今の仕事に疑問がある時

先入観が悲劇を招く

明けましておめでとうございます。

今年の初日の出は、地元では雲が地平線に横たわり、その雲を越えての日の出でした。 

徐に 雲焦がしつつ 初日の出

  さて、本題です。

前回(2023年1月2日)は、「外の世界を知ることが大切」と題して、馴染んだ現状を離れ、違った世界を体験することでることで、視野が広がり、問題に遭遇したときに新たな発想で問題の解決を図ることができることを紹介しました。

今回は、問題に遭遇したときの対応によっては悲劇を招くこともあるといったテーマについて紹介します。

事業をスタートさせたり、問題を抱え、重要な判断を下さなければならなくなったりしたとき、つい、いつも頼っている人が言ったことだからとか、これまで永くやってきた方策だから、といった先入観で事を判断してしまうことが多くあると思います。

しかし、この先入観で事を判断すると、問題が解決しなかったり、最悪の場合はトラブルを生じてしまったりすることがあります。

作家、柳田邦男氏はその作品「零戦燃ゆ」のなかで、太平洋戦争の開戦時の日本による  真珠湾攻撃時に、米国海軍首脳部が、日本の戦闘機の能力を過少評価したことが、米軍に多大な被害をもたらした原因の一因であると指摘しています。

このように、先入観を持って判断することで大きな悲劇を生んでしまうことがあります。

私も、海外事業を担っていたときに、発展途上国に技術商品を売りに行った際、かってに発展途上国ではこんな技術にニーズがあると思い込み、顧客からの受注に至らなかった経験があります。

今回は、柳田邦男氏の作品と私の経験から「先入観が悲劇を招く」について、事例を紹介します。

事例1  先入観にとらわれて失敗を犯す

 柳田邦男氏の「零戦燃ゆ」は、太平洋戦争開戦時の華々しい活躍から、その後、米国にその機体の特徴を調べ上げられ、弱点を突かれるようになり、しかも、優秀な飛行士がどんどん戦死する中、人材も枯渇し、ゼロ戦の戦闘能力が著しく低下していくまでを描いたノンフィクションです。

その中では、開発担当者、飛行士、指揮官、上層部などさまざまな関係者の姿を描いています。

ここで紹介する一節は、太平洋戦争の開戦となった真珠湾攻撃における零戦の活躍と、その能力を評価しえなかった米国海軍首脳部の対応がテーマです。

 この年十二月八日(アメリカでは七日)の日米開戦と同時に、ハワイとフィリピン同時に明らかになったことは、事前の情報が全く生かされていなかったという厳然たる事実だった。シェンノート将軍(日中戦争において、中国軍の指導にあたり、零戦の性能について詳細な報告と警告をワシントンなどに送っていた)は義勇航空兵だったけれど、フリーマン大尉(中国駐在の米陸軍武官補で、日本軍の零戦を含む戦闘機について調査報告書を提出していた)は公的に派遣されていた武官補であり、その報告も軍の公的ルートで伝達されていた。その報告さえ、無視されていたのである。「日本がそんな優れた飛行機を作り出せると能力を持っているはずがない」という、ワシントンの軍首脳部の先入観は、相当に根深かったといわなければならないだろう。

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開戦時において、アメリカの政府・軍の首脳が、収拾された情報を十分に生かしていたかというと、必ずしもそうではなかったことは、起こった「事実」が示している。現代の企業経営でも、経営首脳が第一線の営業マンの情報を大事にしないで、自分の先入観にとらわれて市場戦略を決めたために、大失態を演じたという事例は、よく耳にするが、無視された「零戦情報」の話は、先入観の怖さと第一線の情報の重要さとを示した典型的な例だったといえよう。もっとも真珠湾以降、いよいよ戦争に突入すると、日米の情報への取り組みは逆転し、米国側は情報戦争において日本軍を圧倒していくことになる。

(柳田 邦男著 零戦燃ゆ ③) 

 

事例2 先入観で判断し、顧客のニーズを捉えられす受注失敗

 私が海外事業で電力関係のコンサルティング事業に従事していたときの経験です

 我々がこれまでに培った技術を発展途上国に活かせるのでは、ということで、発電所の建設から運営まで、その国に合ったプロジェクトを紹介し、そのプロジェクトに参加することを事業の柱としていました。

主に東南アジアの国を対象にしており、インドネシアやベトナムなどの国において、電力設備の改修などを進め、事業の効率化を進めることを目的に案件づくりに励みました。

案件づくりにあたっては、国際協力機構(JICA)などの国際組織に出かけ、関連するニーズの把握に努めていました。

しばらくすると、ある国で日本の援助で電力の送電設備の改修を計画したいとの情報を掴みました。日本の技術を導入したいということで、我々の技術が活かせる案件であるということで、受注に向けた活動を始めました。

先方のニーズは、きっとこんなことであろうという考えのもと、日本で使用している最新式の設備の導入を基本に案件をまとめました。

提案資料ができ上がるのを待って、当該国の電力関係者の所へプロポーザルを手にして、営業に出かけました。

ひと通り説明を行ってからの意見交換のときのことです。先方から我々が思いもしない意見が出てきました。

「日本の技術はすばらしいことはよく分かりました。しかし、我々が欲しいのは、今この国に適した設備であり、あなたたちの提案している技術は高級すぎて使いきれない」とのことでした。

実際に現地で使われている機材を調べると、日本で10年ほど前に使用していたものであり、すぐには、調達できない資機材が多いことがわかりました。

結局、我々の提案では先方の了解を得ることができず、結局、この案件を受注することができませんでした。

失注の反省をしている中で、当該国に調査で出かけていた別部門のグループが、1年ほど前に、「現地の電力設備は、日本が一昔前に使っていたものだ——-」といった報告書がすでに身近にあったことがわかりました。

もっと早くに、この報告書に目を通し、それなりの準備をしておけば、と残念に思いましたが、後の祭りでした。

前項で紹介した「零戦燃ゆ」の事例ほどの大きな過ちではありませんでしたが、発展途上国でも、我々が今使っている技術が欲しいはずだという先入観が強すぎとことによる失敗でした。

まとめ

新たに事を始めるとき、または、大きな課題に遭遇したとき、事例で紹介したように、  先入観を原因とする失事例はほかにも多々あることと思います。

先入観が強すぎて、折角、逆境を打開することができる情報が目の前にあるにもかかわらず、目を当てようともしない状況に陥ってしまうことが一つの要因だと思います。

このような先入観を除くためには、前回紹介したように、いったん外に出て今までとは違った環境に自分自身を置くとか、自分と経路・立場の違った人の意見を聞くなど、多様な情報を集めた上で、判断することが必要だと思います。