦することが秘訣」について紹介します。

一流の能力を達成するために必要な高い壁

小説「ルール」は、クロスカントリーをテーマにした小説です。

オリンピックの同種目で、日本人として最初で最後の2連覇を成し遂げた竜神と、その姿をスポーツ記者として長年追い続けてきた杉本の二人が主人公です。

竜神はオリンピック連覇後、引退を宣言しました。しかし、その2年後、“ある理由”から現場に復帰することを宣言し、クロスカントリーの全国大会である天皇杯を目指すことを決意しました。

記者杉本は、すでに栄光を獲得している竜神が、なぜ今、復帰し、苦しい練習を再開しようとするのか、“ある理由”の真意を掴むことに執着し、その理由を掴むべく、関係者に聞き取りを進めていきます。

その中で、竜神が現役選手の時から信頼し、ライバルとしてともにオリンピックを目指した先輩アスリート、長野との関係に行きつきました。

その長野に話を聞くべく杉本が連絡を取ったところ、すでに長野は1年半前に亡くなっていました。

長野に直接話を聞くことはできませんでしたが、その息子も、クロスカントリー選手として、将来を嘱望されていることを知りました。

取材でしばらくぶりに竜神と会った杉本は、竜神との会話のなかに、“ある理由”が、長野の息子、怜人に絡んでいることに気づくのでした。

(竜神)「長島さんに息子さんがいるのは知っているか?」

(杉本)「ああ、そう言えばーーーーー」長島本人から聞いたような記憶がある。

「今年、大学に入ったんだ」

「ということは、十九歳?」私は頭の中で素早く計算した。

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「彼が、有望株なんだ。インターハイで一年の時から三年連続優勝して、今年北海道美浜大に入った」

「それは——すごいな」クソ、冬の取材を離れているうちに、新しい人材も出てきているわけか。担当ではないとはいえ、出遅れた感は否めない。

親父さんを超える逸材かもしれない。でも、そう簡単には勝たせない。俺が壁になるつもりだから

「お前は、壁としてはでか過ぎるよ」

「もちろん」当然のように竜神がうなずいた。「だけど、簡単に乗り越えられる壁なんか、壁の意味がないだろう」

「本人はどうなんだ?」

「図に乗っている」竜神が苦笑した。「だから、早いうちに挫折を味わわせてやらないと。一度負けないと、勝つことの大事さが分からないんだ

「えらくスパルタだな。最近の大学生にそんな厳しいことをしたら、やめちまうかもしれないぞ」

「そうかな——俺は、長島さんに叩かれて強くなったつもりだけど」

(堂場瞬一著 ルール)

高い壁を乗り越えた先の勝利

 今野敏氏の小説「道標」の登場人物は、警警視庁警察学校で初任教養を受ける、主人公安積ほかのメンバーです。

初任教養で同じ班になると、チーム単位で術科の拳銃訓練、柔道などを学びます。柔道では、各班対抗戦があり、何とか勝ちたいと意識する安積の班は戦略を練り戦いに挑みます。

しかし、班の中で一番体力的にひ弱な内川が足を引っ張ることになり、負けてしまいます。

そのことを気にする内川は、皆に迷惑をかけるという理由で警察を辞めると言い出しました。

何とか内川を警察に残らせようとする安積たちは、内川に自信をつけさせたいとの願いから、前の対抗戦の柔道で負けた班に再度対戦を挑み、勝つことで内川が警察に残ることを約束させました。 

(速水:安積と同じ班)「訓練がつらくて、嫌気がさして、学校を辞めるというのなら、俺は止めない。だが、本当におまえが言うとおり、俺たちに気兼ねしてのことなら、もう一度自分を試してからにしたほうがいい」

(内川)「自分を試す?」

「秋の術科大会の前に、もう一度前島たちの班に、柔道の練習試合を申し込むんだ」

私は、この発言に唖然とした。

そんなことをして何になるのだろう。確かに、私たちは三か月間、みっちり術科の訓練を続けてきた。

大学柔道部出身の前島との実力差も、それなりに埋まっているかもしれない。だが、それだけのことだ。

大学で鍛え、試合経験も豊富な前島と私たちには大きな壁がある。その壁を乗り越えることはできっこないのだ。

下平(安積と同じ班)が速水に言った。

「そんなことをして何になるというんだ。また負けてしまったら、よけいに内川を傷つけるだけだ」

「負けなければいい」

そう言ったのは、安積だった。勝てば自信になる。その自信が、将来の支えになるんだ

(今野敏著 道標)

この試合で負けたら警察を辞めればよいという速水と安積の説得を最終的に受け入れた内川は、仲間とともに練習に励みます。

試合当日、前島班との勝負は、二勝二敗の五分で、内川が先方の大将前島と戦うことになりました。

前島がふと気を抜いたところに内川は、体落としの技をかけ一本勝ちを納め、安積の班は勝利し、内川は警察に残ることになりました。

負けないダブルスペアを目指し、高い目標を設定して挑戦

大学時代に、体育会系のバドミントン部に所属していました。そのころ関東のリーグ戦は6部で構成されており、1部、2部のクラスに強豪校がそろっていました。

大学は、長年3部に所属しており、なかなかに強豪校がそろう2部への参加が出来ないでいました。このため、我々の時代に、2部に昇格することを目標に、日々練習に励みました。

団体戦は、シングルス6名、ダブルス3組で戦われます。

この中で、3組のダブルスのメンバー構成が、リーグ戦を勝ち抜いていくうえでのカギでした。必ずどの試合でも勝つペアを一つ作ろうということで、わたしがそのペアの一員になりました。

私のパートナーとなった選手は、高校時代から全国大会にも出場し、1学年の時からレギュラーとなり、我々の仲間のなかでは一つ頭が抜き出た存在でした。

私も高校でバドミントンはやっていたとはいえ、東京都の大会でも、ベスト32が最高という、並み以下の技術レベルでした。また、大学で練習に励んだとはいえ、パートナーとの力量差は歴然としていました。

いざ彼とペアを組み、公式戦前に試合をしましたが、我々のペアには大きな欠点があることがはっきりしました。

自分のバックからの返しが甘く、私のバックさえ狙えばポイントを稼げると判断し、集中的に私のバックに球が集まってしまうようになりました。

このため、ペアのコンビネーションも乱れてしまうという、最悪の状況に陥っていきました。

パートナーに申し訳なく思うとともに、これでは、目標の2部昇格は難しいと反省し、パートナーの技術レベルまで自分の技術を引き上げることを決意し、バック強化のための特訓を始めました。

練習の時に、バックを重点的に攻撃してもらうような段取りを組むことはもちろん、クラブの練習時以外でも、毎日、手首と肩を中心に、技術力のアップを図りました。

このような練習を1年以上続けたことで、バックの弱みも解消されるようになり、パートナーとコンビネーションも合ってくるようになりました。

そして4年のシーズンを迎えたころになると、3部に所属する大学のどのダブルスチームにも負けないペアとなることが出来ました。

チームは4年の秋のシーズンで優勝し、入れ替え戦で2部のチームを破り、念願の2部昇格を果たすことが出来ました。

高い技術レベルをもつ、ダブルスのパートナーを自分の高い壁と意識し、何とかその壁を越えようとして努力した成果が最後に現れたことで、4年間のバドミントン生活を充実した中で終わらせることが出来ました。

「ルール」のように、世界レベルの話ではありませんが、高い目標を掲げ、そこに高い壁を見出し、越えようとする努力が報いられ、また、その達成感に満足するとともに、新たな自信がわいた気がしました。

まとめ

柔道家、山下泰裕氏をはじめ、超一流のアスリートが自分の経験から語るように、一流のアスリートが、理想の姿を達成しようとするときには、必ず高い壁が目の前に現れます。

その壁を乗り越えようとするか、無理だと思ってあきらめてしまうかで、その人が成長するか、しないかの分かれ道になると思います。

また、高い壁を乗り越えたときの経験は、自分に自信をつけることになり、その後の社会生活においても、大きな効果を示すようになります。

壁を乗り越えるためにはいろいろ工夫し、知恵を出すことも必要になります。このことが、次のリスクに立ち向かったときに大きな力となることも、壁を超えようとする努力の成果であると思っています。