今の状況に不安があるとき

気配り上手になるためのコツ-会社生活43年からの教訓-

会社生活を送っていると、「あのとき、もっと気を使っていれば、結果が違っていただろうに」と反省することがよくあるかと思います。

また、仕事で気を使うことで仲間の信頼を得、仕事が円滑に進むことも確かです。

では、気配りは仕事でどのように大切なことなのでしょうか。またそのコツはどんなことなのでしょうか。

今野敏氏は、その作品の中で、部下と一緒に対応した他部署の人との会話を通じ、部下に対し、「気を使いすぎることはない」と断言し、気配りの大切さを紹介しています。

私も、若いときに仕えた上司が、よく気がつく人で、一時は、あまりの気配りに、なんでそこまでと、反感を覚えたことがありました。

しかし、自分が経営者となり、心して気をつかうことで、お客様との交渉がスムーズにいったり、リスクが緩和されたりしたことを経験し、かっての上司への反感を反省しました。

今回は、今野敏氏の作品と私の会社生活の経験から「仕事で気配りがいかに大切な事であるか、また、気配り上手になるコツ」について紹介します。

気を使いすぎることはない

小説「真贋」の舞台は、盗品の恐れのある高価な茶碗が展示される、あるデパートで開催された中国の陶磁器展です。

そして、主人公は、窃盗犯罪を担当する警視庁刑事部捜査第3課の萩尾刑事です。

その展示会では、南宋のある時期に製作され、国宝に指定されている「曜変天目」が展示されることになりました。

大物の故買屋が、その茶碗を盗み出し、国外に持ち出すことを考えているという噂が流れました。

茶碗を盗み出すことを防ぐため、デパート側では、警備会社を雇い、綿密な防犯対策を講じました。

それでも、盗み出されることを懸念する萩尾刑事は、所轄の刑事他と連携を取りながら「曜変天目」も盗み出しを防ぐとともに、それを国外に持ち出そうとする古買屋を逮捕しようと懸命の捜査を展開します。

その捜査の過程で、別の窃盗事件で逮捕した常習犯が、その茶碗を盗み出そうとしている人物と関係があることがわかりました。

萩尾刑事は、茶碗を盗み出そうとする犯人をあぶりだすため、その常習犯をあえて不起訴にし、自由にすることで、関係者と接触する機会を狙うことにしました。

せっかく逮捕した常習犯を不起訴にすることは、所轄の茂手木係長からすると、部下への示しもつかず、許せることではなく、萩尾刑事に対し強く抵抗しました。

しかし、国宝を盗ませるわけにはいかないと考える萩尾刑事は、茂手木係長を説得し、窃盗犯を不起訴に、その足取りを追い続けました。

その試みが成功し、窃盗犯に関わりのある人物を特定することができ、国宝の盗み出しを

未然に防ぎ、古買屋を逮捕することができました。

しかし、無理を押し通したことで、所轄の茂手木係長の顔に泥を塗ったと気にする萩尾刑事は、部下、秋穂刑事を連れ、茂手木係長のもとに、自分の行為を謝りに出かけました。

ここで紹介する一節は、その帰り道での、萩尾刑事と部下との会話です。

目黒署を出て、中目黒までのけっこうな距離を歩いた。秋晴れの気持ちのいい日だった。

秋になると、光と影のコントラストははっきりしてくる。萩尾はそれがなぜなのか、いつも不思議に思う。

秋穂が言った。

「茂手木係長、全然気にしていない様子でしたね」

「そういうふうに装っているだけじゃないのか。少なくとも、実際にダケ松(窃盗の常習犯)を挙げた部下たちはいろいろと言うだろう。それをなだめる役を茂手木に押しつけちまったんだ。いくら誤っても足りないくらいだ」

「萩尾さん、気のつかいすぎじゃないですかね。茂手木係長も言っていましたけど、みんな忙しいから、そんなに過去のことを気にしちゃいませんよ」

いくら気をつかっても、つかいすぎることはないよ。人間はたいてい、うっかり気をつかわないことで失敗するんだ。常に気配りをする人は失敗しない」

「それって、泥棒の話みたいですね」

「盗人稼業も人生も同じだよ」

「覚えておきます」

(今野敏著 真贋)

気配りによるリスクの未然防止

私がある建設現場に従事していたときの経験です。

その建設所の所長は、技術的にも優秀な人で、よく気が回ることでも有名な人でした。

あるとき、現場の工作物の事前審査で役所の検査が入ることになりました。その所長のもと、我々部下も一緒になり、その準備に追われる日が続き、当日を迎えました。

準備がよかったせいか、検査も合格し、我々担当者は胸をなでおろしていました。

所長も喜んでいると思い、所長室に「ご苦労様でした」と、挨拶に行ったところ、予想もしない叱責を受けました。

なぜ叱責を受けたのか、話を聞くまではその理由がわからず、ただ所長に対する反感がわくばかりでした。

そんな私の様子を見て、怒り顔の所長が私に、なぜ叱責したか説明を始めました。

当日の検査では、私が案内役となり検査官を誘導していました。ある個所に来たときに、検査官に仮設の梯子を上ってもらう必要がありました。私は、検査官よりも先に上がっては失礼と思い、検査官に先に上ってもらいました。

叱責の理由は、その行為が危険であるということでした。

昔、同じような検査で、検査官を先に行かせた、誤ってその検査官が穴に落ち、怪我をしたことがあったということでした。

「そのようなリスクを君は考えたか」と問われ、ひと言もなく「申し訳ありません」と返事をしました。

の先に、どのようなことが起こり得るか、現場を知らない検査官がどのような行動を取るか、あらゆることに気を配る必要のあることを学んだ経験でした。

気をつかうことの大切さを学んで以降、現場を見る目、人を案内する姿勢が変わっていったことを今でも覚えています。

また、その後の会社生活でもいろいろな場面で気配りをすることで、お客様の評価を得るなど、仕事がはかどったこともありました。

気配り上手になるためのコツ

人が気配りできるようになるためには、“視野を広げる”ことと“人の立場になって考える”ことが大切であると思っています。

(1) 視野を広げる

気づかいするためには、自分のとる行動が周りにどのような影響を及ぼすかを頭に描いてみる必要があります。その影響を短時間に考え、次の行動に移るためには、それまでに自分がたくわえた視野の広さが大切であると思います。

若い時の建設現場での、所長から叱責を受けた事例は、まさに私の視野の狭さを物語っているものだと思います。

(2) 人の立場になって考える

人に対し、気配りするためには、その人が何を言いたいのか、なにを自分にしてもらいたいのかを把握する必要があります。自分の勝手な思い込みで動いては、その人の思いを組むことはできません。

相手の話すこと、考えていることに耳を傾けるなど、謙虚な姿勢で対応することが必要と思っています。

今野氏の作品で紹介したように、無理を通したために、同僚の立場を悪くしてしまったことにしっかり思いが向くことで、お詫びするという次の行動が生まれ、その同僚との関係の悪化を防ぐことになったのだと思います。

まとめ

今野敏氏が書く、主人公萩尾刑事が部下に語った言葉「いくら気をつかってもつかいすぎってことはない」「うっかり気をつかわないことで失敗するんだ」。

これらの言葉は、いろいろな状況で我々が常に頭に置き、行動しなければならないことだと思います。

また、気をつかうためには、どれだけ、他人の気持ちを理解することができるか、周りの状況を把握できるかが大切だと思っています。

これらのことは、一時の訓練では身につくものではなく、常にそのことを意識した行動が必要と思っています。

訓練を日常のこととし、気配りすることで失敗を逃れ、成功につながることを願っています。