仕事で行き詰った時

会社生活43年間で学んだ環境変化への対応方法

ある目標に向かって仕事を進めているとき、当初の状況と現状の環境が大きく変化してしまうことはよくあることです。

環境の変化のために、思うように自分のペースを維持できなくなったり、また、周りの環境に合わせどのように対応することが最適か悩んだりする人が多くいることと思います。

いまのペースを維持しながら、乗り切ろうとすることもあるかと思います。

しかし、外部の環境の変化が大きな場合には、とうていそのような、これまでのやり方を踏襲するだけでは、目指す目標の達成は難しくなります。

では、環境変化にはどのように対応すればよいのでしょうか。

城山三郎はその著書で、主人公が外務大臣となり、日本の外交を導いていこうとしたときに出会った先輩の言葉として、いかに環境の変化に対応するかという点について書いています。

私も、海外事業部門のリーダーとなり、事業の拡大を狙ったときに大きな壁にぶつかりました。どのようにその壁を乗り越えるかということで悩んだ結果、今までのやり方を抜本的に変えることが有効であることを学びました。

今回は、城山氏の作品と私の経験から「外部環境が大きく変化したときにいかに対応するか」について、紹介します。

環境の変化に遭遇したときにはもう一度初めからやり直す

小説「落日燃ゆ」は、太平洋戦争の戦前、戦中にかけ外務大臣、首相を務めた広田弘毅の、戦前から終戦後、東京裁判で死刑判決を受けるまでの半世紀にわたる生涯を描いた小説です。

当時の陸軍が、中国の満州国独立を契機に、積極的に拡大方針を取る中、広田は、平和外交を目指し、何とか外国列強との調整に努めました。

広田首相は、陸軍の暴走を止め、戦争防止に努めながら、結局、敗戦を迎え、唯一の文官としてA級戦犯の有罪判決を受け処刑されました。

ここで紹介する一節は、その広田が外務大臣となり、難しい局面の中、平和外交をつらぬく決意をしたときに、元老の西園寺から難局に立ち向かう場合の処世訓を聞く場面です。

そして、外務大臣になってから、はじめて、上京した西園寺とその駿河台の私邸であった。広田の報告をきき終わった西園寺は、それに対し、格別の質問も意見も述べなかった。

それは、広田に任せ切っているという感じであって、その代わり、西園寺はしみじみした口調で、広田に語った。

広田さん、私は、一つの処世哲学のようなものを、持っているんです。それを騎手にたとえて申すと、トットと馬を駆けさせて、障碍物を飛び越えようとしますか

——-調子が良ければ、むろん、そのまま飛び越えます。しかし、馬が何かに驚いたり、足並みに狂いが生じた時は、もう一度はじめからやり直すことにしています。外交交渉もこれによく似ています」

思いもかけぬ西園寺の体温を感じさせる言葉であった。西園寺は外相を三度つとめたこともあり、その経験からにじみ出た励ましの言葉でもあった

(城山三郎著 落日燃ゆ)

西園寺の言葉は、事をなしている中で、大きな変化に遭遇したときの対応として、一からやり直すことの大切さを示唆しています。

私も、海外事業を展開していたときに、困難に出会い、一からやり直すことが有効であることを学びました。

新事業の立ち上げ時の順調な進捗とその後の壁

私がある会社の技術部門に在籍し、その部門で初めて海外事業に進出したときの経験です。

私は、40代半ば、そのグループのトップとして、一からスタートすることもあり、海外事業の人集めから方針立案、実践のすべてを担っていました。

事業の内容としては、部門が持っている技術力を生かし、その技術を発展途上国の開発に生かすことが出来るコンサルティングに絞りました。

コンサルティング事業の分野で、我々として何ができ、どうすれば事業として成り立つかなどの調査を1年ほど進めました。その間に人材も集めました。

スタートした当初から2年ほどは、既存のコンサルティング会社が進出していない国を対象に、ニッチな分野で事業を進めていきました。

我々の技術も、対象とする発展途上国では十分に生かすことができることが分かりました。さらに、相手国の関係個所の関心事も分かってくることで、その分野では順調に仕事を受注することが出来ました。

最初の2年間ほどは、大きな障害もなく、事業は進んでいきました。そのうちに、グループの人数も増え、いよいよ事業として本格的に立ち上げる段階になりました。上司からもしっかり利益を出すように強く言われるようになりました。

ニッチな分野では案件の規模が小さく、その分野だけを対象とした今までのやり方では利益をあげることが難しく、事業として成り立たせることができませんでした。

このため、事業規模が大きく、利益率も高いプロジェクトへ進出することを試みました。

しかし、いざそのようなプロジェクトを対象にしようとすると、こちら側で思い描くコン

サルティングの内容では、どうしても相手国のニーズを満足させることができず、案件を受注することが難しいことがはっきりしてきました。

また、進出しようとした世界は、既存のコンサルティング会社が、しのぎを削っている世界でした。

このように、事業開始当時は、順調に事が進んでいきましたが、いざ本格的に事業を始める段階で、それまでと違った環境に戸惑いを覚えたのでした。

本格的な事業展開時に遭遇した環境変化への対応

2年間進めてきたやり方がほとんど通用しない世界で事業を進めていく必要が生じ、どのように展開すればよいか悩む時期が続きました。

今までとは違った対応方針を立て、改めて海外に出ていく必要がありましたが、どのようにすればよいか、先が見えない状況でした。

そこで、長く海外コンサルティングを展開している競合各社の受注活動を調べてみました。

すると、一流といわれるコンサルティング会社では、数年前から案件づくりのため、当該国の情報を集め、交渉を進めていること、その案件にふさわしい技術者を準備しておくなどをしっかり進めていました。

まさに、戦略的にそれらの会社では事業を進めており、われわれが一点狙いで案件を受注してきた姿勢とは全く違う活動が展開されていました。

このため、案件受注のプロセスの勉強、技術者の育成を目指し、競合会社に人材を入れ込むことで我々の力を強化することにしました。

また、我々の技術特性を生かせる案件に関わる情報収集にも力を入れました。

まさに、一から出直す決意で事を始めました。

しばらくは、競合会社の案件に、マイナーで参加することが続きました。

そのようなことをするうちに、人材が育ち、案件受注のための準備も戦略的に進められるようになり、独自の案件も受注することが出来るようになりました。

まさに、今までのやり方を捨て、新たな方策に取り組むことで、何とか事業を維持することが出来た経験でした。

まとめ

順調に事が進んでいるときほど、大きな壁にぶつかったときの悩みは大きくなるようです。

そのようなときには、作家、城山氏が書くように、また、私の海外事業の経験からも、初めに戻って何をすべきか考えてから行動を再度起こすことが大切であると思います。

なまじ、今までの成功事例を基に、それまでのやり方を少し見直すだけで、大きな壁を乗り越えようとすると時間がたっても、何ら解決に向かっていないことを認識するだけのことが多いようです。