上司、リーダーの役割

話を聞かない上司の対処法-会社生活43年間の経験からの教訓- 

会社内で仕事を進めるうえで、仕事がスムースに進むかとか、前向きに仕事をすることができるかは、大きく上司との関係が影響してきます。

とくに、上司に相談するとき、または、情報を上げて指導を仰ぐときなどで、上司が聞く耳を持つか、持たないかで、部下のやる気が大幅に変わってしまいます。

また、その組織で大きな仕事を進めているときに、自分の考えのみを言っているだけで一向に話を聞こうとせず、何ら手を打たない上司がいること場合も多く、その場合の部下の苦労は並大抵ではありません。

そして、部下の提言、苦言を聞けない上司のいる組織は、ムードが沈滞し、成果を上げることが出来ないことが多いと私の経験では感じています。

宮城谷氏はその著書の中で、古代中国の戦国時代(紀元前3世紀頃)名君といわれた国王が、どのような態度で部下に接していたかを書き記しています。

また、同じ小説の中で、上司が部下の話を聞こうともせず、部下もあえて苦言を言おうとしない組織がどのような結末となったかも合わせて記しています。

私も、部下の話をなかなか聞こうとしない上司に巡り合ったときに、困り果てた経験があります。そのときは、ある対策を講じることでその上司を納得させることが出来ました。

今回は、宮城谷氏の作品と私の会社生活の経験から「話を聞こうとしない上司に対してどのように対処すればよいか」について紹介します。

国を治めるような人材は人の話をよく聞く

小説、「青雲はるかに」の舞台は、紀元前3世紀ころの古代中国です。

魏の国に生まれた主人公、范雎(はんしょ)は、魏国の宰相となるべく努力を続けます。しかし、魏の国では范雎の能力は認められず、他の国へ出て活路を見出すことを考える日が続きました。

そのような中で、斉の国王として、その当時に傑出した国を作り上げた襄王に会う機会がありました。

襄王は、前国王である父親が暗殺されるなどの試練に会い、その中で王位を継ぎました。そのため、襄王は政務を執り行う中で、どうしても猜疑心が強くならざるを得ませんでした。

しかし、努力の末、猜疑心を捨て、人の話を聞こうとする姿勢を強めていきました。

その襄王に范雎が面会した際に、襄王が示した姿勢に感銘を受けた場面の描写を紹介します。

 襄王という人を考えると、父の湣王(びん王)が楚の臣のトウシにだまされて殺されたため、猜疑心が盛んになり、それが素直な感性をゆがめていた時期があったこともたしかである。斉を救った将軍の田単が民をいたわることを知って、

—–あの男はわしの国を取ろうとしている。

と、憎悪の言を吐いたこともあった。

だが襄王は自分の猜疑心のなかに埋没することをまぬかれた。賤民のいうことでも、それがもっともだとおもえば採り、側近のいうことでも、それが讒言であるとおもえば斥けた。

そのようにして、田単という勲功の臣にむくいる道をあやまらなかったことで、斉は安定した。襄王をそうさせたのは夫人の助言があったからかもしれない。が、いかに優れた助言者がいても、聴く耳をもっていなければ、父の覆轍(ふくてつ)をたどるばかりになろう。

襄王は生死の境を奔っているとき、その耳を育てたといってよいであろう。

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襄王は范雎という魏の賤臣に、卑屈さのないことが気に入り、

「それでは、子の理想と天帝のご意志とを、きかせてくれまいか」と、(襄王)いった。

「つつしんでおこたえいたします」

范雎はこのときになってようやく手足に血がかよってゆく充足感をおぼえた。

(宮城谷 昌光著 青雲はるかに)

話を聞く耳をもつには、相当な努力とそのことを常に意識していることが大切であり、特に上に立つ人が注意しなければならない点であることを示した事例です。

上司に媚びるだけで部下の話を聞かない組織の顛末

この項の引用も「青雲はるかに」からです。

前項では、組織を維持する、もしくは拡大していくうえでは、その組織のトップに立つ人がどれだけ聞く耳をもっているかが大切かを、斉の襄王の例で示しました。

ここでは、襄王とは正反対の人物、魏の国の高官である須賀の例を紹介します。

前述したように范雎は斉の襄王との面会で持論を展開し、襄王の強い関心を得ることになりました。

その事実を聞き、魏の臣下である范雎が襄王に認められ、高額な金までもらい受けたことに、魏の大臣である須賀は、疑いの目を范雎に向けるのでした。

范雎の直属の上司である尾州は、范雎の斉の国における評判を、大臣の須賀に伝えようとしました。

しかし、下の意見をまともに聞こうとしない須賀は、情報を伝えようとした尾州に対し、考えが足りないとただ非難するのでした。

“「尾州よ、なんじはよく目の効く男であったが、いつの間にか老眊(ろうぼう)によって眩む男になり果てたか」

須賀の皮肉はきつい。

ものごとを正確に観察した目を、眩んでいる、と言われては、尾州に一言もない。彼は、范雎のために敢然と弁護をおこなう争臣ではない。この家には一人も争臣はいない。

主君に臣下の全員が阿諛(あゆ)しているといってよい。主君をいさめる争臣のいない家は滅びがはやいという意識も、当然のことながら、ない。

(宮城谷 昌光著 青雲はるかに)

せっかく部下が貴重な情報を上司に伝えようとしても、聞く耳をもたない上司であると、情報も役立たなくなってしまい、結局、組織が低迷してしまう事例でした。

話を聞かない上司の対応方法の要点

私も、多くの上司との付き合いがありましたが、その中にはなかなか人の話を聞こうとしない上司もいました。

話を聞かず、判断もしないため、仕事が進まず困ったときに、そのような上司に対してどう対処するかいろいろ考えました。

真っ向から立ち向かっても、そのような上司は進言した部下に、逆に反発を感じるだけのことが多いようです。

私の場合は、そのような上司に対し「急がば回れ」的な対策で臨みました。

本質的な話は後回しにして、上司にとって関心のありそうなテーマをまず話し、上司の気分を和らげ、その上で、本質的な話をすることで、窮地を切り抜けた経験が多々あります。

話を聞かない上司の対処方法の具体論

建設工事現場で、ある責任ある部署にいた時の経験です。

工期の制約から時間がなく、どうしても上司にすぐに了解してもらう案件を抱えているときでした。

最初にその了解事項を説明に行ったときには、その上司は関心がないのか、その話を聞こうとしませんでした。

そこで、どうすれば上司がこちらに耳を傾けるか考え、まず、その上司が興味を持っている話題を持ちかけ、その後に本質的な話をするようにしました。

具体的には、上司のさらに上役が関心のあるテーマを、突破口を切り開くために選びました。話を聞かない上司の特性として、上ばかりを見るということがあることを応用しました。

それも、自分の仕事に直接影響のないテーマを選び、上司が上役から評価されるようなテーマを選びました。

報告内容を整え、上司に説明しました。すると、上司はこちらの話に関心を示し、納得顔で話を聞いていました。

その話を聞き、気分が良くなった様子であったので、自分が話したいと思っている緊急の案件について、引き続き話をすることにしました。

案件の説明に際しては、上司に負担がかからないよう配慮もしました

いくつかの質問があったかと思いますが、その前の説明で気分がよくなっていた上司は、結局、私の提案を受けつけました。

この方法は、まさに「急がば回れ」的なものですが、結構、効果的で、その後も同タイプの上司とのやり取りでもこの方法を活用し、効果を上げていたことを覚えています。

まとめ

組織の中で仕事をするとき、上司が聞く耳を持ち、一緒になって行動してくれる「青雲はるかに」の斉の国王のような人がいるのが最善だと思います。

しかし、サラリーマン社会には、部下の話を聞こうとせず、自分の考えを押し付けるだけで、組織運営に後ろ向きな上司がいることも確かです。

そのような上司に対しては、少し時間はかかりますが、真っ向勝負をやめ、からめ手から攻めることが有効だと思っています。