モチベーションをアップしたいとき

成長には高い目標が必須

あっという間に梅雨が去り暑い日が続いています。

家のそばにある尾根緑道には桜、欅などの木々が茂り、よい散歩道になっています。

濃い緑のなかには苔むした敷石が並べられています。

苔の緑の趣に、敷石を踏んで通るのはもったいない気がして、その脇を抜けて通り過ぎました。

避(よ)けてゆく 苔の敷石 夏木陰

さて本題です。

会社を経営し事業の拡大を目指すとき、長期的な目標を立てその目標に向けて課題を洗い出し、方策を立て事業を進めていきます。

また、個人においても、なにかある技術をマスターしよう、TOEICで800点を越えようなど能力を高めたい、成長したいと思うと、目標を設定しそれに向かい行動を起こします。

では、目標のレベルはどうあるべきでしょうか。

やはり、会社なり個人が成長する上では、“高い目標”を設定することが必須であると思っています。

ワシントンDCに駐在していたときに、著名なアスリートの方から話を聞く機会がありましたが、その中で、このブログでも紹介しましたが(2019年7月)、山下泰裕氏から聞いた話が、高い目標の設定という意味では印象に残っています。

氏が語る「自らが理想とする高い目標を立て、うしろを振り向くことなく、その目標に向かって絶え間なく努力してきた」という体験談を聞き、高い目標の意味について、わたし  自身、それなりの思いをいだくようになったことは確かです。

その思いは、私が社長になったときに活かすことができました。

南場智子氏もその著書「不格好経営」のなかでこの点について触れています。

今回は、南場氏の著作と私の経験から「なぜ成長のためには高い目標が必要か」というテーマについて紹介します。

高い目標の意味するところ

南場氏は、高い目標を設定することの意味合いについて、DeNaを創業し、成長させてきた過程で次のように話しています。

さて、話を戻すと、ちょうどモバオクを立ち上げた2004年3月に、わが社は初めて3か年計画をつくり社内に発表した。2007年3月期に売上高100億円、営業利益率は20%以上を達成するという内容だ。かなりアグレッシブな目標だ。単純に、30億、60億、120億と倍々で成長したい、だから目標は120億円、最低線はキリよく100億円。

守安(南場社長の後任)はこのときのことを「どうやってこの売り上げをつくるんですか、と南場に聞いたら、自分で考えろと言われた」と笑い話として回顧しているが、そのとおり、絵は描いたが確信の持てる精緻なプランはまったくなく、そうなりたい、という強い意志の表明にすぎなかった。これぐらいの成長をしないとつまらない、単純にそう思い、強く打ち出した。

(南場智子著 不格好経営)

さらに、DeNAの社長である南場氏は、上場した際の最初の仕事として収益事業として成り立たせる必要があり、そのときの主要商品であるモバオクを無料から有料化することにしました。

一時的な縮小を経て、再び拡大基調に戻すことができましたが、このときも、高い目標の必要性について書いています。

 このころ、つまり2005年の夏ごろだが、私は2011年3月期の数値目標を打ち立てた。売上高1000億円、営業利益200億円。当時は売上高64億円で着地した年度のまっただ中で、「来季の100億円も見えていないのに」と守安は反発したが、私は目標数値だけは決めたいと、「勝手に」(守安曰く)打ち出した。100,200,400,700,1000とホワイトボードに書き、狙ってなかなか達成できないことが、狙わずにできるはずがない、大きな試合をしよう、と幹部連中に本気でコミットを迫ったのを覚えている。

(南場智子著 不格好経営)

高い目標を設定する意味

私が、事業の縮小が懸念されていた会社を経営するようになり、その底から脱却し、さらに成長するために取り組んだときの経験です。

社長に就任し、ただちに10年後に売上高を2倍にするという目標を設定しました。

それまで、160億円程度の売り上げを上下するのが通常の収支状況の中、10年で2倍にすると社員に向かい宣言しました。

「こんな目標は達成不可能」と多くの社員は声を大にして言い出しました。また、役員のなかにも、目標が高すぎるのではという反対の主張をする人もいました。

何回かこのブログでも紹介しましたが、私が社長になったときには、最大顧客である親会社からの受注が急減することが想定され、何も手を着けなければ事業が縮小してしまうことは明確でした。

このため、高い目標をかかげることに3点の経営上の意図を込めました。

会社として高い目標を掲げることで、社員に対し“これから会社は変わっていくのだ”という強いメッセージを伝えることが一つ。

目標を達ししたときには、今までにない高揚感を社員にもたらすことが可能です。このように挑戦することに高揚感を覚え、次の難題にも向かっていこうという強い意志を社員に芽生えさせることが2点目。

安易な目標と異なり、高い目標を据えることで社員が挑戦する機会は多くなります。この挑戦により、自分が成長しなければ、という意識を育てることが3点目。

そして、高い目標を設定し、そのための方策を立て行動に移りました。

いろいろ課題は出てきましたが、それらの課題を解決しながら3年ほどすると、10年先の目標が視野に入ってくるところまで事業は拡大しました。

そう言った意味で、短期的には高い目標を設定したことで、会社の成長は遂げられつつありました。

しかし、どうしても2点目の社員がわくわく感を持って仕事をし、目標を達成したときに高揚感を感じるというところまでには至りませんでした。

事業が拡大し、利益もそれなりに上がってきたことから処遇を見直し、これで満足してもらえると考えましたが、優秀な社員になればなるほど、それだけでは満足感を感じないことが、アンケートや個人面談を通じてはっきりしました。

このために採用した方策が、社員一人一人にも、その社員が挑戦して達成できるかどうかといった目標を設定することでした。高い目標だからこそ、達成したときの高揚感は本人にとって次につながる高いモチベーションになると考えました。

この方策を立て、しばらくすると、社員のやる気も向上し、成し遂げたときの高揚感は高く、次への挑戦につなげていくことができるようになりました。

この社員にわくわく感をどう感じさせるか、といった点について、南場氏は事例を紹介しています。

 当然のことながら、会社を発展させるためには、有能な社員に長く活躍してほしい。しかし自由な個人を囲い込むことはできない。多くの選択肢のなかでDeNAをこの瞬間も次の瞬間も選んでもらうために、魅力的なステージにすることに腐心するしかないのだ。報酬の競争力も気にするが、わくわくするような高い目標に挑み、自分でさえ気づいていなかったような能力が発揮でき、どこよりも輝けるステージになっているか。この点において、外の選択肢と真剣勝負をしなければならない

(南場智子著 不格好経営)

あとがき

会社が、そしてそこで働く社員が成長するために必要なこととして、高い目標を設定することの重要さを、DeNAの会長である南場氏の著作と私の会社経営の経験から、事例をもとに紹介しました。

簡単には到達することができない目標に挑戦することで、組織としての力が、また個人としての能力が高まっていくのだと思います。

そして、挑戦することで失敗することも多くあるかと思いますが、その失敗が、一段の成長を促すことも事実だと思います。