上司、リーダーの役割

理想的な組織のトップのあり方

垣根越し 坪庭紅葉 目の憩い

家の東側の庭に植えたもみじが、今年は一段と見事な紅色に染まっています。一坪ほどの庭に植えられたもみじですが、通りすがりの人にひとときの憩いを与えてくれています。

さて、本題です。

会社などの組織を見ていると、社員が生き生き働き、自らの意思で仕事を進め、成果を出している職場があれば、社員にわくわく感が見えず、やむを得ず仕事をしている雰囲気の職場もあります。

この差は、組織を運営するトップのあり方によって決まってしまうことが多いと思っています。

現在の若者の4割近くが、柔軟な勤務を好み、多様性や公正性を重視しない組織では働かない、と考えていること。また、人材を囲い込むのではなく、コミュニティー的につながるイメージを追い求めるスタートアップの経営者がいることを考えると、昔流の“俺が引っ張っていく”といった人の動かし方では、通用しない世界になってきたのでは、と考えています。

では、どのようなトップのあり方が望ましいのでしょうか。

作家、佐藤賢一氏はその作品「傭兵ピエール」のなかで、二人の対照的な傭兵隊の隊長を描き、どのような隊長が部下に生き生き働かせているかを比較的に語っています。

私も、建設現場の職場で、能力のある所長のもとで仕事をしたことがあります。仕事の進め方などで勉強させてもらった一方、必ずしも、その職場で能動的に働けたかには疑問を持っています。

今回は、佐藤氏の作品と私の経験から「組織を活発化させる理想的なトップのあり方」について、事例を紹介します。

組織のトップには懐の深さが必要

佐藤賢一氏の「傭兵ピエール」は、フランスとイングランドが100年以上にわたり戦った百年戦争の1390年から1400年の頃を題材にとった歴史小説です。

主人公の傭兵ピールは、フランス軍の傭兵隊の隊長としてこの戦争に参加しました。劣勢であったフランス軍は、救世主ジャンヌ・ダルクの登場により、それまでの劣勢を挽回し 連勝していきます。

ピエールは、そのジャンヌ・ダルクに付き添い、彼女に鼓舞され、戦いの重要な場面で勝利を挙げる一方で、猪突猛進的に突き進む彼女の危機を救うなどもあり、戦いのなかにあって彼女に惹かれていきます。

ここで紹介する一節は、ピエールが出陣し、フランス軍がこれまでの連敗を止め、勝利し、次の戦いの備え休暇を取っていた際に、永く親交があり、やはりピエールと同様にフランス王軍に所属し、別の傭兵隊を率いているアントワーヌと出会ったときの話です。

アントワーヌは、ピエールよりも若い隊長でしたが、ピエールの隊と同様、戦歴を誇る隊を率いていました。

しかし、二人の隊員に対する姿勢は対照的で、また彼らが率いる組織の在り方も正反対でした。

シェフ(隊長)には人を引き寄せる力が必要である。この点でなにより二人は、天与のカリスマを身にまとっていた。しかしピエールのカリスマは懐の深さを思わせ、一方アントワーヌのカリスマは強引な牽引力を思わせた。

もちろんピエールとて指導力をもっている。けれどそれは部下の気持ちを尊重した上で、集団全体を力強く走らせるものだった。従うものに不安は少なく、それだけに雰囲気が明るい。つまりピエールは、人を生かして動かした。

アントワーヌのやり方は全く違った。彼は極度に恣意的である。部下の意向など最初から無視してかかる。それでも人を服従させる凄味が、アントワーヌには備わっていた。強烈な説得力は、従う部下を機械に変える。自在に操っては決定的な局面で、抜群の指導力を発揮した。つまりアントワーヌは、人を殺して動かすのだ。

ここ一番の強制力においてはピエールを凌ぐ。しかし両刃の件であり、アントワーヌのカリスマは一種の危うささえ感じさせた。どこにどう弾けるか予測がつかない。ついていく部下たちは不安に駆られ、集団は不断の緊張を強いられていた。

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遊んでいてもアントワーヌは、話すことしかできない。部下たちは演説でも聞くように、シェフの言葉に耳を傾けるのみである。信頼していながら怖い。返すことなどできないのだ。しかしこれでは歯ごたえがない。アントワーヌは不満だった。

ピエールの凄いのは、聞き手に回りながらアントワーヌを呑み込み、彼を生かしながら話を進めるところだった。独特の懐の深さ。これにはアントワーヌも安心感を覚え、ついつい長話に及んでしまうのだった”。

(佐藤賢一著 傭兵ピエール)

 

企業のなかでも、リーダーとなる人は、「人を生かして動かす」人と「人を殺して動かす」人に分かれるのではないかと思っています。

そして、とくにこの多様性を重視する現代の企業においては、「人を生かして動かす」ことが大切になっていると思います。

40年近く前になりますが、私が、優秀ですがどちらかというと、後者に属する所長のもとで働いたときの経験を紹介します。

指導が強すぎる所長の下で、部下は受動的な姿勢に

私が30歳代後半のときに従事したダム建設の現場での経験です。

ダム本体の工事は半ばを超えましたが、緊急的に大掛かりな工事を実施する必要がありました。そのタイミングに合わせて新たに所長が転勤してきましたが、その所長は、判断力があり、仕事ができると評判の人でした。

建設所での業務が始まると、その所長は評判通り、指導力もあり、次々に判断しなければならない設計課題についても、的確に処理していきました。

私はそのころ現場の課長を務めており、所長とは年が離れていたものの、直接の上司と部下の関係で、所長とのやり取りが日常的に行われました。

そのような中、細かいところまで気が回る人であったことから、我々の手掛けた仕事にも、細かい指摘がなされました。そのようなやり取りのなかで、きつく叱られることが多く、なかなかに私をはじめ、部下が意見具申することがなくなっていく状況でした。

設計に関する文書をまとめて、所長のところへ持っていくと、細かいところへの指摘もあり、それなりに勉強になりましたが、こちらの意見をあまり聞こうとすることはなく、自分の判断で、ことを決めていくことが続きました。

そのようなことが続き、課長である私以下のメンバーは、すっかり所長に判断を任せることに慣れてしまい、所長が言えばそれでよしとする雰囲気にしばらくするとなっていきました。

このように、所長の発言に対して反論することなく、まとまってしまった私たちの建設所の姿を見て、他の建設所の同僚から「お前の建設所は、だれが答えてもみな所長が言っていることと同じことしか言わないな。まるで、どこを切っても同じ顔が出てくる金太郎あめのような軍団だな」と言われましたが、まさに言い得て妙な発言であったと後から気づきました。

このように、所長の強力な指導の下、設計は進みましたが、部下である我々は所長のいうことを聞いていればと思うことで、その姿勢はどうしても受動的な姿勢になってしまいました。

その後20年ほど経ち、自らが会社のトップに就任したときに、社員の仕事に対する姿勢が受動的であったことに、組織としての問題点を見つけました。

その課題解決にあたり、建設所時代の経験を教訓に、トップとして判断すべきときは判断するものの、部下を信頼し、任せることは任せる姿勢で、会社の経営を進めました。

社長就任当初は、コミュニケーションも少なく、仕事のやり方も、上司がいうことを素直に実施する受動的な社員も、そのうちに、みずから意見を発信するようになり、行動も能動的なものに変っていきました。

まとめ

組織がしっかり運営されているとき、その組織を引っ張るリーダーには二通りあることを紹介しました。

強い指導力を示し、部下を動かすときに「人を生かして動かす」リーダーもいれば、「人を殺して動かす」リーダーもいます。

建設現場で、部下を強力に引っぱっていくリーダーのもとで働いた経験のある私には、現在の、個人の特性を生かし、自立的に働いてもらう社会では、「人を生かして動かす」ことが必要になっていると思っています。

人を生かして動かすことで、その組織で働くメンバーも、自律的に動くようになり、個々人の充実感も高まることを、会社の社長で経験しました。