能力を高めたいとき

継続的な努力が目標達成の秘訣-社長経験からの教訓-

大きな目標を掲げ、それを達成しようとするときに、その過程で陥ってしまう罠があり、最後の目的までたどりつけないことがあります。

大きな目標に向かって突き進んでいるうちに、その途中段階で良い成果を上げ、その状況につい満足してしまうことがあります。

その結果、さらに最終目標に向けて、まだまだ成長の可能性があるにもかかわらず、そこに到達する意欲を失い、現状に停滞してしまうことがよくあります。

私が、ワシントンDCに駐在していたときに、現JOC会長の山下泰裕氏ほか、一流のアスリートの話を聞く機会が何回かありました。

皆さんが一様に語る言葉が「高い頂に到達するためには、常に高い目標を見据え、日々を努力すること」でした

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-柔道家山下泰裕氏の講演から-常に高い理想の姿を追って日々努力2020年東京オリンピックを前に、JOC会長になられた山下泰裕氏の講演を、20年ほど前にワシントンDCで聞く機会がありました。 山...

また、作家、池波正太郎氏は、剣客商売シリーズの一冊で、ある剣豪を例にとり、目標を達成し、現状に満足しきってしまうことで、成長が止まってしまうことを教えてくれています。

私も、会社経営を進める中で、業績が上向き、その状況に社員が満足すると、次の成長に向けた取り組みが甘くなってしまい、さらなる手段を講じる必要に迫られた経験があります。

今回は池波氏の作品と私の経験から「大きな目標達成のためには、継続的な努力が必要」ついて紹介します。

現状に満足することなく継続した努力が技を磨く

小説「剣客商売」は、池波正太郎のシリーズ物の代表作で、田沼意次の時代を背景にしています。

主人公は老剣客の秋山小兵衛です。江戸で発生する自らを狙った事件をはじめ、様々な事件に遭遇し、やはり剣客である息子の大二郎とともに、それらの事件を解決していく物語です。

ここで紹介する話は、波紋に収められている「剣士変貌」の中の一節です。

剣客商売の主人公、秋山小兵衛に、昔親交のあった剣客、横堀は、苦労の末に自分の道場を持つことができました。しかし、それで満足したのか、横堀は、門人の妻女との間で問題を起こして遁走する事態となりました。

その話を聞き、秋山小兵衛が、その友人のそれからについて語るのでした。

「横堀は、門人・杉原の妻女と姦通をし、それがもとになって師弟が争い、ついに横堀が杉原を斬殺し、妻女を連れて逐電した」

といううわさが耳へはいってきた。「あの人が—-―わからぬものですなあ」

と、以前の横堀を知っていたある人が、小兵衛にいうと、

「それは、つまるところ、道場の主となった横堀は、自分より劣った門人を相手に稽古するようになってしまったからだろうよ」

「ははあ—-」

「一城の主ともなれば、いまさら強い相手に鍛えられることを好まぬものさ」

「それで、人柄が—-」

「少しずつ、落ちてきたのだろうな。これは、道場の繁盛とは別のことだ」

出典:池波 正太郎著 剣客商売 波紋

池波氏は、剣豪が道場をもったことで満足し、その後に技を磨くことを厭うことになってしまったことから、現状に満足することの弊害を述べています。

現状に対する不満が成長を支える糧に

私が、土木建築関係のコンサルティング会社の社長に就任した時の経験です。

私が社長に就いたとき、会社は事業が停滞し、その先の成長も見通せなかったことから、社員が現状について不満感を持っていました。多くは処遇面での不満が多かったと思います。

一方で、会社には学識者に劣らない技術者をはじめ優秀な社員が多くいました。このため、私が就任直後に見たところでは、会社が持つ技術的な商材は、まだまだお客様のニーズに応えられるものが多くありました。また、商品を新たに開発する技術力も備えていました。

このような状況を踏まえ、今までの営業のやり方を変え、これまでお付き合いのなかったお客様を対象に市場を広げれば、この先、充分成長する可能性が高いと考え、経営快苦を進めることにしました。

改革を始めるにあたり、会社が成長することを目指すことを宣言し、5年、10年先の目標を設定しました。さらに、その目標達成のための各種方策を検討し、実施しました。

長期の目標にめどがついた段階で、社員の処遇も見直すことも社員に対し宣言し、社員にインセンティブが働くような経営を目指しました。

組織の見直し、社員の意識改革などを進めた結果、2,3年間は今までには見られなかった成長を遂げることができました。まさに、逆境をチャンスととらえ、社員、皆が努力した結果でした。

しかし、いったんあるレベルまで状況が改善すると状況が変わっていきました。

継続的努力を阻害する目標達成前の満足

5年、10年先の目標に至るまでに設けた短期的な目標をクリアし、報酬がほぼ望むレベルになると、「現状で十分だ」と思いから、あえて現状を変えるということに意欲を示さない社員が増えてきました

それまで、変ることをいとわない状況であったものが変わってきてしまったことを痛感した時でした。

結局、短期目標を達成したことに多くの社員が満足し、その先の成長を目指すことが難しくなりました。

現JOC会長の柔道家、山下泰裕氏が講演で、遥かに高い目標を目指す中で、絶対に思ってはならないと語っていた“「よくやった。よっこいしょ」と、腰を下ろしてしまった状況”が、そのときの会社の状況であったと思います。

現状の満足を捨て継続した努力で目標達成

ではどうすればよいか。

なかなかに難しい問題ですが、多くのアスリートが示唆を与えてくれているように、ある段階まで到達したときに、社員がさらなる先を目指すよう、経営を進めることとしました。

新たな取り組みとして、以下のステップを実施しました。

第1 ステップ 明確な高い目標の具体的な内容を社員一人ひとりに理解させる

第2ステップ 10年後の目標を目指し、各年度に達成すべき目標を各社員で明確にする 第3 ステップ 各年度末にその年度目標の達成状況を評価し、10年先の目標に向け次年度  

に取り組む目標を設定する

第4ステップ 社員の各年度の達成状況に応じ、公正かつ的確に次年度報酬を決める 

以上の方策をとることで、社員は、後ろを振り返ることなく、常に前向きに、目標を見据えた行動がとれるようになっていきました。

まとめ

苦労してあるものを勝ち取って満足すると、つい、気が緩んで、その先を目指すことを怠ることはよくあることだと思います。

柔道家、山下泰裕氏は、そのあたりの戒めとして、自分の理想を高く持ち、その目標に向かった淡々と努力すること。そして、その間の勝利などは、途中経過の一つと思うことと強く話しています。

つい、現状に満足すると、次の成長に向けた努力を怠りがちですが、現状に満足することなく、常に高い目標を掲げ、日々一歩ずつ前に進む姿勢が、山の頂に登る最良の策であると思います。